2014 Fiscal Year Research-status Report
琉球在来豚アグー精子における精漿成分による耐凍能低下の生理学的解明
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24580412
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Research Institution | University of the Ryukyus |
Principal Investigator |
建本 秀樹 琉球大学, 農学部, 教授 (70227114)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アグー精子 / 精漿 / Trolox / 抗酸化能 / 脂質過酸化 / 凍結保存 / 酸化ストレス / 細胞障害 |
Outline of Annual Research Achievements |
これまでの当該研究で,精液輸送用懸濁液(BTS)への0.5%濃度のスキムミルクもしくはカゼインナトリウムの添加が輸送時の精漿による精子耐凍能低下作用を抑制することを示した。しかし,未だに凍結融解後の細胞膜正常性は50%程の値であり,この要因として精液輸送時の精漿に暴露されている期間の細胞内外からの酸化ストレスによる細胞障害が予想された。そこで,平成26年度の研究では,水溶性tocopherol誘導体である50 uM TroloxのBTSならびに精子凍結用希釈液(BF5)への添加が,凍結融解後のアグー精子性状を改善するか否かについて雄アグー4頭を用いて検討した。 まず,BTSで等倍希釈した精漿液の抗酸化能を測定した結果,O2--消去活性は全個体で比較的高かった(73-91%)が,ラジカル消去活性は極めて低く(4-38%),精子は輸送時にラジカルによる酸化ストレスを受けていると推察された。そして,TroloxをBTSに添加したBTS区やBTSとBF5の両液に添加したBTS+BF5区では,対照区に比べて凍結融解後の精子の脂質過酸化量とカスパーゼ活性が有意に減少し,特に,BTS+BF5区の細胞膜,DNAならびに先体の正常性を示す精子の割合は著しく増加した(p<0.05)。また,BTS+BF5区では,融解後の精子運動性とIVFによる精子侵入率も有意に増加した(p<0.05)。一方,凍結時にだけTrolox処理を行ったBF5区の凍結融解精子では,脂質過酸化の抑制程度が低く,DNA障害や精子運動性に対する明確な改善効果は示されなかった。 以上の結果から,凍結処理までの精液輸送時に受ける酸化ストレスからの抑制が良好なアグー凍結精子を作製する上において不可欠であるとの重要な結果が得られ,BTSとBF5の両液へのTrolox添加は凍結融解後のアグー精子性状の改善に有効であると結論された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24~25年度の研究において,精液輸送用懸濁液へのスキムミルク添加は輸送時における精漿による精子耐凍能の低下を防ぐ機序を介して,凍結・融解後の精子性状を改善させることを初めて明らかにした。そして,このスキムミルクの効果は,主要成分であるカゼインによるものであり,カゼインは精子細胞膜からのコレステロール流出を抑制することで精子の耐凍能維持に関与していることを追究した。 しかし,未だ凍結融解後のミトコンドリア正常性や細胞膜正常性は50%程の値であり,融解直後の精子運動率が50%を越える個体は少なかった。すなわち,凍結処理時だけでなく,精子が精漿に暴露されている精液輸送および保存時の細胞内外の酸化ストレスからの保護が凍結融解後の精子性状に大きく影響している可能性が予測されたが,その点について検討した報告は見当たらない。そこで,平成26年度の研究では,50 uM Trolox(細胞浸透性の水溶性tocopherol誘導体)のBTSならびにBF5への添加が,凍結融解後のアグー精子性状を改善するか否かについて検討した。その結果,アグー精漿液は比較的高いO2--消去活性を有していたが,ラジカル消去活性は極め低く,精液中の精子は輸送時にラジカルによる酸化ストレスを受けていることが確認された。そして,これまで全く注目されてこなかった凍結処理までの精液輸送時に受ける酸化ストレスからの保護が良好なアグー凍結精子を作製する上において不可欠であるとの重要な結果が得られた。すなわち,輸送用懸濁液と凍結用希釈液の両液へのTroloxの添加は,凍結融解後のアグー精子性状の改善に有効であると結論された。したがって,精液輸送時における精漿による耐凍能低下作用を抑制する事で良好なアグー凍結精子を作成すると云った本研究の目標は,順調に達成されていると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24~26年度の研究結を通して,1)精液輸送用懸濁液へのスキムミルクもしくはカゼイン添加は,輸送時における精漿による耐凍能低下作用を抑制すること,2)凍結処理までの精液輸送時に受ける酸化ストレスからのTrolox処理による保護が良好なアグー凍結精子を作製する上において不可欠であるとの成果が得られた。しかし,アスコルビン酸とは異なり細胞内へ容易に取り込まれるtocopherol誘導体のTroloxで処理しているにも関わらず,凍結融解後のミトコンドリア正常性は50%程の値であり,融解後3時間以上の精子運動性の低下が未だ十分には改善されていない。 そこで,ミトコンドリアに作用し機能を高めミトコンドリアを保護する物質を模索する必要があると考えL-carnitineに着目する。ミトコンドリアでの脂質のβ酸化に関わっているL-carnitineは,精巣上体尾部液中には高濃度に含まれているが,射精時に精漿液で希釈されてしまう。すなわち,精液輸送時の精子懸濁液中のL-carnitine濃度は,精巣上体尾部で保存状態にある精子に比較して著しく低下している。また,L-carnitineはラジカル消去活性を有しており,その作用によりミトコンドリアの保護に関与しているとの報告がある。さらに,最近,ヒト精子凍結時にL-carnitineによる精子性状改善効果が報告された(Banihani et al., 2014)。また,ウシ精子でもL-carnitineが細胞内浸透圧を正常に保つ作用を介して凍結融解後の精子性状を改善する結果が認められている(Setyawan et al., 2009)。しかし,これらの点についてブタ精子で検討した報告は見当たらない。 そこで今後の研究では,アグー精液輸送用懸濁液へのL-carnitine処理が凍結融解後の精子性状を改善するか否かについて検討する。
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Causes of Carryover |
次年度以降の,薬品保冷庫もしくは冷凍庫の更新,さらに,分析に関わる高価な各種試薬類の購入費に使用するため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
薬品保冷庫もしくは冷凍庫の更新,さらに,分析に関わる高価な各種試薬類の購入を計画している。
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Research Products
(2 results)