2013 Fiscal Year Research-status Report
コルチゾール分泌抑制薬が犬下垂体腺腫細胞増殖能に及ぼす影響の検討
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24580466
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Research Institution | Nippon Veterinary and Life Science University |
Principal Investigator |
原 康 日本獣医生命科学大学, 獣医学部, 教授 (00228628)
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Keywords | コルチゾール分泌抑制薬 |
Research Abstract |
Cushing病罹患犬に対してop'-DDDやトリロスタンなどの薬剤によって、副腎皮質におけるコルチゾール産生・分泌を抑制する内科的治療が主に行われており、その有用性に関して多数報告されている。しかし、コルチゾール分泌を抑制することで、下垂体ACTH産生腺腫の成長を助長する危険性が示唆されているが未だ明確な見解は出されていない。よって本年度は日本獣医生命科学大学付属動物医療センターに来院し、Cushing病と診断された症例のうち、経蝶経骨下垂体切除術による外科的治療が行われた3症例のACTH産生腺腫サンプルの培養細胞を使用して、CRHが犬のACTH産生腺腫の増殖能に対する影響を検討した。増殖中のACTH産生細胞を検出するため、EdUによる化学的標識およびACTHの蛍光免疫学的標識を実施し、CRH添加によるEdU陽性かつACTH陽性細胞数およびACTH陽性細胞数を計測した。今後症例数を増やして更なる検討が必要であるが、CRH5nMの添加によりACTH産生細胞の増殖能に増加傾向が認められ、これはAntalarmin1μMの添加で阻害される傾向が認められた。マウス下垂体ACTH産生腺癌由来細胞株であるAtT20においても、CRHがその増殖を促進させることが報告されており、本検討結果の正当性を裏付けるものと考えられた。加えてCRHreceptor1阻害薬であるAntalarminの添加によってCRHにより増加したACTH産生腺腫細胞の増殖活性が低下傾向を示したことから、CRHによる増殖活性化作用はCRHR1を介することが示唆された。 また、Cortisolを10nM, 100nM添加した場合増殖率に変化が認められなかったことから、これはCushing病罹患犬の特徴であるグルココルチコイド抵抗性の増大と合致するものと考えられた。 これより、Cushing病に対するトリロスタンを使用した治療によるCRHの分泌促進によりACTH産生腺腫の増大が刺激される(Nelson症候群)可能性が示唆された。 今後さらに症例数を増やして検討を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度の検討より、コルチゾール分泌抑制薬であるトリロスタンの投与により脳脊髄液中のCRH濃度が上昇し、in vitroにおいてCRHが犬下垂体のACTH産生細胞の増殖を活性化することが明らかとなった。すなわち下垂体前葉ACTH産生細胞の肥大および過形成に伴った下垂体の腫大は、視床下部のCRH分泌能の亢進に起因することが示唆された。 昨年度の実験を踏まえ、本年度は犬のACTH産生腺腫細胞においてもCRHがACTH産生細胞の増殖を促し、下垂体腫大に影響を与えるかを検討した。 その結果、犬のACTH産生腺腫細胞においてもCRHが細胞増殖を促す傾向が認められ、これはCRHreceptor1阻害薬であるAntalarminにより抑制された。この結果は現在日本で主流で行われているコルチゾール分泌抑制薬による犬のCushing病の治療により、ACTH産生腺腫の増殖が促される可能性を示している。さらに、これはCRHR1阻害剤の投与により抑制することが出来る可能性が示唆された。しかしながら、今後症例数を増やして検討を行う必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の検討により、CRHが犬のACTH産生腺腫の細胞増殖能を増加させる傾向が認められた。来年度はさらに症例数を増やして検討を行っていく予定である。 また、来年度は犬のACTH産生腺腫およびトリロスタン投与により実験的に過形成を起こした下垂体におけるACTH産生能の亢進に対する分子生物学的機序の解明を検討に加える予定である。 特にマウスACTH産生性下垂体腺癌細胞由来のAtT20を用いた検討よりACTH産生および腫瘍増殖能を抑制する作用を有するBMP4に着目して検討を行う。BMP4が属するTGFΒスーパーファミリーは内分泌機能の調節や腫瘍の増殖あるいは抑制に関与していることが多数報告されている。AtT20においてBMP4はSmadシグナルを介してTpitおよびPitXを抑制しPOMCの転写を抑制する。またSmadシグナルのドミナントネガティブ変異がAtT20の増殖を促進することが報告されている。さらにBMP4はヒトのACTH産生腺腫において発現が低下していることが報告されている。 そこで、来年度は健常成犬および犬のACTH産生腺腫、トリロスタンの投与により実験的に作出した下垂体過形成モデル犬を用いて、犬のACTH過剰産生状態におけるBMP4-Smadシグナルの発現を検討し、さらに下垂体の初代培養細胞を用いたBMP4の犬の下垂体における内分泌調節機能を検討する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の検討は臨床症例のサンプルを使用しており、想定されたサンプル数を下回ったため。 Cushing病の治療としてヒトでは経蝶形洞手術による下垂体切除が第一選択の治療となっているが、犬では大多数の症例がコルチゾール分泌抑制薬であるトリロスタンの投与による対症療法を受けており、下垂体切除による外科治療を受ける症例のサンプルは貴重であるため。 来年度はさらに臨床症例のサンプル数を増やして検討に使用していく予定である。 さらに、犬の下垂体におけるACTH産生亢進における分子生物学的機序の解明も検討に加える。分子生物学的機序の解明の中では、特にマウスACTH産生下垂体腺癌由来細胞であるAtT20においてACTHの分泌を抑制することが明らかとなっているBMP4に着目して検討を行う。Cushing病に関するBMP4の作用に関する報告は多いが、犬におけるデータは存在しない。よって健常成犬、ACTH産生腺腫、およびトリロスタンの投与により実験的に作出した下垂体過形成モデル犬を用いて犬におけるBMP4-SmadシグナルのACTH産生に関する検討を実施する予定である。
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Research Products
(2 results)