2012 Fiscal Year Research-status Report
成長過程や身体機能の変化に伴う薬物体内動態変動要因の検索
Project/Area Number |
24590184
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
石崎 純子 金沢大学, 薬学系, 准教授 (60401890)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
崔 吉道 金沢大学, 大学病院, 准教授 (40262589)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | バルプロ酸 / 体内動態 / トランスポーター / 相互作用 |
Research Abstract |
申請者は既に,ラットにおいて薬物トランスポーターのMrp2が幼若時では未発達で成長に伴って発達すること,さらに,免疫抑制薬のミコフェノール酸や抗てんかん薬のバルプロ酸(VPA)などMrp2の基質となる薬物の体内動態が成長に伴って変動することを明らかにした.以上のことから,Mrp2に影響をおよぼす薬物を併用すると相互作用が起こるのではないか?また,成長に伴ってMrp2が発達するならその相互作用も成長に伴って強く現れるのではないか?と考えた.この仮説に基づき本年度は,Mrp2を阻害するシクロスポリンA(CyA)によるVPAの体内動態への影響について,1.ラットを用いた動物実験,および,2.ヒトでの後ろ向き臨床試験を行った. 1.週齢の異なるラットを用いてVPAの血漿中濃度推移におよぼすCyAの影響を検討した.幼若ラットではCyAを併用しても動態変動はみられなかったが,成熟ラットではCyA併用によりVPAは速やかに消失した.これは,VPAのMrp2を介した胆汁排泄がCyAにより阻害されて腸肝循環の寄与が減少したためと考えられる.同様の現象がヒトでも見られるか検証するため,以下の検討を行った. 2.VPAの血清中濃度測定を実施した患者を金沢大学附属病院システムより抽出し,電子カルテより年齢,体重,腎・肝機能検査値,併用薬など患者背景を調査した.VPAの血清中濃度を1日投与量で割った値(C/D比)は,CyA併用により有意に低下したが,その影響は幼児よりも成人で強い結果が得られた. 本年度は,動物実験での結果より臨床研究を計画・実施し,VPAの添付文書に記載のない「トランスポーターを介した薬物間相互作用」が臨床で起こっていることを実証できた.次年度,本成果を情報発信し,より適正な医薬品使用に貢献したい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
申請者の研究は,I 候補医薬品のプレスクリーニング,II ラットでのスクリーニング実験,III ヒトでの臨床試験の計画・実施,IV 情報発信の4ステップよりなる.これまでの動物実験での研究成果より,薬物トランスポーターのMRP2が成長に伴って発達することを強く示唆する結果が得られていた.このため,今年度はMRP2について,IIのラットでの実験より着手した. 動物実験とは異なり臨床試験では基準に適合した患者が一定数以上,存在しなければ結果を導けない.達成度がやや遅れている理由は,トランスポーターを介してVPAと相互作用する可能性のある医薬品が投与されている患者が少なく,当初の予定より患者検索の調査期間を拡げたためである. しかし,臨床で実際にトランスポーターを介する相互作用が起きていることを実証できたことは大きな成果である.また,本年度の手法は今後の臨床研究を計画する上でも応用可能であり,今回,時間を要したことは次年度以降の研究成果につながると確信している.
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Strategy for Future Research Activity |
当初は,臨床使用実態下における医師や薬剤師の主観的な意見から医薬品をプレスクリーニングし,動物実験を経て臨床試験を実施する計画であった.しかし,この手法では臨床試験の開始までに動物実験のエビデンスしか得られず,前向き臨床試験を計画した場合,被験者の理解と同意を得ることは難しいことが本年度の研究よりわかった.すなわち,研究推進の方策として,プレスクリーニングの段階からヒトでの客観的データに基づくエビデンスを収集することを考慮して研究を進める必要がある. そこで次年度からは,医薬品のプレスクリーニングを客観的データに基づいて迅速かつ確実に行うため,まず,血中濃度モニタリング対象薬で,かつ,薬物トランスポーターの基質となるものについて,金沢大学診療支援システムを活用した調査を行うこととする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度の費目別収支状況等「次年度使用額」は,本年度中に実施を予定していた動物実験がスケジュールの都合で次年度に延期となったため発生した. 翌年度以降の研究費の使用計画については,当初の研究計画に従い,動物,試薬,器具等の実験に必要な物品や,学会での成果発表用の旅費に使用する.
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