2012 Fiscal Year Research-status Report
ブタアディポネクチン遺伝子の多型で背脂肪厚の違いを説明する
Project/Area Number |
24580417
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
中島 郁世 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 畜産草地研究所畜産物研究領域, 主任研究員 (60355063)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ブタ / 背脂肪厚 / アディポネクチン |
Research Abstract |
本研究では、背脂肪の厚い梅山豚と薄いランドレースの2品種間でmRNA発現量差の見られたアディポネクチンにアミノ酸置換を伴う多型の存在があることに着目し、この差異がブタの背脂肪厚の違いをもたらす要因となっている可能性を明らかにすることを目的としている。アディポネクチンの遺伝子変異がアディポネクチンの高分子形成能に及ぼす影響を明らかにするためには、まず多様な分子形態を形成するアディポネクチンのタンパク質検出系を確立する必要がある。 そこで本年度は、ブタ2品種の血清、ブタ由来の脂肪細胞(PSPA)より調製したタンパク質画分およびブタのアディポネクチン標本を用いてウェスタンブロットを行った。抗アディポネクチン抗体(5社)を用いて試行したところブタ血清中のアディポネクチンを検出することはできなかった。アディポネクチンmRNAを十分に発現しているPSPA脂肪細胞の培養上清と細胞画分を調製し、同じ抗体を用いてウェスタンブロットを行ったがアディポネクチンのバンドを検出することはできなかった。ブタリコンビナントアディポネクチンに対しては2つの抗体が反応したが、血清中と同様のタンパク質量にするとバンドが検出されないことから、ブタのアディポネクチンを評価する上でヒト及びマウスを抗原とした市販のアディポネクチンではブタのアディポネクチンと交差性がないことが明らかになった。 一方、抗ブタアディポネクチン抗体がなくてもアディポネクチンの分子形態をウェスタンブロットで評価できるよう梅山豚型とランドレース型のアディポネクチンcDNAをpEGFP-N1、pIRES2-AcGFP1およびpCMV-DYKDDDDKベクターに組込みコンストラクトを作成した。HEK293細胞にプラスミドを導入し、タグ標識アディポネクチンの強制発現系を確立した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、遺伝的に背脂肪の厚い梅山豚と薄いランドレースの2品種間でmRNA発現量差が見られたアディポネクチンの多型に注目し、①ブタアディポネクチンタンパク質の分子形態検出系を確立する、②1アミノ酸置換がアディポネクチンタンパク質の分子形態に違いをもたらすかどうか明らかにする、③分子形態の異なるアディポネクチンの脂肪細胞に及ぼす影響を明らかにすることで両品種間の背脂肪厚(脂肪量)の違いを説明することを目的としている。 今年度は①のウェスタンブロット法を用いたブタアディポネクチンタンパク質の分子形態検出系の確立を目標としていたが、マウスおよびヒトのアディポネクチンの様々な領域を抗原とした市販のアディポネクチン抗体5製品の何れもがブタのタンパク質に応答せず、独自に抗体を作製する必要性に迫られ、①を達成するに至らなかった。その一方で、ブタアディポネクチンに対する抗体がなくても評価できるように②を前倒しで実施することで梅山豚型およびランドレース型のアディポネクチンプラスミドベクターに組み込みコンストラクトを作製し、HEK293細胞に導入してタグ結合アディポネクチンを強制発現する系を確立した。従って、達成度は「やや遅れている」状況にある。
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Strategy for Future Research Activity |
梅山豚とランドレース間で見られるアディポネクチンの多型がアディポネクチンの高分子多量体形成に影響を及ぼすかどうかを明らかにするためには、ブタアディポネクチンに応答するのみならず多様な分子形態の違いを認識する高品質な抗ブタアディポネクチン抗体が必須である。抗体が種間交差性を示すためにはアミノ酸配列レベルで9割以上のホモロジーが必要であるとされ、ブタとヒトおよびマウス間のアディポネクチンタンパク質の相同性はそれぞれ82.8%と80.2%であった。市販抗体を作製する上で抗原ペプチドとして利用されている部分領域のアミノ酸配列をブタのそれと比較しても何れもホモロジーは9割以下であった。そこで今後の研究の推進方策としてまず、ブタアディポネクチン由来の抗原ペプチドを設計し、独自にモノクロナール抗体を作成する。 また本年度、梅山豚型とランドレース型のアディポネクチンをHEK293細胞に強制発現させる培養系を確立したことから、タグ抗体を用いて多型の違いがアディポネクチンの多量体形成に影響を及ぼすかどうか明らかにする。さらに、多型がもたらすアディポネクチン分子形態の違いが、アディポネクチン受容体との結合に及ぼす影響および受容体を介したシグナル伝達作用への影響についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
市販の抗体を用いてブタのアディポネクチンタンパク質を検出することができなかったため、当初の計画通りにウェスタンブロットによるアディポネクチンの分子形態の検出をランドレースと梅山豚の血清サンプルを用いて実施することができず繰越額350,215円が発生するに至った。次年度は、この繰越額を主にブタアディポネクチンタンパク質が検出可能なモノクローナル抗体の作製費用に充てる。従って、マウスの購入、抗原ペプチドの設計・合成、マウスへの免疫、抗体価の確認、細胞融合によるハイブリドーマの作出、クローニング、抗体精製といったマウスモノクローナル抗体の作製に研究費を主に使用する予定である。また、培養細胞にアディポネクチン遺伝子を組み込んだプラスミドベクターを導入した強制発現試験を行うことから、細胞培養試薬、プラスミド導入試薬、タンパク質抽出、ウェスタンブロットによるタンパク質発現等の実験の試薬も購入する予定である。
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