2013 Fiscal Year Research-status Report
腎不全患者における薬効変動メカニズムの解明とこれに基づく中枢作用薬の至適投与設計
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24590192
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
合葉 哲也 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 准教授 (00231754)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北村 佳久 岡山大学, 大学病院, 准教授 (40423339)
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Keywords | 投与設計 / 腎不全 / 中枢神経系 / PK/PD / 薬物速度論 |
Research Abstract |
腎不全患者においては中枢神経系作用薬の薬効変動が報告されている。申請者は研究計画の初年度において、薬効発現と密接に関係する薬物の血中濃度推移が、腎機能の低下に伴って変動することを明らかにした。即ち、腎機能低下時には、腎臓を主たる排泄臓器とする腎排泄型薬物のみならず、中枢神経系作用薬のように肝臓で著しい代謝消失を受ける肝代謝型薬物の場合にも、その血中濃度が変動する。この変動機序の主要因は、腎不全時に体循環血液へ放出される炎症性因子による肝臓の薬物代謝酵素の発現調節の変調である。しかし申請者は、こうした薬物動態的要因に加え、腎不全時には薬物の標的組織である中枢神経系において、組織の薬物感受性に変化が生じることを研究計画2年目に明らかにした。即ち、実験動物(ラット)の側脳室へカテーテル留置を行い、薬物の体内動態の変動効果を排除して組織の薬物感受性を評価できる側脳室薬物直接投与系を構築した。そして、これを用いて、腎不全ラットにおける中枢神経系作用薬フェノバルビタールの鎮痛効果の発現潜時を評価したところ、正常群と比べ、薬効の発現潜時が有意に短縮していることを見出した。腎不全ラットにおける中枢神経系組織の薬物感受性は約3倍に亢進していた。他方、腎不全ラットの中枢性痙攣薬ピクロトキシンに対する感受性には正常群との差異は認められなかった。フェノバルビタール及びピクロトキシンの薬理効果は、共にGABA-A受容体を介するものであることから、こうした感受性亢進のメカニズムを精査する目的で、抗GABA-A受容体抗体を用いた脳組織切片の免疫組織染色を行い、GABA-A受容体の発現量を評価した。その結果、腎不全に伴って、受容体発現量が僅かに変化していることが示唆された。こうしたことから、腎不全に伴う感受性変化には、GABA-A受容体が発現量の変化を伴って機能的に変調していると考えられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中枢神経系作用薬のような肝臓代謝型の薬物の場合でも、その血中濃度推移は腎不全時に変動する。こうしたことから、本年度は、先行研究における脳脊髄液中の電解質濃度推移評価の経験をもとに、微量薬物を脳室内へ直接導入する投与手法と尾部穿刺法などの薬理試験法を併用することで、薬物の血中濃度推移の変動に左右されない薬効評価系を先ず構築した。この薬効評価系は、動物の取扱いに多少の熟練を要するものの、中枢神経系作用薬の薬効発現プロファイルを精査する場合において、薬物体内動態に左右されない等の優れた点を多く有しており、今後の研究展開において非常に重要な役割を果たす実験系である。次いで、中枢神経系作用薬フェノバルビタールを用いて、その麻酔鎮痛効果の発現潜時を評価した結果、腎不全ラットにおける薬効発現潜時が正常群よりも有意に短縮していること、即ち、正常群と比べて少ない薬物量で薬効が発現することが明らかとなった。この知見は、腎不全時に薬物の対する中枢神経系の感受性が亢進することを、インビボにおいて直接的に証明した数少ない事例である。なお、フェノバルビタールの麻酔鎮痛効果は抑制性ニューロンの活動に起因することから、申請者は次に、薬物標的部位であるニューロン上のGABA-A受容体の発現量についても評価を行った。その結果、腎不全群と正常群において発現量が僅かに異なっていることを示唆するデータを得た。今後は、こうした知見を踏まえ、GABA-A受容体の機能的変調の実体を詳細に解明することが課題である。これについては、GABA-A受容体を構成する各サブユニットに特異的な阻害剤が種々知られていること、受容体以降の信号伝達系についての研究が種々進んでいることから、本年度に構築の薬効評価実験系を用いることで、速やかに結論が得られると思われる。こうしたことにより、研究計画はおおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画最終年度は、一連の研究成果を薬物療法の個別化至適化の現場にフィードバックすることを念頭に、これまでの知見を整理し検証する。既に、腎不全に伴って肝臓の薬物代謝活性が変化すること、そして、中枢神経系においては薬物に対する組織の感受性が変化することが明らかになっている。しかし、腎臓の機能不全が異所性にこうした臓器や組織に影響を及ぼすメカニズムについては、未だ多くが不明である。研究計画の最終年度は、特に薬効変動メカニズムにおいて重要な役割を果たしている炎症性因子について、その役割を重ねて検証することで、より詳細な変動メカニズムの解明を目指す。先に証明したように、炎症性因子は、肝臓のような末梢臓器の機能変調において、重要な役割を果たしている。しかし、血液脳関門が障壁として存在する中枢神経系の場合、炎症因子がこれを越えて中枢神経系に直接作用することは考え難い。末梢性炎症因子が脳血管内皮細胞に作用することで、血液脳関門内側に二次因子が放出される可能性、或いは、末梢性組織炎症に伴う侵害刺激が感覚神経系によって逆行性に中枢へ伝播されて、これが何らかの応答反応を惹起する可能性が考えられる。そこで今後は、局所炎症モデルにおける脳組織内の炎症性物質濃度の測定を行う他、痛覚遮断等の手技により、末梢性炎症因子の影響と感覚神経系の逆行性シグナルの影響を分離評価して、腎不全の影響が血液脳関門を越えて中枢神経系に波及するメカニズムを明らかにするとともに、必要に応じ、培養細胞実験系を用い、炎症性因子の刺激により脳血管上皮細胞から二次因子が放出されることを検証する。また、引き続き、共同研究者と協働し、地域中核病院において入院患者の電子カルテを対象に、中枢神経作用薬の用法用量と腎機能の関係を遡及的に解析する。これら一連の研究で得られた知見は関連学会において適宜報告するとともに、学術専門誌上にて公表する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は年度末において当該年度予算の約5%が未執行となった。これは実験消耗品の納品遅滞に因るものである。未執行額は僅かであり、その要因も容易に改善可能である。予算執行上、特に問題となるものではないと考える。 研究費は計画通りに執行されている。必要消耗機材も適宜購入可能な状況であり、研究の遂行に支障を来すことはない。研究計画最終年度に予定している大型機材の導入はない。よって平成26年度配分の研究予算についても、当初計画を特に変更することなく執行する。
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Research Products
(6 results)