2013 Fiscal Year Research-status Report
凍結乾燥したウシ精子ならびに二倍体細胞からの胚盤胞作製システム
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24580407
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
保地 眞一 信州大学, 繊維学部, 教授 (10283243)
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Keywords | 凍結乾燥 / トレハロース / αヘモリジン / ウシ顆粒膜細胞 / ケーキコラプス / DNA損傷 / アルカリコメットアッセイ / クローン胚盤胞 |
Research Abstract |
平成25年度は、黄色ブドウ球菌由来αヘモリジン変異体を用いてトレハロース導入したウシ顆粒膜細胞の凍結乾燥耐性について報告する。 【目的】体内に多量のトレハロースを合成・蓄積することで極限乾燥環境下に適応しているネムリユスリカ幼虫のような生物が存在する。細胞膜上で7量体を形成して膜貫通型の孔を形成するαヘモリジンを用いれば二糖類のトレハロースを細胞内に導入することが可能で、さらに130~134アミノ酸残基をヒスチジンに置換した変異体 (H5) は亜鉛イオンの有無によって孔の開閉を制御できる。本実験では黄色ブドウ球菌ゲノム由来のヘモリジン変異体を作製し、トレハロースをウシ顆粒膜細胞内に導入したときの凍結乾燥耐性について調べた。【方法と結果】黄色ブドウ球菌ゲノム由来のαヘモリジン遺伝子をpET28-cプラスミドに組み込み、インバースPCRによってH5作出用のベクターを調製した。それをコンピテントセルに形質転換して大量培養し、発現誘導後にカラムクロマトグラフィーにより精製した。ウシ顆粒膜細胞におけるCalcein-AMの蛍光消失を指標にして、H5濃度は25 mg/L、作用時間は5分、0.5 Mトレハロース導入時間は30分、硫化亜鉛濃度は0.05 mMと定めた。トレハロース添加区の凍結乾燥ケーキにはコラプスは誘起されず、復水後の細胞の形態も正常に維持されていた。しかしアルカリコメットアッセイで調べた復水細胞におけるDNA損傷は、トレハロースの細胞内導入によって抑制できていなかった。【結論】トレハロースを細胞内に導入しただけではウシ顆粒膜細胞の凍結乾燥耐性を改善するには至らず、トレハロース合成開始をトリガーとして働くようになる「DNA損傷の修復機構」がより重要なのかもしれない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
細胞膜上で7量体を形成して膜貫通型の孔を形成するαヘモリジンを用いれば二糖類のトレハロースを細胞内に導入することが可能で、さらに130~134アミノ酸残基をヒスチジンに置換した変異体 (H5) は亜鉛イオンの有無によって孔の開閉を制御できる。黄色ブドウ球菌ゲノムをスタートにして、分子生物学的手法を駆使してこのタンパク質の獲得に見事に成功した。そしてウシ顆粒膜細胞の凍結乾燥耐性を改善すべく本精製タンパクの適用を試みたが、残念ながら期待したような改善効果は得られず、本格的な核移植実験によるクローン胚作製にステップアップできなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度は、凍結乾燥ウシ精子の発生能に及ぼすコラプスの影響について調べる予定である。【目的】精子の凍結保存に代わる保存方法として凍結乾燥が注目されているが、満足のいく発生成績が報告されている動物種は限られている。溶液の凍結濃縮相は、ある一定の温度 (最大凍結濃縮相ガラス転移温度:Tg’)でガラス状態に変化する。このTg’よりも高い温度で乾燥を行うと、凍結乾燥後に得られる多孔質の構造物 (凍結乾燥ケーキ) に「コラプス」と呼ばれる外見的な構造崩壊が生じやすい。これまでの精子の凍結乾燥研究においてコラプスの形成には特に注意が払われてこなかった。よって、ウシ精子の凍結乾燥ケーキに生じたコラプスが、復水ウシ精子を顕微授精 (ICSI) した後の発生能に及ぼす影響について調べることにする。【方法】示差走査熱量計 (DSC) を用いて測定した、10 mM Tris-HCl、50 mM EGTA、0.5 M トレハロースからなる凍結乾燥バッファーのTg’は、-28℃だった。凍結融解ウシ精子を同バッファーに懸濁し、予備凍結を行ったのちに-30℃、-15℃、または0℃に制御した凍結乾燥機中で6時間乾燥する。このとき、乾燥温度が凍結乾燥ケーキのコラプス発生に及ぼす影響をまず調べる。得られた凍結乾燥ケーキの乾燥度を調べるために含水率の重量測定およびガラス転移温度 (Tg) のDSC測定を行う。-20℃で一晩保存した精子をICSIに供して卵子活性化処理を施し、培養2日目の卵割率、ならびに培養8日後の胚盤胞発生率を求める。これにより、凍結乾燥ケーキのコラプス発生とウシ精子に対する乾燥ストレスとの関係を明らかにできる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本精製ヘモリジン標品がウシ顆粒膜細胞の凍結乾燥耐性を著しく改善しなかったことから、体細胞核移植によるクローン胚作製に向けてのステップに入れなかったため、次年度使用額が生じた。 平成26年度はウシ精子の凍結乾燥に関する研究の方が主体となるので、卵細胞質内精子顕微注入法によって胚盤胞作製を行うため、ウシ卵巣の購入に関する経費は平成26年度当初から必要となる。よって、その目的のために本残額(27万円)をまず投入し、その後は平成26年度直接経費予算(100万円)が続く限りそれを卵巣の購入に充てる。
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