2012 Fiscal Year Research-status Report
高等植物リグニン生合成能の進化的獲得とバイオマス生産に関する研究
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24580497
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka Prefecture University |
Principal Investigator |
太田 大策 大阪府立大学, 生命環境科学研究科(系), 教授 (10305659)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | リグニン / バイオマス / メタボロミクス / シトクロムP450 / コケ類 / ケイ皮酸モノリグノール経路 / 代謝改変 |
Research Abstract |
陸上植物の進化過程における最重要イベントの一つは,ケイ皮酸類の重合体として蓄積するリグニン産生能獲得である.リグニン蓄積量は植物バイオマスの20~30%にも達することから,リグニン産生に関わる代謝経路と既存代謝経路の間で,光合成産物を効率的に分配するシステムも進化したことを示唆する.本研究では,リグニン生合成の進化が植物バイオマス生産に及ぼした影響の解明を最終目的とする.研究期間内に高等植物のリグニン生合成能をコケ植物に付与する.光合成産物がリグニン産生に適切に分配される際の代謝動態変化を明らかにし,代謝バランス制御に関わる反応段階と代謝物を特定する.得られた結果を基に,植物バイオマス生産を最適化するための代謝設計に結び付ける リグニン産生能は維管束植物に限定されており,コケ類はリグニンを蓄積しない.ケイ皮酸類は,芳香族アミノ酸を出発物質とするフェニルプロパノイド経路から分岐するケイ皮酸モノリグノール経路によって生合成される.ケイ皮酸モノリグノール経路は,モデル植物であるシロイヌナズナを用いた研究によって詳細に解明されてきている.ゲノム配列比較は,リグニン産生能の有無がケイ皮酸モノリグノール経路遺伝子の存在とよく一致することを示している.平成24年度は,コケ植物であるゼニゴケに,高等植物のケイ皮酸モノリグノール遺伝子を導入した遺伝子組換え系統を樹立し,精密質量分析実験によって代謝プロファイルの変動を解析した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ヒメツリガネゴケはフェニルプロパノイド経路の最上流反応段階遺伝子を有しており,コケ類がフラボノイド生合成能を有する事と一致する.一方, HCT遺伝子配列を特定し,その組換え酵素が,4-coumaroyl-CoAからケイ皮酸モノリグノール経路へ分岐する高等植物型の反応を触媒することを明らかにした.しかしながら, HCT の次段階に関与するシトクロム P450 CYP98には高等植物型の酵素反応は確認できなかった.すなわち,コケ類がフラボノイドは産生するがリグニンを蓄積しないのは,CYP98以降の反応段階に関わる酵素遺伝子が欠損していることに起因すると考えられる. そこで,ゼニゴケにシロイヌナズナの CYP98A3と CYP84を導入した遺伝子組換え系統を樹立し,野生型との代謝プロファイルの比較を行った.これらの遺伝子組換えゼニゴケ系統では,フェニルプロパノイド経路からケイ皮酸モノリグノール経路が分岐すると期待される. 本年度は,経皮酸モノリグノール経路遺伝子の導入による代謝変動を解析するため,CYP98A3形質転換系統,CYP84A2形質転換系統,非形質転換体のメタノール抽出物をOrbitrap質量分析装置によって計測した.Orbitrap質量分析装置では精密質量計測が可能であり,実測質量値から分子式推定と化合物特定が期待できる.それぞれの系統間で6043種類の共通化合物ピークを検出し,分子式推定を実施した.主成分分析による非形質転換系統とCYP98A3組換え系統の比較では明確な代謝プロファイルの違いが認められた.
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Strategy for Future Research Activity |
Orbitrap質量分析装置によるメタボローム解析実験に使用したゼニゴケの組換え系統を用い, GC-MSと LC-MSによる代謝プロファイリングを実施する.まず無菌培養したゼニゴケの中心代謝経路(解糖系, TCAサイクル,アミノ酸)を重点的に解析し,続いて培地に安定同位体標識した芳香族アミノ酸,炭素源(スクロース)を添加し,組換え体と非組換え体の間の代謝動態の変化を比較する.特に,芳香族アミノ酸,フラボノイド,糖代謝に着目する.すでにGC-MS分析では60種類の単糖と二糖の定量分析が可能である.また LC-MSでは中心代謝経路に関わる120種類の代謝物の定量的比較が可能である.ゼニゴケは様々なアピゲニンとルテオリンの配糖体を蓄積する.フラボノイド類の標品分析を開始するとともに,ケイ皮酸類の分析条件(ダイナミックレンジ,溶出時間,MSMSフラグメント)を整備する.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
質量分析実験のための消耗品類(液体ヘリウム,液体窒素, GC-MS用カラム,有機溶媒,安定同位体標識化合物)が主な研究経費となる.また,研究成果発表のための出張旅費,実験に参加する大学院生の出張(連携研究者である京都大学生存圏研究所・梅澤俊明教授の研究室での実験など)にも費用が発生する.
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