2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24580455
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
Principal Investigator |
筒井 俊之 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, 動物衛生研究所ウイルス・疫学研究領域, 上席研究員 (70391448)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 家畜疾病防疫 |
Research Abstract |
本年度は、家畜疾病発生時の危機管理対応に有用な軍事学の学問領域を特定するため、関連資料の網羅的な調査・分析を行った。また、防疫理論検討の視座を明確にするため、口蹄疫等の防疫の実施主体となる各機関の役割を定義した上で、それぞれの役割毎に対応する軍事学上の理論を分析した。 軍事学の学問体系では、軍事学が扱う社会科学領域を軍事力の建設・維持・育成、軍事力の運用、リーダーシップの3つに分類している。このうち、防疫の実行に相当する分野は、戦術・戦略など軍事力の運用に関わる分野であり、古典的な用兵学から近年の意思決定理論など様々な研究が蓄積されている。また、特殊環境下の集団行動を扱うリーダーシップも軍事学では特に重要視され、多くの指針や方法論が示されている。これらの分野を本研究の対象範囲として今後詳細な検討を行うこととした。 軍事学上の戦略や戦術が対象とする戦域規模や内容を考慮して、防疫における国や地方自治体の各機関の役割を軍事学上の戦略・戦術の分類に当てはめた。これにより、それぞれを対比しながら分析することが可能となった。国は防疫方針として疾病対策の大枠の決定を行う。これは軍事学における軍事戦略に当たり、陸海空それぞれの分野で理論が発達している。これらの理論の直接的応用は困難であるが、方針決定過程を検証する際の参考になるものと考えられた。地方自治体が行う疾病対策の立案・実行は野外の変化する状況の中で適切に決定されなければならない。これは軍事学の作戦と戦術に相当し、いくつかの意思決定理論が考案されており、これらの理論は疾病対策に応用できる可能性があると考えられた。 実際の危機管理対応事例として、2001年に英国で発生した口蹄疫の検証報告書を分析した。国と地方自治体がそれぞれの立場から多くがとりまとめられており、情報管理、マニュアルの整備、訓練不足など多くの危機管理上の問題が指摘されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
軍事学の対象領域は、自然科学や社会科学の広い範囲を含むため、まず最初に本研究で扱う分野を明確にすることが重要と考えられた。軍事関係の専門書や資料を広範囲に分析することにより、家畜疾病発生時の危機管理対応に応用可能な領域を特定することができた。また、家畜防疫の実施主体である国や都道府県の機関の役割分担を明確にし、それぞれに対応する戦略・戦術概念を特定し、区分して検討することにより、軍事学上の理論の応用の可能性を明らかにすることができた。実際の研究活動においては、防衛大学総合情報図書館を訪問して各種資料を調査するとともに、高病原性鳥インフルエンザが発生した島根県を訪問し、家畜疾病防疫を担当する家畜保健衛生所の職員から防疫に関する話を聞くことができた。 英国の口蹄疫に関しては、4つの地方自治体からの検証報告書を入手するとともに、英国政府や独立機関が発表した多くの報告書を入手し、口蹄疫発生時の対応の問題点や改善点について、理解することができた。 研究開始当初は軍事学の対象が幅広い範囲に及び、その資料を網羅的に収集・調査したため、方向性を見出すことに苦労したが、家畜防疫の実施主体の役割毎に概念整理をすることにより、体系的な分析を行うことが可能となった。これまでのところ、当初の計画通り研究が進捗している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に絞り込んだ軍事学上の学問領域、特に意思決定やロジスティックを扱う軍事・戦略理論に関する分析を進め、家畜防疫の実施主体である国や都道府県の役割を踏まえた明確な視点に基づき、家畜疾病防疫に応用可能な理論の整理を行う。この場合、実際に家畜の伝染病防疫に携わった関係者の意見を聴取し、整理する際の参考とする。これらの整理に基づいて、口蹄疫等の発生時の様々な防疫措置の選択に必要な意思決定理論の構築をいくつか試みる。また、本年度の分析で組織としての危機管理対応の成否に深く関わることが明かとなったリーダーシップ論についても、家畜疾病発生時の効果的な危機管理対応を行うための不可欠の要素として、その内容の精査と分析を行い、家畜疾病防疫への理論的応用を試みる。 さらに、本年度実施した口蹄疫の発生事例の検討に加え、鳥インフルエンザの発生事例や危機管理対応事例について情報を収集する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
該当無し
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Research Products
(1 results)