2012 Fiscal Year Research-status Report
眼疾患の薬物治療への応用を志向したフラボン類の合成及び構造活性相関研究
Project/Area Number |
24590146
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
忍足 鉄太 帝京大学, 薬学部, 准教授 (00279043)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小佐野 博史 帝京大学, 薬学部, 教授 (40246020)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ポリメトキシフラボン / 構造活性相関 / MMP-9 / 白内障 / 糖尿病網膜症 |
Research Abstract |
高齢化社会の現代において、後発白内障や糖尿病網膜症などの眼疾患は増加の一途を辿ると予想される。これらの眼疾患が罹患者のQOLを著しく低下させることに鑑みれば、予防も含めて薬物治療に適用できる医薬品の開発が急務である。ポリメトキシフラボン類は、白内障、糖尿病網膜症、癌の転移などの様々な病態に密接に関係する酵素であるMMP-9の産生を抑制することが知られており、低毒性であることと相俟って上述の病態の薬物治療への応用が期待される。これらの化合物群は柑橘類の果皮に潤沢に含まれるが、分離・精製にかかるコストを考慮すると天然資源からの入手は必ずしも容易ではない。我々は、ポリメトキシフラボン類の新規化学合成法を確立するとともに、MMP-9の産生抑制に着目した構造活性相関研究を展開し、究極的には糖尿病網膜症や後発白内障等の眼疾患の(予防も含めた)薬物治療への応用を目指して本課題に取り組んでいる。 初年度はフラボンA環部分を化学修飾した新規誘導体合成法の開発を進め、依然改良の余地は残るものの、7-デメチル体の合成に一応の目処をつけた(未発表データ)。また、当研究室で既に確立した手法を援用することにより新規ポリメトキシフラボン類縁体を合成し、後発白内障の素因の一つである水晶体上皮細胞の増殖に対する阻害活性を評価し、複数の化合物が顕著な増殖抑制活性を有することを見出した(英文速報誌に掲載)。ポリメトキシフラボン類が、水晶体上皮細胞においてMMP-9の産生抑制のみならず、細胞増殖に対しても阻害活性を有するという知見が得られた意義は大きい。すなわち、これらの作用機序の解明により、同様に細胞増殖と細胞外マトリックスのリモデリングを伴う病態である癌に対しても新たな化学療法の可能性が見出されるからである。今後は、構造活性相関研究と並行して作用機序の解明にも取り組む予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初、最初の検討課題として申請書に記載した新規骨格構築法の開発については目下のところ予備的検討の段階の域を出ていないが、A環部分を化学的に修飾した新規誘導体合成法の開発を優先した結果、途中の二工程に関してはなお改良の余地は残るものの、7-デメチル体の合成に一応の目処がついた。7-デメチル体は、既に合成法を確立している5-デメチル体とともに、血液網膜関門の透過性を検証するための種々の類縁体の鍵中間体として位置づけられる化合物であることから、本課題を遂行する上で最初の重要な局面は無事に通過したものと考える。 他方、当研究室で既に確立した手法を援用することによって新たに数種類のポリメトキシフラボン類縁体を合成し、後発白内障の素因の一つである水晶体上皮細胞の増殖に対する阻害活性を評価した。その結果、複数の化合物が顕著な増殖抑制活性を有することを見出した(Bioorg. Med. Chem. Lett., 2013, Vol.23, pp183-187)。後発白内障とは、白内障の外科的治療(眼内レンズ挿入)の後に高頻度で発症する後遺症であり、取り残した水晶体上皮細胞が異常に増殖することに端を発し、水晶体後嚢への浸潤と上皮間葉移行を経て発症するものである。これまでに、ポリメトキシフラボン類縁体が浸潤の過程で作用する酵素であるMMP-9の産生を抑制することは報告してきたが、今回、水晶体上皮細胞の増殖についても抑制することを実証したことは、これらの化合物による後発白内障の(予防も含めた)薬物治療の可能性を裏付けるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、7-デメチルポリメトキシフラボン類の合成法を改良するとともに、得られたフラボン類の7位の水酸基に炭素数を種々変えたアルキル鎖を導入して、MMP-9産生抑制活性をはじめ、細胞増殖抑制活性、抗酸化能、脂溶性と血液網膜関門の透過性との関連などついても明らかにして行く。既に合成法が確立している5-デメチル体についても、5位の水酸基に炭素数を種々変えたアルキル鎖を導入した上で同様のアッセイを実施する。化合物の脂溶性と血液網膜関門の透過性の相関を解明することは、眼疾患の薬物治療を考慮する上で極めて重要な課題と位置づけられる。また、リンカー部位を介してこれらのデメチル体を複数結合させることにより多価フラボン誘導体を合成し、その生物活性を評価することによってクラスター効果の影響についても検証できる。こうした化学修飾は眼内レンズ表面へのコーティングに際して必須の要件であるので、入念に検討して行く予定である。 上記は応用面を重視した研究課題であるが、これと並行してより基礎科学的な観点から、A/C環の合成等価体にB環部分を導入する新規フラボン骨格構築法の開発を試みる。従来法に比べて、より収束的で類縁体合成にも柔軟に対応できる方法論の確立は、構造活性相関研究を効率的に行う上で不可避であるとともに、純粋に合成化学的な観点からも興味深い。フラボン合成の化学は今日でも1930-40年代に確立された手法の改良法の域を出ていないが、有機金属触媒や有機分子触媒などを活用した新規合成法の開発はこの分野に新たな地平を拡げ得るものである。また、構造活性相関研究を基にMMP-9産生抑制活性や細胞増殖抑制活性の作用機序についても解明して行きたい。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
当初、最初の検討課題として申請書に記載していた新規骨格構築法の開発よりも、成果の出かかっていた7-デメチル体の合成研究や水晶体上皮細胞の増殖に関する構造活性相関研究を優先したために、研究代表者の直接経費に関して繰越金が発生した。これは次年度以降に、先送りした課題である新規骨格構築法の開発を遂行するために充てさせて頂く。なお、今後も研究代表者の直接経費はすべて研究用試薬、溶媒、ガラス器具などの消耗品の購入に充当する。また、研究分担者の直接経費に関しては、培養細胞の入手やアッセイに必要な試薬や器具の購入に充てる予定である。
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Research Products
(5 results)