2012 Fiscal Year Research-status Report
ヒト培養細胞を用いた環境汚染物質の新規リスク評価系の開発
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24580485
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tokoha Gakuen University |
Principal Investigator |
久留戸 涼子 常葉大学, 教育学部, 准教授 (50205217)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大浦 健 名城大学, 農学部, 准教授 (60315851)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 環境汚染物質 / 多環芳香族炭化水素 / エストロジェン / ハロゲン化 / 遺伝子発現 / PCRアレイ |
Research Abstract |
本研究では、分化段階の異なるヒト培養細胞を用いて、遺伝子発現のプロファイリングを行い、環境汚染物質を曝露した際の遺伝子発現の変化を解析し、新規リスク評価系の開発を試みた。 既に乳がん細胞MCF7において、PCR Array(Human Cancer Drug Resistance and Metabolism)により、遺伝子発現の網羅的解析を行ってきたが、Estrogen receptor(ER)を発現していないとされる乳がん細胞MDA-MB-231についても同様の解析を行った。その結果、両細胞において、様々な遺伝子の発現レベルが異なっていたが、特にER αの発現量がMCF7においてMDA-MB-231の数千倍高く、またV-erb、Retinoid X receptorα、ARなど多くの遺伝子においてMDA-MB-231での発現量が低かった。さらに、多環芳香族炭化水素であるBaPとその臭素化物のBrBaPの曝露では、ABCG2やCYP1A1のように、MCF7と同じく発現が上昇した遺伝子もあったが、発現量に変化のない遺伝子も多く存在した。一方、MCF7では変化のなかったRetinoic acid receptorで、発現量が高くなり、細胞によって応答性に違いが認められた。また、Br体ではMCF7と同様にCYP1A1の発現量が低かったが、低発現のERはBaP曝露により発現量が高まった。 さらに、河川などから採集した環境水を、細胞に暴露し、細胞増殖や遺伝子発現の解析を行った。MCF-7の増殖能を濃度依存的に高め、MDA-MB-231の増殖能には影響を与えなかった環境水には、エストロジェン様物質が含まれていると考えられた。両細胞とも濃度依存的に増殖能が低下した環境水では、細胞毒性があると考えられた。一方、遺伝子発現については、IL-6の遺伝子発現レベルを上昇させた環境水もあった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、ヒトへの影響を調べるために、いくつかのヒト培養細胞の遺伝子発現のプロファイリングを行い、新奇の環境汚染物質であるハロゲン化多環芳香族炭化水素を曝露した際の遺伝子発現の変化を解析し、体系的な生体へのリスク評価の基礎データを得て、新規リスク評価系の開発のための適切な遺伝子マーカーを見つけることを試みた。 まず、2種のヒト乳がん細胞MCF7とMDA-MB-231において、Human Cancer Drug Resistance and MetabolismのPCR Arrayにより、遺伝子の発現レベルの違いが明らかとなった。さらに、BaPやBrBaPの曝露により、MDA-MB-231細胞において、CYP1A1などのようにMCF7細胞と同様の変化を示した遺伝子もあったが、異なった変化を示す遺伝子も存在することがわかった。そこで、いくつかの遺伝子マーカー候補が挙げられた。これについては、他のハロゲン化多環芳香族炭化水素などにおいても、同様の変化が認められるのかを検証し、遺伝子マーカーを絞りこむ必要がある。 また、MCF7とMDA-MB-231では、ERの発現が異なることから、両細胞を用いた系で増殖能を比較することで、エストロジェン様物質か、エストロジェン様作用とは無関係に増殖能を増大、あるいは減少させるのかを容易に判定することができる。そこで、周辺環境の汚染実態調査として、河川などの環境水をこの系に適用した。細胞増殖試験の結果から、エストロジェン様物質が含まれていると考えられる河川水も存在した。また、候補となった遺伝子マーカーの発現レベルの解析も行なった。pS2、CYP1A1の遺伝子発現に影響を及ぼすレベルの物質は含まれていなかったが、IL-6遺伝子の発現レベルが上昇した環境水もあり、細胞に何らかの炎症作用を引き起こすような物質の存在が確認された。
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Strategy for Future Research Activity |
