2013 Fiscal Year Research-status Report
琉球在来豚アグー精子における精漿成分による耐凍能低下の生理学的解明
Project/Area Number |
24580412
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
建本 秀樹 琉球大学, 農学部, 教授 (70227114)
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Keywords | アグー精子 / 精漿 / カゼインナトリウム / 耐凍能 / 凍結保存 / 細胞障害 |
Research Abstract |
アグー精子では,精液輸送時に精漿への精子暴露時間が延長されることで凍結に対する抵抗性(耐凍能)が著しく低下する。我々は平成24年度の研究において,精液輸送用懸濁液(BTS)への0.5%スキムミルク添加が輸送時の精漿による精子耐凍能低下作用を抑制することを示した。そこで,平成25年度の研究では,スキムミルクに存在する全タンパク質の約80%を占め,精子細胞膜からのコレステロール流出を促進させるBSPタンパク質と結合することで精子細胞膜からのコレステロール流出を抑制するカゼインに注目し,アグー精液輸送用懸濁液へのカゼインナトリウム添加が凍結融解後の精子性状に及ぼす影響を調べた。 その結果,4個体中3個体では0.5%カゼイン処理区で,対照区に比較して正常な細胞膜を有する精子の割合と運動精子率が有意に増加した(p<0.05)。また,カゼイン処理区では凍結融解後のミトコンドリア正常性が改善された。さらに,カゼイン処理区における輸送後の精子細胞内コレステロール量は対照区に比べて高く保たれた。すなわち,精液輸送用懸濁液へのカゼインナトリウム添加による精子の耐凍能維持効果は,精漿による精子細胞膜からのコレステロール流出の抑制に起因すると考えられた。さらに,カゼイン処理によって融解後の精子性状に改善効果が見られた個体では,対照区に比較して精子性状を示す他のパラメーター(細胞内カスパーゼ活性の低下,DNA正常性の増加,細胞内ATP含有量増加,精子先体由来のタンパク質分解酵素活性の増加,およびIVFによる精子受精能力の向上)の有意(P<0.05)な改善も確認された。 以上の結果から,カゼインナトリウムを添加した精液輸送用懸濁液は,精液輸送時の精漿による精子耐凍能低下作用の抑制に効果的であり,凍結・融解後の精子性状を改善することが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究では,精液輸送用懸濁液へのスキムミルク添加による凍結融解後の精子性状への影響を調べた結果,精液輸送用懸濁液へのスキムミルク添加には個体差があるものの,輸送時における精漿による精子耐凍能の低下を防ぐ機序を介して,凍結処理過程におけるカスパーゼの活性化に伴ったアポトーシス様細胞死を抑制し,凍結・融解後の精子性状を改善させることを初めて明らかにした。 一方,平成25年度の研究結果から,スキムミルクの精液輸送用懸濁液への添加による輸送時の精子耐凍能維持作用は,スキムミルク中の主要成分であるカゼインによるものであり,カゼインは精子細胞膜からのコレステロール流出を抑制することで精子の耐凍能維持に関与していることが明らかになった。これらの結果は,他の哺乳類精子の液状保存においても,カゼインがスキムミルク中の精子保護作用を有する主要な因子だと云った報告と一致している(Batellier et al., 1997; 1998; Leboeuf et al., 2003; Pagl et al., 2006; Bergeron et al., 2007)。したがって,スキムミルクもしくはカゼインを添加した精液輸送用懸濁液は,良好なアグー凍結精子を作製する点において非常に有効であると結論された。また,これまでの本研究により精液輸送用懸濁液の改良がアグー精子の耐凍能維持に大きく貢献することが示された。すなわち,精漿による耐凍能低下を防いだ有用なアグー精液輸送用懸濁液を作成すると云った本研究を遂行するに当たって目標は,順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度と25年度の結果から,精液輸送用懸濁液へのスキムミルクもしくはカゼインナトリウム添加は,輸送時における精子細胞膜からのコレステロール流出を抑制する作用を介して精漿による耐凍能低下作用を抑制し凍結融解後の精子性状を改善することが明らかとなった。しかし,凍結融解後のミトコンドリア正常性や細胞膜正常性は50%程の値であり,その結果,融解直後の精子運動率が50%を越える個体は少なく,さらに融解後3時間に至っては精子運動性の著しい低下が観察される。これまでの当研究室での研究結果から推察するに,この原因に関わる要因としては,精液輸送時の精漿に暴露されている期間の細胞内酸化ストレスによる細胞障害が予想される。 当研究室では,以前,凍結用希釈液へのアスコルビン酸2-O-α-グルコシド(AA-2G)の添加が凍結融解後の精子性状を効果的に改善することを明らかにした(Yoshimoto et al., 2008)。しかし,予備試験の結果,細胞膜にアスコルビン酸トランスポーターを有さないブタ精子では,AA-2Gを精液輸送用懸濁液に加えても有益な結果は得られなかった。一方,近年になってブタ精子凍結時におけるTrolox(細胞浸透性の水溶性ビタミンE誘導体)の効果と,そのTrolox効果と精液分画との関連が指摘されている(Pene et al., 2003; 2004)。すなわち,凍結処理時だけでなく,精子が精漿に暴露されている凍結処理を開始するまでの精液輸送および保存時の細胞内酸化ストレスからの保護が凍結融解後の精子性状に対して大きく影響している可能性が推測される。しかし,その点について検討した報告は見当たらない。 そこで今後の研究では,アグー精液輸送用懸濁液ならびに精子凍結用希釈液へのTrolox添加の効果を調べ(2×2試験),精漿に暴露されている際ならびにその後の凍結処理時の細胞内酸化ストレスからの保護作用が凍結融解後の精子性状に如何に影響を及ぼすか否かについて検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度以降の,薬品保冷庫や冷凍庫の更新,もしくは分析に関わる高価な各種試薬類の購入費に使用するため。 薬品保冷庫ならびに冷凍庫の更新,もしくは分析に関わる高価な各種試薬類の購入を計画している。
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Research Products
(4 results)