2012 Fiscal Year Research-status Report
ボツリヌス毒素の吸収に寄与する小腸上皮細胞の新規シグナル伝達機構の解明
Project/Area Number |
24580432
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture |
Principal Investigator |
丹羽 光一 東京農業大学, 生物産業学部, 教授 (20301012)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ボツリヌス毒素 / 小腸上皮細胞 / 家畜ボツリヌス症 / トランスサイトーシス / MAPキナーゼ |
Research Abstract |
本研究ではボツリヌス毒素の小腸上皮の透過経路とその経路を制御する細胞内シグナルを明らかにすることを目的としている。H24年度は、D型ボツリヌス毒素が小腸上皮細胞層を通過する際、細胞内と細胞間隙の両者を利用しているか否かを主に検討した。 ボツリヌス毒素を蛍光色素Cye3で標識し、トランスウェルに播種したラット小腸上皮細胞(IEC-6)に4℃で毒素を添加し結合させた。37℃でインキュベーションして経時的に共焦点顕微鏡で観察したところ、毒素が細胞内を透過していることが観察された。また、トランンスウェルに播種したIEC-6に毒素を添加し蛍光色素FITCで標識されたデキストランの透過量を測定したところ、経時的にデキストランの透過量が増加したことから、D型ボツリヌス毒素が細胞間隙を拡張させる機能を持つことが分かった。以上の結果から、D型ボツリヌス毒素は細胞内と細胞間隙の両方の経路を通って細胞層を透過することが示唆された。細胞内透過経路を検討した予備的な結果を学会発表した。 次にボツリヌス毒素が細胞間隙を拡張させる細胞内機序を検討した。ボツリヌス毒素はIEC-6の2種類のMAPキナーゼ;ERKとp38を活性化させた。これらのMAPキナーゼが細胞間隙の拡張に寄与するか否かを阻害剤を用いて検討した。ボツリヌス毒素による細胞間隙の拡張すなわちFITCデキストランの透過量の増加は、ERK阻害剤であるPD98059により影響を受けなかったが、 p38 阻害剤であるSB203580によって抑制された。このことから、ボツリヌス毒素はp38を活性化することで細胞間隙を拡張させることが示唆された。これらの結果はD型ボツリヌス毒素の体内侵入機序を明らかにする上で重要な知見であり、英語論文として発表準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度は、ボツリヌス毒素が小腸上皮細胞層を透過する経路を明らかにするために、まず細胞内を毒素が透過する様子を可視化すること、および毒素を添加した際の細胞間隙の拡張の度合いを測定することが必要であった。 毒素の精製法や細胞培養技術は既に確立されていたため、これらの検証はスムーズに進み、ボツリヌス毒素が細胞内、細胞間隙両者を通過することが証明できた。また、毒素が細胞間隙を拡張する際の細胞内分子機構は平成25年度に実施する予定であったが、本年度この検討を行ったところ、p38が調節分子であることを見出すことができた。しかし、本年度予定していた、細胞内の毒素透過に寄与する分子の同定は予備的実験に終わり、詳細な機序については予定通り解析できなかった。 以上のことから、全体としては最初に計画していた速度で研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度は、平成25年度に実施する予定であった細胞間隙の拡張に寄与する細胞内分子の同定について結果を得ることができた。しかし、平成24年度に予定していた、細胞内の毒素透過に寄与する分子の同定は予定通り進まなかった。 そこで、平成25年度は毒素の細胞内透過経路、すなわちトランスサイトーシスの制御機構を重点的に調査する。毒素を蛍光ラベルすることで、毒素の細胞内の経時的な移動を可視化すること方法は確立している。この系を用いて、細胞内輸送の阻害剤が毒素の輸送に及ぼす影響の解析、および小胞輸送に関与するカベオリンやクラスリンなどのタンパクの免疫組織染色を行い、毒素の輸送経路と制御分子を明らかにしていく。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は培養細胞とボツリヌス毒素を用いた実験が中心となっている。そこで、ボツリヌス菌培養のための培養試薬、毒素精製のためのHPLC関連の消耗品、細胞培養のための培養液や培養ディッシュなどは、前年度と同様の使用頻度となり、消耗品の半分程度を占める。平成25年度は前述のとおり細胞内輸送経路を明らかにする研究を重点的に行うため、阻害剤、および免疫組織化学用の抗体が残りの半分を占める。 その他は、平成24年度に得られた成果および平成25年度新たに得られた成果を論文発表するための英文校閲や投稿料、および学会発表するための旅費としての使用を予定している。
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