2012 Fiscal Year Research-status Report
神経疾患におけるビタミンB12の機能とその治療法への適用
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24580428
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
竹中 重雄 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 准教授 (10280067)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ビタミンB12 / アデノシルB12 / SH-SY5 / GCMS / メチルマロン酸 / 神経細胞分化 |
Research Abstract |
ビタミンB12欠乏によってさまざまな神経疾患が生じること、また、ビタミンB12がアルツハイマー病を含めた様々な神経疾患に有効であることが報告されてきたが、その作用機作は不明である。そこで、ビタミンB12代謝に関わる遺伝子の発現抑制を用いた機能解析から、それらの解明を試みた。 ビタミンB12代謝遺伝子からCblB遺伝子(NM_052845)を標的としたRNAiベクターを作製した。作製したベクターを神経細胞由来培養細胞株SH-SY5に導入し、CblB遺伝子の発現抑制誘導株を作製した。ドキシサイクリンによるshRNA発現誘導によって、CblB遺伝子mRNA発現は約70%が抑制されることを確認した。CblB遺伝子の抑制によってミトコンドリアに局在するcob(I)yrinic acid a,c-diamide adenosyltransferase(アデノシルB12合成酵素)量が低下し、メチルマロニルCoAムターゼの補酵素であるアデノシルB12が減少すること、さらに、アデノシルB12を補酵素とするメチルマロニルCoAムターゼ活性が減少によるメチルマロニルCoA代謝活性の低下に伴うメチルマロン酸の蓄積が期待された。しかし、GCMS分析の結果、メチルマロン酸の蓄積を確認することが出来なかった。 SH-SY5細胞はレチノイン酸の添加によって、樹状突起を有する神経細胞様形態に分化する。そこで、CblB遺伝子RNAi細胞にレチノイン酸を添加し、分化に及ぼすRNAiの影響を検討した結果、約80%の細胞において分化が認められなかった。このことはCblB遺伝子がSH-SY5細胞の分化に重要な役割を果たすことを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画ではB12代謝に関わる複数の遺伝子抑制系を構築することを目的としていたが、細胞への影響を考慮し、ミトコンドリアに局在する酵素の遺伝子CblBを先行してきた。その結果、SH-SY5細胞にCblB遺伝子RNAiベクターを導入し、CblB遺伝子発現抑制細胞の作製に成功し、そのRNAiによって神経細胞様形態への分化が抑制されることを明らかにした。この結果はビタミンB12代謝によって引き起こされる様々な神経疾患を説明する基盤的知見である。しかしながら、CblB遺伝子発現抑制によって期待される代謝障害であるメチルマロン酸の蓄積が極僅かであったことは作業仮説と異なるものであった。即ち、ビタミンB12代謝の障害によって蓄積されるメチルマロン酸の毒性が細胞に影響を与えるとしてきたこれまでの学説とは異なることが示唆された。よって、計画の当初の目的であるビタミンB12代謝の神経疾患への影響を検証する細胞系の構築が可能であることを示したものである。よって、RNAi細胞を複数種作製する計画は途上にあるが、次年度以降に計画していた機能解析の一部を先行実施することが出来た。
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Strategy for Future Research Activity |
ビタミンB12代謝酵素遺伝子CblBの遺伝子産物はミトコンドリアに局在するアデノシルB12合成酵素であり、その障害はメチルマロン酸尿症を発症するとされいてる。その発現抑制株を用いたin vitro実験から、ビタミンB12代謝の維持が神経細胞の分化に重要であることを示唆する結果を得た。しかしながら、メチルマロン酸蓄積はほとんど見られなかったことから、これまでの学説にあるメチルマロン酸の細胞毒性から説明することが出来ない。そこで、実験計画にあるようにCblB遺伝子発現抑制株においては、その代謝的変動をより明確にするためのメタボロミクスアプローチを実施する。GCMSを用いたメタボロミクスアプローチは検討を開始している。それに加えて、CblB遺伝子産物であるアデノシルB12合成酵素はミトコンドリアに局在することから、ミトコンドリア機能への影響の検討も課題である。特にエネルギー代謝と活性酸素産生にに対する影響を検討したい。 一方、ビタミンB12代謝異常によって蓄積されるもう一つの代謝物がホモシステインであり、そのモデル細胞はCblE遺伝子の抑制によって作成可能であると考えられる。また、メチルマロン酸とホモシステインの両方を蓄積するモデル細胞はCblCまたはCblF遺伝子の抑制によって得られると考えられる。そこで、それらのRNAiベクターの作製とSH-SY5に導入し、その細胞分化への影響、メタボロミクス実験からビタミンB12代謝と神経疾患の関連性を検証する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
24年度中にCblB遺伝子抑制のためのRNAiベクターの作製からメタボロミクス実験に求められる基本的な技術的要件を整えた。25年度にはCblB遺伝子RNAi細胞のメタボロミクス実験とミトコンドリア機能への影響解析を行う。新たに計画に加える細胞機能解析ではミトコンドリア蛍光プローブや活性酸素指示蛍光プローブを用いた手法によってCblB遺伝子RNAiのミトコンドリア機能への影響を解明したい。さらに、今年度に新たに製作するCblC, CblEとCblFビタミンB12代謝遺伝子抑制モデル細胞、さらにはそれらのメタボロミクス解析、細胞機能解析の実施を予定している。また、計画にあるニューロスフェア細胞の培養を開始し、その形質転換系の構築を試みたい。
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