2013 Fiscal Year Research-status Report
大気中の二酸化窒素による植物バイタリゼーション原因遺伝子の共発現解析とその解明
Project/Area Number |
24580477
|
Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
高橋 美佐 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10294513)
|
Keywords | 二酸化窒素 / シロイヌナズナ / 植物バイタリゼーション / 花成促進 / 環境シグナル |
Research Abstract |
本研究の目的は、二酸化窒素(NO2)の植物成長促進作用(バイタリゼーション)について、原因遺伝子VITA1とその共発現遺伝子群の解析を通じたその全体像の解明である。本年度実施予定の計画は、(i) 共発現遺伝子群の代謝マッピング、(ii) 遺伝子のNO2応答の時系列解析および(iii)原因遺伝子候補の絞り込みである。(i)について、共発現する遺伝子は少なく、マッピングに至らなかった。(ii)の時系列解析は昨年度先行して実施した。以下(iii)を中心に報告する。昨年度絞り込まれた原因遺伝子候補のT-DNA挿入変異体について解析したが、VITA1に勝る遺伝子は見出されなかった。そこで、VITA1に絞ってさらに研究した。VITA1を破壊すると、バイタリゼーションは消失するので、VITA1はNO2のバイオマス生産促進作用の示現に必要な因子である。VITA1は、82アミノ酸残基からなるペプチドをコードする。VITA1:GFP融合タンパク質を発現させた植物から抽出したタンパク質の免疫学的解析から、VITA1は翻訳後修飾を受け、翻訳産物は2個存在することが分かった。各翻訳産物についてN末端アミノ酸配列解析を行った。他方、NO2は花成促進作用をもつことが新たに分かった。すなわち、NO2によるバイタリゼーションは、バイオマスの増加と花成の早期化からなることになる.この発見は重要である.一酸化窒素、ジベレリン、糖等など他種の環境シグナル刺激では、バイオマスの増加は花成の遅延化を伴う。また、VITA1を破壊すると、花成が促進されることが新たにわかり、VITA1は花成阻害因子であると推定される。故に、VITA1はNO2によるバイオマス生産と花成の両面に作用することが分かり、バイタリゼーション解明の重要な手がかりが得られた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
公開データベース上でのVITA1と共発現する遺伝子の情報は少なく、VITA1以外のバイタリゼーション制御遺伝子を特定するには至っていない。 シロイヌナズナの属する草本植物におけるバイオマス生産は、主にとう(薹)立ち(花成)までの栄養成長期に限られている。そこで、NO2の花成に対する効果を調査し、その結果NO2は花成を早期化することが新たに見つかった。一般に、日長変化、低温処理、一酸化窒素、ジベレリン、糖等など他の環境シグナル刺激では、バイオマスの増加は遅咲き(花成の遅延)を伴う(逆に早咲きの場合はバイオマス減少を伴う)のが常であり、花成の早期化を伴うバイオマス増加現象は、NO2バイタリゼーションに固有の現象であることが新たに分かった。 VITA1は、NO2に応答して発現レベルが増加し、バイタリゼーションにおけるバイオマスの増加に必要因子であることを既に報告したが、新たに、花成阻害 (花成の遅延を促す) 因子であることが分かった。すなわち、VITA1は、NO2に固有の花成の早期化を伴うバイオマス増加現象であるバイタリゼーションの鍵因子の一つであることが示唆され、その全体像解明の重要な手がかりが得られた。 VITA1は、82アミノ酸残基からなるペプチドをコードする。VITA1:GFP融合タンパク質を発現させた形質転換植物から抽出したタンパク質をSDS PAGEで分離して抗GFP抗体を用いて解析した結果、抽出したタンパク質の免疫学的解析から、VITA1は翻訳後修飾を受け、翻訳産物は2個存在することが分かった。1個の翻訳産物についてアミノ酸配列を決定した.これら分子レベルでの情報は今後の機能解析の重要な手がかりが得られた。
|
Strategy for Future Research Activity |
従来知られている環境刺激シグナル(日長変化、低温処理など)によるバイオマス増加は、遅咲き(花成遅延) (逆に早咲きの場合はバイオマスの減少) を伴うのが常である。これに対し、バイタリゼーションでは、バイオマスは増加し、かつ早咲きとなる。すなわち、バイタリゼーションではバイオマス増加と花成促進(とう立ち促進)と言う「矛盾」したプロセスが進行していることになる。 VITA1は、この「矛盾」した両プロセスに関与することが示唆された。VITA1を遺伝子破壊すると、バイオマス量は対照区と変わらず、かつNO2の存否に関係なく早咲きとなることから、VITA1はバイタリゼーション(バイオマス増産)に必要な因子であり、花成阻害因子であると推定される.他方、NO2処理により、VITA1の発現レベルが高まるにも関わらず、早咲きとなる。この結果に関する私の暫定作業仮説は次の通りである。すなわち、(NO2処理のバイタリゼーション作用による)バイオマス増産が花成の自律的経路(環境シグナルには左右されない発生段階依存花成経路)を活性化して、VITA1の花成阻害効果を打ち消して、早咲きとなるものと推定される。最終年度において、この仮説を検証する。 今後の具体的方針は、以下の通りである。(1)VITA1の過剰発現体における花成とバイオマスの解析を実施して、作業仮説を検証する。(2)VITA1の遺伝子破壊株および過剰発現体における花成関連遺伝子の発現を野生株との比較において、解析してVITA1のバイオマス生産および花成における役割を解明する。(3)VITA1の翻訳産物のアミノ酸配列を進め、同タンパク質と相互作用するタンパク質を明らかにする。(4)形質転換によるVITA1遺伝子とタンパク質の分子機能解析を進め、バイタリゼーションの分子レベルでの全体像の解明をめざす。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度に遺伝子発現量の時系列(播種後1週~4週齢)変化のリアルタイムPCR解析の研究実施を予定していたが、平成24年度に先攻して行った為に、平成25年度予算に計上していたリアルタイムPCR解析費用を全額使用することがなかったために次年度使用額が生じた。 VITA1タンパク質の解析費用として使用する。
|
Research Products
(6 results)