2012 Fiscal Year Research-status Report
交感神経β受容体を介したアルドステロン調節メカニズムの解析
Project/Area Number |
24580463
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
堀 泰智 北里大学, 獣医学部, 講師 (20406896)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 獣医学 / 循環器 / アルドステロン / 線維化 |
Research Abstract |
交感神経受容体刺激は心筋線維化を誘導することが知られている。また、近年では交感神経刺激は腎臓や副腎を介して全身的にレニン・アンギオテンシン・アルドステロン(RAA)系を調節している可能性が示唆されており、両者の相互調節は心不全進展の重要な因子と考えられている。しかし、交感神経受容体刺激を介した心臓局所におけるRAA系の調節機序は未だ未解明である。本研究ではアルドステロン受容体阻害を通した心不全治療の発展を目的とし、①ラット心臓線維芽細胞における交感神経受容体刺激を介した直接的なアルドステロン産生機序の解明、②アルドステロン受容体阻害を介した心筋線維化の抑制機序の解析を行うことを目的として研究申請した。 平成24年度には、PCR法を用いてラットの左心室ならびに心臓線維芽細胞におけるRAA系の遺伝子発現解析を行った。Reverse Transcription-PCR法を用いた解析では、ラットの左心室ならびに心臓線維芽細胞におけるレニンmRNAとCYP11-B2mRNAの発現は認められなかったが、アンギオテンシン変換酵素のmRNA発現が確認された。また、ラット左心室ならびに初代分離培養した心臓線維芽細胞において、交感神経受容体刺激を介したRAA系の発現調節を精査したところ、交感神経作動薬(Isoproterenol, 10-5M, 24h)は培養液中のアルドステロン濃度を変化させなかった。一方、交感神経作動薬(Isoproterenol, 2.0mg/kg/day, 3日間)を腹腔内投与した心不全モデルラットの左心室において、I型コラーゲンmRNAならびにアンギオテンシン変換酵素mRNAの発現量は正常ラットと比較して顕著に増加していることを確認した。これらの結果は、心臓における局所的なアンギオテンシン産生系の存在と交感神経刺激を介したアンギオテンシンの調節機序の存在を示唆している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究目標では、ラット心臓線維芽細胞を初代分離・培養し、交感神経受容体を刺激した心臓線維芽細胞において培養液中のアルドステロン濃度の変化を精査することであった。平成24年度にはラットの心臓線維芽細胞の初代分離培養法を確立することができ、アルドステロン測定のためのELISA法も習得することができたことから、技術面での研究目標は達成できたと考えている。 一方、研究成果においては期待した結果は得られなかった。本研究の予備実験においては心臓線維芽細胞におけるCYP11-B2の蛋白発現を確認し、交感神経受容体刺激を介して上清中のアルドステロン濃度が増加することを確認していた。しかし、平成24年度に実施した研究結果では予備実験のように上清中のアルドステロンを検出することができなかった。このことから当初の計画を変更する必要が生じ、RAA系の主要関連因子であるレニン・アンジオテンシン変換酵素・CYP11-B2の遺伝子発現の局在を詳細に精査した。 研究成果では、心臓ならびに心臓線維芽細胞においてアンギオテンシン変換酵素の遺伝子発現が確認された。また、交感神経作動薬を腹腔内投与した心不全モデルラットの左心室において、I型コラーゲンmRNA・アンギオテンシン変換酵素mRNAの発現量は顕著に増加していた。 RAA系において、アンギオテンシン変換酵素はアンギオテンシンIIを産生し、副腎でのアルドステロン産生を刺激することから、交感神経受容体を介したRAA系の調節機序を解明する上で重要な因子であると考えられる。本研究の当初計画ではRAA系の下流であるCYP11-B2をターゲットに挙げていたが、アンギオテンシン変換酵素にターゲットを変更することで、交感神経受容体刺激を介したRAA系の調節機序の解明に向けた平成24年度の目標はおおむね達成することができたと判断している。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究の予備実験においては、心臓線維芽細胞におけるCYP11-B2の蛋白発現を確認しており、交感神経受容体刺激を介して上清中のアルドステロン濃度が増加することを確認していた。しかし、平成24年度に実施した研究結果では予備実験のように心臓線維芽細胞においてアルドステロン合成を確認することができず、さらに左心室ならびに心臓線維芽細胞におけるCYP11-B2の遺伝子発現も確認されなかった。 このことから当初の予定を変更する必要が生じ、RAA系の局在を精査し直したところ、左心室ならびに心臓線維芽細胞におけるアンギオテンシン変換酵素の遺伝子発現を確認することができた。さらに、in vivo研究において左心室での交感神経刺激を介したアンギオテンシン変換酵素の遺伝子発現増加を確認することができた。 これらのことから今後は、本研究の当初計画で挙げていたターゲットを変更する必要があると考える。当初はRAA系の下流にあるCYP11-B2をターゲットにしていたが、CYP11-B2の上流にあるアンギオテンシン変換酵素にターゲットを変更し、交感神経受容体を介したRAA系の発現調節機序の解明を推進する。 平成25年度では、ラットの左心室におけるアンギオテンシン変換酵素の蛋白発現を確認すると共に、ELISA法を用いてアンギオテンシン変換酵素活性を解析する。さらに、平成24年度に確立した心臓線維芽細胞の初代分離培養法を用い、in vitroでの交感神経受容体刺激を介したアンギオテンシン変換酵素の遺伝子・蛋白発現ならびに活性レベルを精査する。 本研究を通して心臓線維芽細胞における交感神経受容体を介したアンギオテンシン変換酵素の発現・活性調節に関わる機序を解明することで、当初の計画にあった交感神経受容体を介したRAA系の調節機序ならびに新たな心不全治療の発展に向けた基礎的情報を収集することが可能になると確信している。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究の特徴として、細胞培養ならびに遺伝子・タンパク質の発現レベルの解析が研究の中心であるが、本研究室ではこれまでに細胞培養、PCR、ウェスタンブロットに必要な大型機器の準備・設置は完了しており、研究費に占める支出は細胞培養に関連した消耗品、PCR関連試薬、ウェスタンブロット関連試薬が中心となる。平成24年度の研究費の使用実績では直接経費として1,400,000円が利用可能であったが、その中で前述の消耗品の占める割合は87%であった。 平成25年度には、細胞培養に関連した培養液、カルチャーフラスコ、ピペットなどの消耗品を購入する必要がある。PCRに関連する試薬ではRNA抽出ならびにcDNA合成にかかる試薬類を購入する予定である。ウェスタンブロットに関連する試薬としては個々の蛋白検出に必要な1次抗体が高額(1種類につき50,000~70,000円)であり、1次抗体は数種類を購入する必要がある。 平成25年度には上述の試薬・消耗品を購入し、研究計画に挙げた研究を遂行する。
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