2012 Fiscal Year Research-status Report
終末シュワン細胞極性発達過程の機能形態解析―特にカベオラと線毛について―
Project/Area Number |
24590247
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
岩永 ひろみ 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (30193759)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 細胞・組織 / 発生・分化 / カルシウム画像 |
Research Abstract |
カベオラと一次線毛は,受容体や細胞内信号系分子が集まる機能区域として細胞極性を統御するといわれる。皮膚感覚装置のグリアである終末シュワン細胞は特異な単極形を呈し,一本の索状突起が分岐して軸索終末のグリア鞘をなす。私はこれまでに,終末シュワン細胞のグリア鞘にアデノシン三燐酸(ATP)受容体とその共役G蛋白がカベオラとともに集積し,局所刺激に応じて独自のCa信号を生成する細胞内区域を構成することを報告した。本研究では,この細胞極性の発達過程を明らかにするため,幼若ラット頬ひげの槍型知覚終末を材料とし,グリアマーカーS100蛋白陽性の単極形終末シュワン細胞,星形シュワン様細胞,両者の中間形を線毛マーカーアセチル化チュブリンの免疫組織化学と通常の透過電顕によって比較観察し,分離組織標本の実験で細胞外からATPやその類似物質を与えたときの細胞応答をCa画像解析した。 免疫染色した星形シュワン様細胞は丸い細胞体から細い自由突起を5―10本放射し,毛包基底膜との対向面中央に長さ 2―3μmの一次線毛をみせた。中間形細胞は,細胞体の槍型終末寄りの半球だけから3―5本の突起をのばし,それらの少なくとも一部は槍型終末に達し,ときに軸索終末を被う鞘をなした。突起の集まる細胞半球中央に長さ 1―2μmの線毛がみられた。単極形終末シュワン細胞は,槍型終末に向う索状突起の基部に稀に短い線毛を示した。以上から,終末シュワン細胞の成熟過程で,毛包組織構築に依存した細胞極性が軸索との接触に依存したそれへと切り替わると考えられる。透過電顕でみた星形シュワン様細胞のカベオラは線毛近位部を囲む細胞膜ポケットに密集し,これらの細胞小器官の相互作用が示唆された。分離標本のCa画像解析では,星形シュワン様細胞が単極形シュワン細胞と同様にG蛋白共役型ATP受容体を機能的に発現していることが示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
動物としてラットとマウスを用いる計画であったが,初期の実験によりラットで良好な結果が得られるとの見通しを得たので,ラットを用いた実験データ収集を集中的に行った。 幼若動物槍型知覚終末の光顕レベルの免疫組織化学と超薄連続切片の透過電顕を計画し,生後2週,3週,4週令ラットの標本を作成・観察した。その結果,4週令ラットの槍型終末で,星形シュワン様細胞から中間形を経て単極形終末シュワン細胞までのさまざまな形態のグリア・マーカー陽性細胞が見出され,詳細な比較解析をすることができた。 星形シュワン様細胞が細胞外ATP刺激に対しCa応答するか否かを分離組織標本の実験で検討する計画をたて,ATPとその類似物質を細胞に投与する実験を実行し,この細胞が細胞外ATPの刺激に対しG蛋白共役型受容体を介してCa応答することを明らかにした。
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Strategy for Future Research Activity |
感覚装置の発達・維持・再生のため星形シュワン様細胞が単極形終末シュワン細胞として分化・動員される過程を詳細にする目的で,ラットの頬ひげ槍型知覚終末を材料とし,以下の実験を行う。 1.星形シュワン様細胞の分布が,動物の年齢によって,また,支配神経切断・縫合後の再生過程でどのように変化するかしらべる。 2.星形シュワン様細胞に発現するATP受容体亜型を生理・薬理学的に同定し,受容体の細胞内局在を免疫組織化学で明らかにする。 3.細胞外ATP刺激で誘発される星形シュワン様細胞Ca信号の時空特性を高速リアルタイム共焦点顕微鏡で解析し,一次線毛・カベオラの細胞内分布との関係を検討する。 4.星形シュワン様細胞のCa応答によって賦活または抑制される細胞内信号系の候補を,各種信号系分子のリン酸化・非リン酸化識別抗体を用いた免疫組織化学によって検索する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
上記1.に関しては,前年度で行ったのと同様のグリアマーカー・線毛マーカー免疫組織化学と超薄切片透過電顕による観察を異なる年齢の動物や実験的再生槍型終末の動物に応用し,幅広く検索する。そのため,標識抗体,四酸化オスミウム,電顕用包埋樹脂が必要である。 上記2.に関して,京都大学から緑色蛍光蛋白GFP結合S100蛋白を発現する遺伝子改変ラットの供与(有料)を受け,この動物の頬ひげ毛包からコラゲナーゼ消化によって槍型終末標本を分離して,目的の細胞をGFP蛍光で同定しながらATPおよびその類似物質を与えたときのCa応答を画像解析する。そのため,Ca感受性蛍光プローブ,高価な種々のATP類似物質を使用する。また,特殊なラットの飼育・維持のため実験補助員が必要である。 上記3.に関して,2.と同様に観察目的の細胞を遺伝子改変ラットの標本で同定し,高時空分解能の画像記録・解析を行なう。画像記録には,当研究機関に設置されたニコン・イメージングセンターの機器を使用する。その際,利用料を支払う。 研究成果を日本解剖学会全国学術集会(宇都宮市)で発表する予定である。 24年度未使用額は実験動物(野生型ラット4匹)の購入・管理(飼料等)にあてる予定だったが,予想していたより少数の動物で信頼できるデータが得られたので未使用額として残った。これまでのデータ解析の結果,新たに遺伝子改変ラットを用いた実験をする必要が生じたので,未使用額はそのための動物購入・管理に使用する予定である。現在,この遺伝子改変ラットを用いた実験計画を学内の委員会に申請し,許可が下りるのを待っているところである。
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Research Products
(3 results)