2012 Fiscal Year Research-status Report
Mタンパク糖鎖をターゲットとした多発性骨髄腫のバイオマーカ開発
Project/Area Number |
24590209
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Bunkyo Gakuin University |
Principal Investigator |
飯島 史朗 文京学院大学, 保健医療学部, 教授 (30222798)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 多発性骨髄腫 / 糖鎖 |
Research Abstract |
多発性骨髄腫で産生されるモノクローナル免疫グロブリン(Mタンパク)のL鎖には、健常人の免疫グロブリンL鎖にはみられない糖鎖が結合している。このMタンパク結合糖鎖に着目して骨病変などの合併症との関連を明らかにし、多発性骨髄腫の合併症の予測を可能とする新たな診断・治療マーカーの開発を目的とし研究を遂行した。 Mタンパク結合糖鎖を解析するため、骨髄腫患者32例における血清試料について、抗L鎖抗体を結合したカラムで精製した。SDS-PAGEによりMタンパクを分離した後、レクチンブロットにて20種類のレクチンと反応させ、合併症(再発、骨融解病変、髄外形質細胞腫瘤、貧血、腎障害、染色体異常等)との関連について統計解析した。 レクチンブロットの結果より、骨病変を有する患者由来のMタンパクL鎖結合糖鎖は、マンノースを特異的に認識するConAおよびN-アセチルグルコサミンを特異的に認識するBPAとの反応性が高いことが明らかとなった。このことから、骨病変とマンノースおよびN-アセチルグルコサミンとの関連が示唆された。さらに、この結合糖鎖の構造を明らかとするため、多発性骨髄腫患者由来の株化細胞、及び、複数の患者血清を用いてMタンパクからL鎖を精製後、MALDI-TOF/MS分析により糖鎖の質量を求めた。この糖鎖質量をもとにデータベースを検索し、さらにレクチンとの反応性も合わせて糖鎖構造を推定した。 その結果、骨融解病変を有する患者3例で共通に得られたm/z 2322、m/z 2267のピークは、ヒトで発現する糖鎖構造と一致した。これらの糖鎖構造は、骨融解病変を有さない患者血清からは検出されなかった。骨融解病変を有する患者血清から、マンノースが多く発現している共通のL鎖結合糖鎖構造が推測されたことより、多発性骨髄腫の骨融解病変発症機構において、糖鎖が深く関与していることを明らかとした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究計画は、1)Mタンパク糖鎖の基本構造の解析、2)Mタンパク糖鎖の結合位置の決定、3)Mタンパク糖鎖構造の決定、4)糖鎖と病態との関連検索であった。 1) Mタンパク糖鎖の基本構造の解析では、約30種の患者血清と20種のレクチンを用いて、MタンパクL鎖結合糖鎖の基本構造を検討した。その結果、多くは高マンノース型糖鎖が結合しており、そのほかに、混成型を結合したもの、少数であるが糖鎖の反応が見られないものが存在し、現在までにおおむね基本的な糖鎖構造の解析は完了した。 2) Mタンパク糖鎖の結合位置の決定に関しては、現在、質量分析法にて解析中である。 3) Mタンパク糖鎖構造の決定に関しては、骨融解病変を有する患者3例でm/z 2322、m/z 2267のピークがともに検出され、ヒトで発現する糖鎖構造と一致した。この糖鎖は、高マンノース型糖鎖であり、糖鎖構造が明らかとなった。 4) 糖鎖と病態との関連検索では、連携研究者と協力し、患者Mタンパク糖鎖構造解析の結果と、患者の臨床所見(新規治療薬の有効性、再発、骨融解病変、髄外形質細胞腫瘤、貧血、腎障害、染色体異常等)との関連について解析した。その結果、骨融解病変を示す患者由来の血清から得た糖鎖がConAおよびBPAレクチンとの反応性が高いことを明らかとし、ほぼ検索が終わった。 以上より、糖鎖結合位置解析を除いて、次年度以降にターゲットとする糖鎖を明らかとすることができ、ほほ平成24年度の目標を達成した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の項目を平成25-26年に順次実施する。 ・Mタンパクおよび骨髄腫細胞株表面糖鎖と結合するタンパクの探索と同定:糖鎖結合タンパク質の探索(骨融解病変との関連を中心として):平成24年度に病態との関連を明らかとした糖鎖を蛍光標識し、細胞培養系を用いて破骨細胞、骨芽細胞等の合併症に関わる細胞と混合して培養し、各種細胞株表面タンパクと糖鎖の反応性を解析する。さらに、糖鎖を結合させたビーズを作成して糖鎖と結合するタンパクを回収し、ペプチドマッピング法等によりタンパクを同定する。 ・Mタンパク糖鎖を形成する糖転移酵素の解析による糖鎖生合成メカニズムの解析:病態との関連が認められた糖鎖を生成する骨髄腫細胞株を用いて、ゴルジ体内の糖転移酵素活性や、遺伝子発現を解析するなどして、糖鎖の生合成経路を解析し糖鎖が生成するメカニズムを明らかとする。 ・Mタンパク糖鎖を用いた治療効果判定法の検討:細胞培養系での抗腫瘍薬の効果解析:細胞培養系を用いて、骨髄腫細胞株をサリドマイド、ボルテゾミブ等の新規治療薬で処理し、分泌されるMタンパク糖鎖構造の変化、合併症に関与する因子、血管新生に関わるサイトカイン等を測定し、治療効果の判定に有用な糖鎖構造変化を明らかとする。 ・Mタンパク糖鎖および骨髄腫細胞株表面糖鎖測定法の開発:これまでの結果をもとに、糖鎖構造を容易に検出するためのレクチンと抗免疫グロブリン抗体などを用いたサンドイッチELISA法を検討し、臨床応用可能なMタンパク糖鎖の迅速測定法を開発し、診断・治療マーカーとするための分析法を確立する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度に実施予定であった4項目のうち、Mタンパク糖鎖結合位置の決定に関しては、現在継続して行っている。このため、平成24年度研究費の残高は、主にMタンパク糖鎖の精製および質量分析に関する支出にあてる。 平成25年度の研究費は130万円を予定しており、その主な支出目的は、新たに開始する細胞培養実験に必要な血清、ディスポ器具、サイトカインなどのさまざまな試薬類の購入である。
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