2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24590277
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
大河内 善史 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (90435818)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | プロトンチャネル / 貪食細胞 / 活性酸素 |
Research Abstract |
これまでの研究により、電位依存性プロトンチャネルVSOPが貪食細胞で作られる活性酸素の量を制御すること、この制御にはVSOPによる膜電位の制御とpHの制御が必要であることを示してきた。また、VSOPは殺菌に必要な各種酵素を含む小胞のエキソサイトーシス(脱顆粒)を制御する可能性が示された。本年度では脱顆粒の制御について実験を行った。細胞外に放出される各種酵素の活性を測定した実験から、VSOPノックアウト(VSOP-KO)マウスの好中球では、1次顆粒の放出が野生型よりも亢進していることがわかっていた。この事実を証明するために、電子顕微鏡を用いて1次顆粒の数が減少しているかどうか調べた。活性酸素を作る酵素であるNADPHオキシダーゼを活性化する薬剤PMAで好中球を刺激した後、1次顆粒のみに含まれるミエロパーオキシダーゼの活性を利用してDAB染色を行い、観察した。その結果、PMAで刺激されたVSOP-KOマウスの好中球ではDAB染色された顆粒の数が野生型よりも減少していることが明らかになった。すなわち、1次顆粒の脱顆粒の亢進が確認された。1次顆粒に含まれる各種酵素の過剰な放出は炎症の悪化、組織損傷を引き起こすことが知られているため、感染実験を行った。カンジダ真菌を投与されたVSOPマウスは野生型と同様に生存する一方で、感染5日目の肺組織を観察した結果、炎症症状が野生型よりも顕著に現れていることが分かった。炎症部位を詳しく観察したところ、炎症の指標となるマクロファージ、好中球の浸潤が認められた。また、泡沫マクロファージや多核マクロファージが多数観察されたが、野生型では確認されなかった。組織損傷は認められなかった。すなわち、VSOPは真菌によって誘発される炎症抑制に関与することが示唆された。以上の結果は、VSOPによって制御される好中球の脱顆粒が炎症抑制につながる可能性を示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
貪食細胞における膜電位の役割を解析することを目的に、VSOPの機能に着目して実験を行った。活性酸素の産生を制御するVSOPの機能は、今まで報告されてきた機能であるNADPHオキシダーゼの活性を制御するという側面だけであったが、今回の実験により、顆粒の放出を制御することで、活性酸素の量を制御するという側面を合わせ持つことを明らかにした。この結果は、VSOPが制御する膜電位とpHが顆粒放出制御に関わることを示す新しい発見である。また、真菌感染によって引き起こされる炎症症状の所見は、膜電位とpHの制御が個体に与える影響を評価した重要な結果である。 研究実績の概要には記載していないが、以下の実験を進めている。貪食細胞における膜電位の役割を明らかにするために、IgGをコートしたカバーガラスに好中球を加え、IgG刺激によって活性化される過程におけるVSOPの機能を調べている。ヒトの好中球を用いることと、VSOPの活性を阻害する亜鉛イオンを用いて、好中球が病原菌を除去する過程における膜電位の役割を解析する方法を確立した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、初年度に確立した膜電位計測法を用いて、好中球においてVSOPが関わる脱顆粒の制御機構を調べる。また、VSOP-KOマウスの好中球は走化性異常を示すことから、走化性の制御機構についても詳しく調べる。VSOPは、膜電位、pH以外に細胞内に流入するカルシウム濃度を制御することが知られている。膜電位、pH、カルシウムそれぞれの因子に着目して、脱顆粒、走化性にとって必要な因子を特定する。 脱顆粒を測定する方法としては、酵素活性を指標に行う。その他には、脱顆粒の増減を膜容量の変化として捉えられる電気生理学的手法を用いて解析する。脱顆粒は様々な因子によって活性化されるが、走化性を誘導する因子はVSOP-KOマウスの好中球で見られる脱顆粒を亢進させない。脱顆粒を誘導する他の因子、IgG、補体といった貪食誘導因子、インターロイキン、ケモカインといった貪食細胞遊走因子に着目し、VSOP-KOマウスの好中球の脱顆粒を亢進させる因子を特定する。 走化性に関しては、トランスウェルチャンバーによる集団解析と顕微鏡を用いた個々の細胞動態の解析を行う。トランスウェルチャンバーを用いて、fMLF以外の走化性因子に対する応答を調べる。真菌に対する走化性の指標であるC5a、ケモカインKCやMIP2について調べる。顕微鏡を用いた実験では、pH、膜電位、カルシウムに感受性を示す各種蛍光色素を用いて、VSOPによる走化性を制御する因子を特定する。また、個々の細胞の動態を観察し、速度、角度を調べ、VSOPが制御する走化性行動の機能を明らかにする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したため、当初の見込み額と執行額は異なったが、研究計画に変更はなく、前年度の研究費も含め、当初の予定通り計画を進めていく。
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Research Products
(5 results)