2012 Fiscal Year Research-status Report
広範な抗ウイルス薬ターゲットとなる新規シグナル伝達分子の検索とその機構解析
Project/Area Number |
24590167
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yasuda Women's University |
Principal Investigator |
森本 金次郎 安田女子大学, 薬学部, 教授 (80183664)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
佐藤 雄一郎 安田女子大学, 薬学部, 助教 (60416427)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | ウイルス / レクチン / 抗ウイルス活性 / 自然免疫 |
Research Abstract |
ウイルス感染初期の細胞応答を理解することで、新たな薬物の標的となる宿主因子を同定し、新規抗ウイルス薬の創出を目指す。ウイルス感染にともない誘導される宿主の自然免疫機構に着目し、その宿主機能性分子をターゲットとすることにより、広範な抗ウイルススペクトルを示す次世代型抗ウイルス薬の開発を目指し研究を進めている。また、高マンノース型糖鎖結合性レクチンPFLはウイルス粒子表面の糖タンパク質に直接結合することにより、ウイルスの宿主細胞受容体への結合を阻止し、抗ウイルス活性を示すことが分かっている。しかしながら、宿主細胞表面の糖タンパク質にも結合し、様々な作用を惹起することが考えられる(例えば、自然免疫、炎症性サイトカインの誘導等)。そこで、PFL添加による細胞内遺伝子変動を解析することで、レクチンPFLの生体への適用の可能性を検討している。 初年度である平成24年度は以下の3条件での遺伝子発現の変動をマイクロアレイ法により解析した。1.インフルエンザウイルス感染初期の宿主細胞遺伝子の発現変動の解析。ウイルス感染4時間後と8時間後の細胞よりRNAを抽出し、各種遺伝子の発現変動をマイクロアレイ法により解析した。2.PFL添加における細胞の遺伝子発現の影響を解析。最終濃度200nM, 2μMのPFL添加細胞において、4時間後の細胞RNAを抽出、各種遺伝子の発現変動をマイクロアレイ法により解析した。3.さらに、PFL添加でウイルス感染を阻止した状態の感染細胞RNAを抽出、各種遺伝子の発現変動をマイクロアレイ法により解析した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
インフルエンザウイルス感染細胞、レクチンPFL添加細胞、PFL添加ウイルス感染細胞(ウイルス感染阻止状態)の3条件での遺伝子発現変動の結果を概説する。 1.インフルエンザウイルスA/Udorn/72(H3N2)をヒト肺胞上皮様細胞A549細胞に感染させ、感染4時間と8時間の初期過程における各種遺伝子の発現変動を解析した。炎症性サイトカイン、ケモカイン、I型インターフェロンまたそれに引き続くインターフェロン誘導関連遺伝子群の発現誘導が確認できた。また、ウイルスの認識に関与するToll様受容体関連、RIG-I様受容体関連、NOD様受容体関連の遺伝子群の発現誘導も確認できた。さらには、アポトーシス誘導関連の各遺伝子の発現増加、また、いくつかのユビキチン化関連遺伝子の発現増加も見られた。 2.PFL添加による遺伝子の発現変動は200nM, 2μMの2つの濃度で解析した。特に注目すべき点として、血管新生関連の遺伝子群アンジオポイエチン、血管内皮細胞増殖因子の発現促進とエンドセリン-1、-2、エンドセリン受容体遺伝子の発現抑制を見出した。また、血管拡張をもたらすadenomedullin遺伝子の発現促進と逆に血管収縮に関与するアンジオテンシン転換酵素遺伝子の発現促進も見られた。アポトーシス関連遺伝子の変動は促進的に働く遺伝子と抑制的に働く遺伝子の両者において発現増加がみられた。 3.PFL添加によるウイルス感染阻止の際に見られる発現変動遺伝子としては、転写因子AP-2遺伝子の発現上昇、インターフェロン誘導による転写因子(IRF1, IRF9)遺伝子の発現抑制が見られた。カスパーゼ14遺伝子、オートファジー関連の遺伝子、ディフェンシン、IL-12遺伝子の発現促進、IL-6, p53, PML1, PML5の各遺伝子の発現抑制が示された。
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Strategy for Future Research Activity |
24年度の研究結果をうけて、インフルエンザウイルス感染細胞においては、多くの炎症性サイトカインの遺伝子群の発現増加が見られているが、逆にサイトカインシグナル抑制因子(SOCS1)遺伝子の発現も増加していることが示された。また、アポトーシス関連遺伝子においても、それを促進する遺伝子と抑制する遺伝子の両方で発現誘導が見られた。このように相反する作用をもつ遺伝子に対して、これら遺伝子の発現変動の結果、細胞は促進側に進んだのかその逆かを解析する必要がある。実際にサイトカイン及びケモカインのタンパク質産生量をCytometric Bead Array法(CBA assay)により測定すること、アポトーシスの挙動を詳しく解析することを計画している。 レクチンPFLの添加において、血管新生関連遺伝子群の多くに発現変動が見られた。この場合も、血管新生を促進させるものと抑制させるものが同時に変動している。これらの作用はPFLがin vitroでの腫瘍組織由来培養細胞における増殖阻害活性を示すことからも、PFLが生体内での血管新生に与える影響を探るうえでも、その詳細なメカニズムの解析が必要であると思われる。また、細胞接着因子インテグリンとそのアダプター分子であるtalin, paxillinなどの遺伝子の発現誘導が認められた。チューブリン(TUBB1)、ケラチン(KRT5)の遺伝子発現も増加していることから、細胞接着因子、細胞骨格に及ぼすPFLの影響を解析する計画である。 ウイルス感染細胞時のPFLレクチン添加の遺伝子発現の影響より、ディフェンシンとカスパーゼ14遺伝子の発現増加に興味が持たれる。先ずはディフェンシンとカスパーゼ14の変動をタンパク質レベルで解析する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度はマイクロアレイ解析の費用がキャンペーン価格の利用により当初の予定より割安で行うことができたため、32万円ほど25年度に繰り越すこととなった。これらの費用は必要な抗体等の分品費用に当てることにより、より有効的な活用を行う予定である。
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