2013 Fiscal Year Research-status Report
卵巣交感神経支配に対するエストロゲンの可塑的影響の解析
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24590308
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Research Institution | Tokyo Metropolitan Geriatric Hospital and Institute of Gerontology |
Principal Investigator |
内田 さえ 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター(東京都健康長寿医療センター研究所), 東京都健康長寿医療センター研究所, 研究員 (90270660)
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Keywords | 卵巣 / 交感神経 / エストロゲン |
Research Abstract |
研究代表者はこれまでに,卵巣交感神経が卵巣の血流とエストロゲン分泌を抑制する事実をラットで明らかにしてきた.卵胞期や妊娠時などのエストロゲンの高まる時期に子宮の交感神経支配が消退することが知られている.卵巣でも子宮と同様に,エストロゲンにより交感神経支配が抑制され卵胞発達や卵細胞保護に好環境となる可能性が考えられる.本研究はエストロゲンが卵巣交感神経に及ぼす可塑的影響とその機序を解明することを目的とする. 昨年度の本研究において,エストロゲン(17βエストラジオール)は急性では殆ど影響しないが,慢性(2週間持続皮下投与)には卵巣組織の萎縮や交感神経の血流抑制作用を減弱させる可塑的変化を起こす可能性を示唆した.この結果を受けて,平成25年度はエストロゲン投与期間の延長により,その可塑的変化が明確化するか検討した.昨年度と同様に,先行研究で報告された妊娠後期の血中濃度に相当するエストロゲン投与量を用いた.交感神経(上卵巣神経)の2Hz刺激による血流低下反応の大きさは,対照群で約24%,エストロゲン2週間投与群で約19%,4週間投与群で約9%であった.交感神経の20Hz刺激による血流低下反応の大きさは,対照群で約89%,エストロゲン2週間投与群で約77%,4週間投与群で約80%であった.すなわちエストロゲン投与期間の延長により,交感神経の特に低頻度刺激(2-5Hz程度)による血流抑制作用がより減弱した.通常の交感神経活動頻度は一般に1-3Hz程度であることから,エストロゲンの慢性作用は通常の状態における交感神経の血流低下作用を減弱している可能性がある.エストロゲン慢性投与は,交感神経のエストロゲン分泌抑制作用にも影響を及ぼす可能性があり,今後の課題である. エストロゲン増加が卵巣交感神経に与える可塑的影響の解明は,卵巣の交感神経調節系の生理的役割,無排卵などの卵巣病態の解明に役立つと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当該研究は,生体内におけるエストロゲンの増加が,卵巣交感神経に与える可塑的影響を形態的および機能的に解析し,更にその可塑的影響の機序を解明することを目的とする.卵巣交感神経の機能的解析としては,研究代表者が既に報告した卵巣の血流とエストロゲン分泌に対する抑制性調節への影響を調べる計画である.また卵巣交感神経の形態的な変化についても観察し,機能変化との関連を見出す計画である.その際,エストロゲンの影響が急性作用で現れるのか,慢性作用で現れるかを明らかにする必要がある. 平成25年度までの研究においては,卵巣交感神経の機能的解析として,研究代表者が既に報告した卵巣血流の抑制性調節への影響について検討した.その結果,エストロゲンは急性(単回投与)には顕著な作用はないものの,慢性(2~4週間持続投与)には,卵巣交感神経(上卵巣神経)の血流抑制機能を減弱させる傾向が認められた.その減弱作用はエストロゲン投与期間が2週間よりも4週間に延長することで明確化した.更に交感神経の高頻度刺激(20Hz程度)よりも,低頻度刺激(2-5Hz程度)に対する血流抑制反応に対してエストロゲンの減弱作用が顕著に現れる興味深い特徴を見出すことが出来た.25年度までの研究成果を踏まえて,今後,卵巣交感神経の血流抑制作用に加えてエストロゲン分泌抑制作用に対する影響,更には交感神経の形態的変化についての観察に研究を進展させる予定である. 卵巣交感神経に対するエストロゲンの可塑的な影響を明らかにしようとする新規性,独創性の高い本研究課題において,25年度までの成果はおおむね順調に進展していると考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
平成25年度までの本研究において,エストロゲンの慢性持続皮下投与により,卵巣交感神経(上卵巣神経)の血流抑制作用が減弱する傾向にあり,その減弱効果はエストロゲンの投与期間を2週間から4週間に延長することにより明確化することが明らかとなった.更に,そのエストロゲン作用は,交感神経の高頻度(20Hz程度)刺激による血流抑制反応よりも,低頻度(2-5Hz程度)刺激による血流抑制反応で,より顕著に現れる傾向が認められた.通常の交感神経活動頻度は一般に1-3Hz程度であることから,エストロゲンの慢性作用は通常の状態における交感神経の血流低下作用を減弱している可能性がある. これらの結果を踏まえて,今後以下のことを検討し,本研究目的であるエストロゲンの卵巣交感神経に対する可塑的影響を解明する. 1.エストロゲン慢性投与は,交感神経のエストロゲン分泌抑制作用にも影響を及ぼす可能性がある.今後のエストロゲン分泌への影響も検討する予定である.2.エストロゲン慢性投与による卵巣交感神経機能の抑制の機序の一つに,交感神経支配の消退が予想される.この可能性を交感神経支配の形態的観察あるいは卵巣ノルアドレナリン量の測定実験により検討する.3.エストロゲン慢性投与による卵巣交感神経機能の抑制の機序の他の可能性として,交感神経のアドレナリン受容体数の減少が考えられる.この可能性を調べるため,卵巣のアドレナリン受容体数の測定実験の検討を考えている.
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Research Products
(7 results)