2012 Fiscal Year Research-status Report
卵巣交感神経支配に対するエストロゲンの可塑的影響の解析
Project/Area Number |
24590308
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所) |
Principal Investigator |
内田 さえ 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (90270660)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 卵巣 / エストロゲン / 交感神経 |
Research Abstract |
研究代表者はこれまでに,卵巣交感神経が卵巣の血流とエストロゲン分泌を抑制する事実をラットで明らかにしてきた.近年,卵胞期などのエストロゲンが高まる時期に子宮の交感神経支配が消退することが報告されている.卵巣でも子宮と同様に,エストロゲンにより交感神経支配が抑制され,卵胞発達や卵細胞保護に好環境となる可能性が考えられる.本研究はエストロゲンが卵巣の交感神経に及ぼす可塑的影響とその機序を解明することを目的とした. 平成24年度は卵巣支配の二通りの交感神経が共に作用を持つ卵巣血流抑制反応について,エストロゲン投与の急性および慢性作用を調べた.本実験では先行研究で報告された妊娠後期の血中濃度に相当するエストロゲン投与量を用いた.エストロゲンを急性投与(単回投与)したラットでは,交感神経刺激で起こる卵巣の血流抑制反応が対照群と同程度に認められた.一方,エストロゲンを慢性投与(2週間持続皮下投与)したラットの一部では,交感神経の血流抑制反応の明らかな減弱が認められた.この減弱は,卵巣を支配する二通りの交感神経(卵巣動脈神経と上卵巣神経)のいずれにおいても観察された.また,エストロゲン持続投与群の約4割で卵巣萎縮(重量低下)が認められた.これらの結果は,エストロゲンは急性では殆ど影響がないが,慢性には卵巣組織の萎縮や交感神経の血流抑制作用を減弱させる可塑的変化を起こす可能性を示唆する.エストロゲン投与量の増加や投与期間の延長により,エストロゲンの可塑的影響をより確実に観察できる可能性があり,今後の課題である. 生体内で起こる内部環境変化として大きな因子であるエストロゲンの増加が卵巣交感神経機能に及ぼす影響を解明する本研究は,卵巣の交感神経調節系の役割,無排卵などの卵巣病態の解明に役立つと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は,生体内におけるエストロゲンの増加が,卵巣交感神経に与える可塑的影響を形態的および機能的に解析し,更にその可塑的影響の機序を解明することを目的とする.卵巣交感神経の機能的解析としては,研究代表者が既に報告した卵巣の血流とエストロゲン分泌に対する抑制性調節への影響を調べる計画である.また卵巣交感神経の形態的な変化についても観察し,機能変化との関連を見出す計画である.その際,エストロゲンの影響が急性作用で現れるのか,慢性作用で現れるかを明らかにする必要がある. 平成24年度の研究においては,卵巣交感神経の血流抑制反応に対するエストロゲンの影響について検討した.その結果,エストロゲンは急性(単回投与)には顕著な作用はないものの,慢性(2週間持続投与)には,卵巣交感神経の血流抑制機能を減弱させる傾向が認められた.また交感神経の安静状態(低頻度興奮)と最大興奮時(20Hz程度)の異なる状態に対するエストロゲンの影響を検討することができた.24年度の研究成果を踏まえて,今後エストロゲン投与量の増加,投与期間を延長して観察する必要性や,逆に生体内エストロゲン濃度を低下させた状態(エストロゲン合成酵素阻害薬投与)での観察をする必要性などが考えられた.卵巣交感神経に対するエストロゲンの可塑的な影響を明らかにしようとする新規性,独創性の高い本研究課題において,24年度成果はおおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成24年度の研究において,エストロゲンを2週間持続皮下投与したラットでは,卵巣交感神経の血流抑制作用が減弱傾向を示す個体の存在,卵巣が萎縮した個体の存在が明らかとなった.これらの結果はエストロゲンが卵巣交感神経に対して,可塑的な影響を示す可能性を示唆する.この結果を踏まえて今後以下のことを検討し,本研究目的であるエストロゲンの卵巣交感神経に対する可塑的影響を解明する. 1.エストロゲンの投与量を増加,または投与期間を長期化(3~4週間)した場合に卵巣交感神経の機能に影響が現れるか検討する.2.生体内のエストロゲン量を減少させた状態(エストロゲン合成酵素の阻害時)についても卵巣交感神経機能を検討する.3.交感神経のもう一つの作用である卵巣ホルモン分泌抑制機能に対する影響についても,今後検討する予定である.4.エストロゲン投与が子宮支配交感神経を消退させることが知られているように,形態的に卵巣支配交感神経の消退を起こしている可能性があり,今後の検討課題である.これらの研究から,エストラジオールが卵巣交感神経の形態および機能(血流とホルモン抑制)に及ぼす影響を明らかにする. また,5.エストロゲンが卵巣交感神経を消退させる作用が認められた場合には,軸索伸長抑制因子(セマフォリン)の発現量の変化を検討する.更に,6.卵巣のコリン作動系に対するエストロゲンの影響についても明らかにし,エストロゲンの卵巣交感神経に対する可塑的影響の作用機序や随伴現象を明らかにする.
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
次年度の研究推進のため,研究費を実験に必要な消耗品,研究成果発表のための旅費,研究協力者への謝金などの用途に用いる. 1.次年度の研究において,エストロゲンやエストロゲン合成酵素阻害薬などをラットに長期間持続投与した際の,卵巣交感神経の機能を検討する.この実験のために,①薬液の持続投与に適したポンプ,②エストラジオールやその合成酵素阻害薬などの薬物,等の消耗品の購入に研究費を使用する. 2.次年度の研究において,卵巣の血流やホルモン分泌の測定,卵巣交感神経の刺激などを麻酔下ラットを用いてin vivoで観察する予定である.更に,卵巣や支配神経の形態観察を行う予定である.これらの実験のために,①精密な手術器具,②血中エストラジオール濃度の測定試薬,組織固定液,染色液,各種抗体,等の試薬,③神経刺激用の電極(白金イリジウム線など)の消耗品の購入に使用する. 3.国内外の学会にて積極的に本研究の成果を発表・討論し,最新の情報を得て,その後の研究の進展に役立てる必要がある.学会参加のための旅費に研究費を使用する. 4.実験の補助にあたる研究協力者への謝金や,英文論文発表にあたり英文校閲費用に使用する.
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Research Products
(7 results)