2012 Fiscal Year Research-status Report
大気中の二酸化窒素による植物バイタリゼーション原因遺伝子の共発現解析とその解明
Project/Area Number |
24580477
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 美佐 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10294513)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 二酸化窒素 / シロイヌナズナ / 植物バイタリゼーション / 生長促進 / 細胞拡大 |
Research Abstract |
本研究は、申請者の見出した二酸化窒素(NO2)の植物成長促進作用(バイタリゼーション)について、新規遺伝子VITA1の共発現遺伝子等について、代謝マップにマッピングして関連代謝経路を推定して、NO2の植物成長作用の全体像の解明を目指す。一般に遺伝子発現は、植物葉の成長段階、細胞の発達段階で変動するので、NO2効果の解析には、植物葉齢と細胞の発達段階との関係についての正確な把握が必須である。本年度はまず、50 ppb NO2を含む空気中(+NO2植物)、またはNO2を含まない空気中(-NO2植物)で栽培した野生株について詳細な成長解析を行った。+NO2植物および-NO2植物の第8葉の葉面積、細胞サイズ、細胞数について経時的(17~35日齢)に解析した。その結果、+NO2植物では17~21日齢が増殖期、21~27日齢が細胞拡大期であった。-NO2植物では17~23日齢が増殖期、23~27日齢が細胞拡大期であった。23日齢までは葉面積、細胞サイズ、細胞数すべてが+NO2植物>-NO2植物であった。それ以降は、葉面積および細胞サイズは+NO2植物>-NO2植物であったが、細胞数は+NO2植物と-NO2植物でほぼ同じであった。VITA1遺伝子の発現量(mRNA蓄積量)は、増殖期(17―21日齢)では-NO2植物、+NO2植物共に比較的強く発現しており、両者に有意差が観られなかった。しかし、細胞拡大期(23日齢以降)を通して、発現量は比較的安定で常に有意に+NO2植物>-NO2植物であった。+NO2植物では23日齢以降も高い発現量(23日齢以前の発現量に匹敵する)が維持されることが分かった。以上の結果から、VITA1はNO2で誘導される細胞拡大遺伝子またはその制御遺伝子であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度ではまず、植物葉齢と細胞発達段階の関係について、+NO2植物と-NO2植物の第8葉を用いて時系列(17~35日齢)に従って解析し、その結果、+NO2植物では17~21日齢が増殖期、21~27日齢が細胞拡大期であり、-NO2植物では17~23日齢が増殖期、23~27日齢が細胞拡大期であることを初めて明らかにした。すなわち、両植物には、植物葉齢と細胞発達段階が2日程度のずれがあることが判明した。 また、定量的リアルタイムPCRにより、+NO2植物および-NO2植物の第8葉におけるVITA1発現量(mRNA蓄積量)ならびにVITA1の発現と密に関係する細胞増殖/細胞拡大に関与遺伝子群(Intrinsic Yield Genes, IYGsと称される)約25個の遺伝子の発現量(mRNA蓄積量)について調査し、調査した全てのIYG遺伝子の発現は齢特異的で、両植物間の発現量の差は齢の関数として変動するのに対し、VITA1の発現量は、細胞拡大期(23日齢以降)を通して、常に安定して+NO2植物>-NO2植物であり有意差があった.この結果から、VITA1はNO2で誘導される細胞拡大遺伝子またはその制御遺伝子であることが示唆され、今後の本研究に大きな弾みがついた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、申請者の見出したNO2の植物成長促進作用(バイタリゼーション)について、VITA1の共発現遺伝子群の解析を通じて、その分子的実像の解明を図るものである。VITA1を遺伝子破壊するとNO2の植物成長促進作用が失われ、VITA1の発現はNO2曝露処理より誘導される。また、VITA1は、82アミノ酸残基からなる短鎖ペプチドをコードすることが分かっているが、アノテーションはなく、機能未知である。 今年度の研究において、VITA1は他のIYG遺伝子とは異なり、細胞拡大期(23~30日齢)を通して、NO2により常に発現誘導され、また、発現量(mRNA蓄積量)が比較的安定かつ有意に+NO2植物>-NO2植物であることが分かった。すなわち、細胞拡大期には、同遺伝子の翻訳産物またはその翻訳後修飾産物が安定して蓄積しており、同遺伝子のコードするタンパク質またはその誘導体が細胞拡大に直接関与している可能性が初めて示された。そこで、今後はVITA1のIYG遺伝子としての機能の研究(VITA1の共発現遺伝子群の解析とマッピング)にとどまらず、VITA1の翻訳産物(VITA1タンパク質自体およびその翻訳後修飾タンパク質)のNO2の植物成長促進作用における役割の直接的解析も視野に入れて研究を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
VITA1共発現遺伝子群を特定するために、VITA1の形質転換体のマイクロアレイ解析費用として研究費を使用する。
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