2013 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24580455
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
筒井 俊之 独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構, ウイルス・疫学研究領域, 領域長 (70391448)
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Keywords | 家畜防疫 |
Research Abstract |
昨年度は軍事上の戦略・戦術の階層構造に着目し、家畜防疫の実施主体である国や都道府県の役割を明確にした。本年度は、さらに家畜伝染病の防疫活動の報告書などを分析し、疾病の流行状況、防疫組織の整備状況、緊急防疫体制、関係者の意見など防疫における意思決定に影響を与える要因を抽出・分類することにより、防疫理論構築のための影響要因を類型化した。影響要因は、外的要因、中間的要因、内的要因の3つに区分することが可能であり、外的要因は病原体の特性や家畜の地理的分布などが含まれ、防疫担当者が制御できないものとして分類した。中間的要因には、業界団体や政治家の意向などがあり、防疫担当者では制御が難しいものの、より高いレベルの権限を持った意思決定者には制御できる要因とした。また、防疫体制の整備構築などは防疫担当者が制御可能な内的要因に区分できた。これらの要因と戦略上の階層構造を組み合わせることにより、防疫理論体系化の土台構築が可能と考えられた。 なお、軍事分野において危機管理上のリーダーシップ理論が発展しているが、通常時の活動規範も含まれる点においては、家畜防疫では経営で論じられているリーダシップ理論の方が参考になると考えられた。 防疫戦略の理論化を検討するため、限られた人的資源を用いて最も効果的に口蹄疫のまん延防止が可能となるような資源配分方法について簡単なモデルを用いて検討した。具体的には、牛を飼養する非感染農場周辺に5戸の感染農場(様々な規模の牛及び豚農場)があったと仮定し、これらの感染農場での殺処分の実施状況が、非感染農場への口蹄疫伝播確率に及ぼす影響を評価した。その結果、殺処分を実施する順番の選択によって非感染農場への伝播確率が変わらことが明らかとなった。これにより、口蹄疫のように動物種間で伝播確率が異なる疾病の場合、防疫戦略がまん延防止の効果に影響することが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
口蹄疫、豚コレラなどの発生時の対策等に関する資料の分析を進め、防疫対策の決定に与える要因を類型化することができた。これにより、防疫対策を決定する上で考慮すべき事項の整理が可能となり、軍事学上の意思決定範囲の階層構造と併せることにより、家畜防疫上の意思決定理論構築の足がかりができたと考えている。また、モデルを用いて試行的に理論の妥当性を検証することができたことも、今後いくつかの理論仮説の検証作業を進める上で重要なステップとなった。 過去の発生事例の分析において、口蹄疫については多くの検証報告があり、資料収集は容易であったが、鳥インフルエンザについては清浄国において発生・封じ込めを実施した危機管理事例の報告が少なく、十分な分析ができていない。このため、理論の一般化の過程において鳥インフルエンザの扱いをどのようにするかを今後検討する必要がある。 なお、本研究で得られた防疫理論に関する情報や成果は都道府県の防疫担当者を集めた研修会や講習会で発表し、防疫活動の一助となるよう還元している。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は研究の最終年度であり、これまでに確立した分析上の視点に基づいて、これまでに収集した情報をとりまとめ、口蹄疫などの家畜伝染病防疫のための理論の体系化を試みる。具体的には、あらかじめ設定したいくつかの防疫理論の仮説について、過去の事例を用いて、防疫戦略・戦術担当者の権限と範囲から規定される階層毎に、意思決定に与えた様々な要因の影響を評価し、防疫対策の結果からその妥当性を検証する。これら理論的仮説の取捨選択や精緻化のプロセスを経て、防疫対策決定のための理論の一般化を行う。また、一般化された理論について防疫関係者と意見交換等を通じて妥当化を図る。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
他の研究活動や行政関連の業務を通じて多くの都道府県の関係者から防疫活動に関する情報を得ることができたため、訪問して聞き取り調査を行う必要が生じなかった。このため、旅費を使用することがなかった。 今年度は家畜伝染病の防疫に関してさらなる情報分析が必要となるため、昨年度に生じた差額も含めて情報収集のための人件費に多くを充当することを予定している。また、書籍・資料や情報分析関連の消耗品の購入、成果発表や意見交換のための旅費、成果とりまとめの製本代などとしても支出する予定である。
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