1.ハロゲン化多環芳香族炭化水素の合成及び精製:既に確立した方法に従い、phenanthrene(Phe)、fluoranthene(Fluor)、pyrene(Py)、benz[a]anthracene(BaA)、benzo[a]pyrene(BaP)を親物質として、塩素置換体、臭素置換体を単離精製する。 2.ヒト培養細胞における遺伝子発現レベルの網羅的解析:上述以外のヒト培養細胞株で、Human Cancer Drug Resistance and MetabolismやHuman Estrogen Receptor SignalingのPCR Arrayを行う。細胞培養、RNA抽出、cDNAへの変換、PCR Arrayによるreal-time PCR、解析の手順で行う。 3.標的遺伝子発現レベルの解析:PCR Arrayで、発現レベルに変化が認められた遺伝子(標的遺伝子)を、細胞株ごとに選択し、個別にreal-time PCR用のprimerを作成し、細胞曝露の標品濃度や、処理時間を変えて詳細な解析を行う。標的遺伝子のprimer設計、細胞培養、RNA抽出、cDNAへの変換、Real-time PCR、解析の手順で行う。 4.ハロゲン化多環芳香族炭化水素と天然物質の複合効果:ハロゲン化多環芳香族炭化水素の物性を解析する手段の1つとして、エストロジェン、ゲニステイン、ダイゼインなどの天然物質との共存下で、どのような複合効果が表れるかを解析する。細胞増殖試験、上記標的遺伝子による遺伝子発現解析の手法を用いて行う。 5.標的遺伝子群のPCRキットの開発:3.のリスク評価に適した標的遺伝子群を絞り込み、96 well plateを用いた解析キットを作成する。リスク評価マーカーとして選択された遺伝子群の関連性を調べることで、個体レベルでの影響評価にもつなげる。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記の研究を進めるため、以下のように、細胞培養やreal-time PCRで用いるプラスチック器具、薬品を中心に、研究費を使用する。 プラスチック器具:滅菌10 cmシャーレ、96 well プレート、滅菌50 mL遠心管、滅菌15 mL遠心管、滅菌10 mLピペット、滅菌25 mLピペット、2.0 mLチューブ、1.5 mLチューブ、0.6 mLチューブ、チップ、PCRチューブ、8連PCRチューブ、PCRプレート ガラス器具:パスツールピペット 薬品:RNeasy Mini Kit(Qiagen)、RNase-Free DNase Set(Qiagen)、RT2 First Strand Kit (SAバイオサイエンス)、RT2 Profiler PCR Array(SAバイオサイエンス)、Superscript IIIFirst-Strand Synthesis System for RT-PCR (Invitrogen)、QuantiTect SYBR Green PCR Master Mix (Qiagen)、Cell Counting Kit-8 (Dojin)、Dulbecco’s modified Eagle medium (Nissui)、phenol red-free DMEM (Gibco)、fetal bovine serum (ICN Biomedicals)、charcoal/dextran treated FBS (Hyclone)、kanamycin、ampicillin、合成プライマー 旅費:学会、研究会 その他:印刷費
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[Journal Article] Organ-specific distribution of 7-chlorinated benz[a]anthracene and regulation of selected cytochrome P450 genes in rats.2013
Author(s)
Sakakibara, H., Ohura, T., Kido, T., Yamanaka, N., Tanimura, N., Shimoi, K., Guruge, K.S.
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Journal Title
J. Toxicol. Sci.
Volume: 38
Pages: 137-143
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Evaluation of chlorinated benz[a]anthracene on hepatic toxicity in rats and mutagenic activity in Salmonella typhimurium.2013
Author(s)
Kido, T., Sakakibara, H., Ohura, T., Guruge, K.S., Kojima, M., Hasegawa, J., Iwamura, T., Yamanaka, N., Masuda, S., Sakaguchi, M., Amagai, T., Shimoi, K.
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Journal Title
Environ. Toxicol.
Volume: 28
Pages: 21-30
DOI
Peer Reviewed
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