2013 Fiscal Year Research-status Report
人工制限酵素とウイルスベクターとを利用した高効率遺伝子修復治療法の開発
Project/Area Number |
24590405
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Research Institution | Saitama Medical University |
Principal Investigator |
三谷 幸之介 埼玉医科大学, 医学部, 教授 (10270901)
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Keywords | 遺伝子ターゲッティング / iPS細胞 / 遺伝子治療 / TALEN / アデノウイルスベクター / SCID-X1 / CRISPR |
Research Abstract |
ヒトiPS細胞を用いて、これまでのHPRT遺伝子座に加えてIL2RG遺伝子座を標的として、ヘルパー依存型アデノウイルスベクター(HDAdV)でドナーDNAを導入する場合の遺伝子ターゲッティング(GT)効率と、人工制限酵素(TALEN もしくは CRISPR)によって染色体上の標的IL2RG遺伝子座を切断した場合のGT効率とを比較検討した。 1) IL2RG遺伝子座のイントロン4をPGK-neoカセットで置き換える形のターゲッティングHDAdV(HDAd-hIL2RG-neo)を作製した。5’と3’の相同領域の長さはそれぞれ8.7 kbと11.1 kbとした。大量産生後のHDAd-hIL2RG-neoベクターの感染力価は、2.0 x 10E11/mlであった。 2) このベクターのみ、もしくはこのベクターとIL2RG遺伝子座のエクソン1を認識するTALEN(Stanford大学のMatt Perteus博士より供与)を同時にヒトiPS細胞株TIG3/KOSM(産総研の中西真人博士より分与)へ導入し、IL2RG遺伝子座でGTが得られる頻度を測定した。その結果、HDAdVのみの時に比べ、TALENを発現することによって、GT効率は約3倍上昇した。 3) 一方、今年になって注目されている、CRISPR/Cas9と呼ばれるguide RNAによって標的DNAを認識する新たな人工制限酵素法を利用し、CRISPRの有無でHDAdVを用いた場合のGT効率を測定した。その結果、HDAdVのみを用いた場合に比べ、IL2RG イントロン4を標的とするCRISPRを発現する事で約10倍上昇した。しかし、CRISPRのみを用いる場合(ドナーはプラスミドDNA)でも100%に近い効率でGTが得られた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
前年度の、HPRT遺伝子座を標的としたHDAdVとTALENを同時に用いた場合のGTの促進効果を、IL2RG遺伝子座で再現することが出来た。両方とも、HDAdVとTALENの組み合わせのGT効率がHDAdVのみよりも2~3倍高く、「HDAdVを用いた場合と人工制限酵素を用いた場合のGT促進のメカニズムは異なる」という、本研究開始時の仮説を支持する結果が得られた。ただし、2~3倍という上昇率は再現性があるにせよ予想されたほどは高くなく、それがベクターのデザインによるものかそれとも他に原因があるのか、検討する必要がある。 また同時に、昨年より急速に注目されているCRISPRの技術も研究室に導入することが出来た。その結果判明したことは、同じIL2RG遺伝子座を標的とした場合のGT効率を比較しても、CRISPRによる二本鎖切断の効率はTALENと比べてそれのみでおそらく10倍以上高いために、HDAdVと組み合わせた場合の結果の評価が難しい。単独で比較した場合の効率はCRISPR > HDAdV > TALENとなった。この比較はこれまでに報告されておらず、興味深い知見である。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画に戻り、HDAdV感染後にベクター上の相同領域の末端をI-SceI酵素で切断した場合のターゲッティング効率が更に上昇するかを検討する。また、TALENやCRISPRと組み合わせてもHDAdVによるGT効率は2~3倍しか上昇しなかったため、ベクターのhomology armsのデザインなどを再検討する必要がある。 さらに、安全性についての知見を得るため、TALEN/CRISPRによる方法とHDAdVによる方法との標的細胞染色体に与える非特異的影響を調べる。そのために、γH2AXを用いた免疫染色による染色体上のDSBの導入頻度とcaspase活性測定によるapoptosis誘導を検討する。 本研究により染色体組み込みの50~100%でGTが得られているが、染色体組み込み自体が稀な現象であるため、DNAを導入した細胞あたりのGT効率を考えた場合、現在のところ1000個に1個程度の効率でしかない。本研究の究極的な目的は、得られた知見を応用し、様々なヒト細胞を用いた遺伝子修復治療法プロトコールにおいて、細胞当たりのGT効率がより高い(目標は細胞10個に1個以上)方法を確立することである。この標的として、IL2RG 遺伝子の欠損で起きる、X連鎖重症複合免疫不全症(SCID-X1)を考えている。この応用に向け、SCID-X1患者由来の細胞の入手は困難であることから、患者由来細胞のモデルとして、人工的にIL2RG遺伝子座のエクソン1を破壊したiPS細胞とそれ由来の線維芽細胞は、すでに樹立済みである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
東北大学から入手を予定していた、SCID-X1患者由来の細胞が入手出来なかったために、それからのiPS細胞誘導などの実験が遅れた。その代わりとして、人工的な変異iPS細胞などを樹立したが、トータルの費用としては、計上した額と比べると使用実績が下回った。 新たに樹立した細胞株などを使用して実験を進めるので、iPS細胞の培養と遺伝子ターゲッティング細胞の解析のために必要な、試薬とディスポーザブル器具の経費は、最終的には、最初に計上したとおりになると考えられる。
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