2012 Fiscal Year Research-status Report
水素/重水素交換反応及び質量分析法による糖タンパク質の高次構造解析技術の開発
Project/Area Number |
24590069
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
橋井 則貴 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 室長 (20425672)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 分子標的薬 / 抗TNFα抗体 / 水素/重水素交換質量分析 / エピトープ |
Research Abstract |
抗TNFα抗体医薬品は,ヒトの炎症性サイトカインTNFαを標的とする分子標的薬であり,関節リウマチ,炎症性腸疾患,及び乾癬などの自己免疫が介在する炎症性疾患の治療に用いられている.抗TNFα抗体の作用機序については,TNFαの機能抑制やTNFα産生細胞への細胞傷害作用などが明らかにされているが,TNFαの捕捉とその機能阻害の構造的な機序については不明な点が多い.既存の抗TNFα抗体医薬品のエピトープ,及び結合により誘起される構造変化を明らかにすることは,新規抗TNFα抗体や抗TNFα抗体後続品の開発において,有用な情報をもたらすものと考えられる. 近年の液体クロマトグラフィーと質量分析技術の進歩により,重水溶媒中でタンパク質を重水素標識し,ペプシン消化後,ペプチドごとに取り込まれた重水素数を質量分析法で測定する,水素/重水素交換質量分析法(HDX/MS)が,高次構造変化の観測法として実用的になりつつある.HDX/MSは,液相中でのタンパク質の高次構造変化を観察することが可能であり,NMRやX線結晶構造解析等の従来法では難しかった高分子量タンパク質の相互作用解析に応用されている. そこで本研究では,抗TNFα抗体によるTNFα抑制作用の高次構造的メカニズムの解明を目的として,HDX/MSにより,ヒト可溶性TNFαと抗TNFα抗体関連医薬品(インフリキシマブ・アダリムマブ・ゴリムマブ・エタネルセプト)との相互作用解析を行った. 4種類の抗TNFα抗体の結合に伴う,TNFαの重水素交換数の変化をHDX/MSにより解析した結果,いずれが結合した場合でも,特定のペプチドで類似した重水素化率変化が起こることが明らかとなり,抗TNFα抗体が共通のTNFα高次構造変化を利用して薬理作用を発現している可能性が示唆された.また,それぞれの抗TNFα抗体のエピトープ候補となる領域を特定した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,HDX/MSを用いた糖タンパク質の高次構造解析技術を確立すること,及び糖タンパク質医薬品とそのリガンド分子の相互作用を解析することを目的としている.本年度の研究により,糖タンパク質である抗体医薬品のHDX/MSの分析条件を最適化できたこと,また,抗TNFα抗体の薬理作用発現に関係する可能性のあるTNFαの高次構造変化,及びエピトープ構造を特定することができたことから,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度実施したHDX/MSは,抗TNFα抗体とTNFαを重水溶媒中で反応させた後,ペプシン消化を行い,重水素交換された消化物を液体クロマトグラフィー/質量分析 (LC/MS) により分析するものである.従って,観測される重水素交換数はペプチド単位のため,高次構造解析の解像度としては十分ではない.LC/MSによるペプチド配列解析は,一般に,衝突誘起解離(CID)法を用いたタンデム質量分析(MS/MS)により行われる.しかし,CIDで重水素交換されたペプチドの断片化を行うと,重水素のscrambling が起こり,交換部位を正確に特定できないことが報告されている. 近年,重水素のscrambling を起こしにくいMS/MSの1つとして,電子移動解離(ETD)法が注目されている.そこで今後は,NMRやX線結晶構造解析と同様に,アミノ酸残基レベルでの糖タンパク質の高次構造手法の確立を目指して,糖タンパク質由来ペプチド及び糖ペプチドのETD分析条件の最適化を行う.また,HDX/MSとETDを組み合わせた手法により,複数の抗TNFα抗体のエピトープマッピングを行う.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
物品費:874,825円(LCカラム,重水,MSインタフェース用ニードル,ペプシンカラム,LC/MS用溶媒等) 旅費:300,000円(調査・研究旅費,研究打合せ旅費,成果発表) 人件費・謝金:20,000円(研究補助) その他:30,000円
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Research Products
(3 results)