2013 Fiscal Year Research-status Report
生活習慣病に繋がるエピゲノム変化が胎生期低栄養により形成される機序の解明
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24590399
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Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
佐藤 憲子 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (70280956)
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Keywords | 胎生期低栄養 / 子宮内環境 / 生活習慣病 / 遺伝子発現 |
Research Abstract |
胎生期の環境は生涯に続く健康状態に影響を及ぼす。既報の疫学研究によると、胎生初期に低栄養などの悪環境に曝露された場合、胎生後期の曝露に比べて肥満、糖脂質代謝異常や心血管系疾患のリスクが高くなる。またコモンディジーズとしての異常が顕在化するのは中年以降であるが、病気と診断される以前から血中代謝物濃度の変化が開始している。本実験では、従来明確に問われていなかった曝露期間の重要性と意味、すなわち妊娠初期の曝露の効果を明らかにするために、実験群には妊娠前期のみに限定して母マウス(F0)に低タンパク質食を与えた。F1成体(雄)の白色脂肪組織及び肝臓を8-9週齢で採取し、DNAマイクロアレイを用いて遺伝子発現差を網羅的に解析した。その際、自由摂食、24時間絶食、24時間絶食後24時間再摂食状態の3群にわけて調査した。老齢化していない8-9週齢の時点で絶食の負荷をかけることによって、妊娠前期の低栄養による遺伝子発現の変化を検出した。24時間絶食後肝臓におけるコントロール群と実験群の遺伝子発現の差をSAM (Significance Analysis Microarrays)法で解析した。FDR < 10, p < 0.05, Fold change > 1.5の条件で絞ると実験群で発現が低下した遺伝子数は約70、上昇した遺伝子数は約140であった。発現低下した遺伝子の中ではシャペロンに属する分子が統計学的に有意に多かった(Enrichment score = 3.6, Bonferroni corrected p-value = 0.004)。実験群で発現に差がみられた遺伝子の約7割は、コントロール群でみられる絶食に応答した発現上昇あるいは低下が損なわれている可能性があった。胎生初期低栄養によって、絶食に対する生体応答が弱められている可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
成体組織における胎生初期の低栄養による遺伝子発現の変化を、絶食負荷の条件を加えて解析する目的を達成することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
遺伝子発現変化のメカニズムを解明することが課題である。この点について、本解析で得られた結果において発現に差が見られた遺伝子の多くが発生期に発現する遺伝子であることから、胎生初期の栄養状態の撹乱によってそれらの遺伝子発現制御が影響を受けエピゲノム状態を変化させている可能性があると推測される。いわば過去の発現調節の歴史が痕跡的にクロマチン構造に残ることが、成体における発現状態の多様性を生み出している可能性がある。オープンソースの着床前胚や嚢胚期周辺胚、及びMGIの遺伝子発現データを参照し、本実験で発現に差の見られた遺伝子の、胚正常発生における発現時期のパターンを解析することも有用ではないかと考えている。 また、妊娠初期の低栄養が代謝物(メタボライト)の濃度に及ぼす影響を解析し、遺伝子発現との関連性を考察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
動物組織調整用の必要な試薬の単価が大きいため、25年度内の残額では足りず購入しなかったが、26年度に購入することにした。 動物組織調整用試薬は26年度に購入する。
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