2013 Fiscal Year Research-status Report
水素/重水素交換反応及び質量分析法による糖タンパク質の高次構造解析技術の開発
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24590069
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Research Institution | National Institute of Health Sciences |
Principal Investigator |
橋井 則貴 国立医薬品食品衛生研究所, 生物薬品部, 室長 (20425672)
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Keywords | 水素重水素交換質量分析 / 抗TNF-α抗体 / 高次構造 |
Research Abstract |
昨年度は,バイオ医薬品の作用機序の構造的背景を解明する一環として,水素/重水素交換質量分析法 (HDX/MS) により,ヒトtumor necrosis factor-α (TNF-α) と市販抗TNF-α抗体との相互作用解析を行い,一部の抗TNF-α抗体のエピトープ候補を明らかにすると共に,抗TNF-α抗体の結合に伴いTNF-α分子内の高次構造も変化する可能性があることを見出した.本年度は,抗TNF-α抗体との結合により引き起こされるTNF-α分子内のコンフォメーション変化について詳細に検討することを目的として,ビーズ固定化抗TNF-α抗体にTNF-αを結合させた後にHDX反応を行い,TNF-αを回収後,MSを用いたペプチドマッピングによりTNF-α分子内部における重水素交換率の変化を解析した. 抗TNF-α抗体をビーズに固定化することで,HDX反応後にTNF-αのみを選択的に回収することが可能となり,MS解析におけるTNF-α由来ペプチドの同定本数を増加させることができた.HDX/MSにより4種類の抗TNF-α抗体とTNF-αの相互作用解析を行った結果,いずれの抗体との相互作用においても,共通して重水素交換率が減少する領域が検出された.最も変化のみられた領域は,TNF-α三量体の内側に位置し,β-ストランドを形成している領域であった.また,その他の変化がみられた領域についても,大部分は分子内部のβ-ストランドに位置していた.4種類の抗TNF-α抗体のエピトープが共通している,あるいはエピトープが分子内部に存在するとは考えにくいことから,変化のみられた領域の多くは,抗体結合部位ではなく相互作用に伴い高次構造が変化した領域であることが示唆された.抗TNF-α抗体の薬理作用には,TNF-αのアロステリックなコンフォメーション変化が関係している可能性が示唆された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,HDX/MSを用いた糖タンパク質性医薬品の高次構造解析,及び相互作用解析手法の確立を目的としている.平成24年度は,モデル糖タンパク質として抗体医薬品を用いて,HDX/MSの分析条件を最適化すると共に,一部の抗体医薬品のエピトープ構造を特定した.またH25年度は,抗体医薬品とリガンド分子の相互作用に伴う,リガンド分子内でのコンフォメーション変化を明らかにした.HDX/MSにより高次構造解析及び相互作用解析が可能となっていることから,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
現在のHDX/MS では,ペプチドレベルでの重水素交換率を解析しており,X線結晶構造解析法や核磁気共鳴法と比較して解像度が十分ではない.そこで本年度は,アミノ酸残基レベルでのHDX/MS解析を可能にすることを目的として,重水素交換したペプチドの断片化法として注目されている電子移動解離 (ETD) 法を利用したタンデム質量分析法 (MS/MS) の最適化についても検討を開始している.今後は,HDX/MS とETDを組み合わせた手法の構築と最適化を行うと共に,本年度までに特定した抗TNF-α抗体のエピトープ及びコンフォメーション変化に関係する領域について,HDX/MS/ETDによりアミノ酸残基レベルでの解析を行う.さらに,抗体及びホルモン等の糖タンパク質性医薬品について,糖鎖分解酵素等を用いて糖鎖構造の異なるモデル糖タンパク質を作製して,HDX/MS/ETDにより高次構造解析を行い,糖鎖構造の差異に伴う高次構造の変化が生物活性等に与える影響についても検討する予定である.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度末に開催された日本薬学会第134年会(平成25年3月27日~30日)に参加した協力研究者の旅費及び参加費の支払いを平成25年度内に完了させることが困難であった為に次年度使用額が生じた. 平成25年度繰越金については,平成25年度末に開催された日本薬学会第134年会(平成25年3月27日~30日)に参加した協力研究者の旅費及び参加費の支払いに使用する(15,6520円). 上記以外の繰越金+平成26年度研究費:物品費:937,825円,旅費:300,000円(調査・研究旅費,研究打合せ旅費,成果発表旅費),人件費・謝金:20,000円(研究補助),その他:30,000円を予定している.
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Research Products
(5 results)