2012 Fiscal Year Research-status Report
交感神経系神経堤幹細胞及び神経芽腫幹細胞の分離同定と分化階層の解析
Project/Area Number |
24590434
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The Japanese Red Cross Toyota College of Nursing |
Principal Investigator |
黒川 景 日本赤十字豊田看護大学, 看護学部, 教授 (90399030)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
岩下 寿秀 浜松医科大学, 医学部, 教授 (00283432)
村上 秀樹 愛知医科大学, 医学部, 准教授 (90303619)
佐賀 信介 愛知医科大学, 医学部, 教授 (40144141)
川井 久美 名古屋大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (50362231)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 神経芽細胞腫 / 腫瘍幹細胞 / 副腎髄質 / 交感神経神経堤幹細胞 |
Research Abstract |
① 神経芽腫細胞のsphere形成能と分化能の解析 神経芽腫の多くの細胞株で、神経突起様の形態を示すN-typeと平たく広い細胞質を示すS-typeが混在し、互いに形態が変化しうる現象 (transconversion) が知られており、このことが腫瘍幹細胞性と分化階層を検討する上で技術的に困難な点となる。そこでまず、N-typeおよびS-typeに特徴的な表面マーカーを検討した。これまでの研究で、RT-PCRを用いてN-type、S-typeそれぞれにつき約150種の表面マーカーのmRNAの発現を調べ、その結果から絞り込んだ表面マーカー蛋白の発現を蛍光抗体法で検討すると、N-typeはCD24(+)CD44(-)、S-typeはCD24(-)CD44(+)であることが明らかとなった。SK-N-SHとSK-N-BE(2)の2種類の細胞株でCD24とCD44の発現をFACS及び蛍光抗体法で検討すると、それぞれに陽性を示す細胞分画を確認できた。SK-N-SHの単細胞クローン化した細胞株を神経堤幹細胞の培養条件で培養すると、N-typeのクローンはsphereを形成しなかったのに対し、S-typeのクローンはsphere形成がみられた。尚、単細胞クローン化の際に、N-typeとS-typeの両方の形態を示す単細胞クローンは極めて少数のみで増殖が遅く、最終的には増殖の速いN-typeの細胞で占められたため、sphere形成能の検討ができなかった。 ② 副腎髄質交感神経細胞の表面マーカーの検討 マウスの副腎髄質においては、神経堤幹細胞のマーカーと報告されているp75陽性細胞が認められた。一方、神経芽腫細胞で見られるCD24、CD44陽性細胞の存在は判然としなかった。セルソーターでp75陽性細胞を分画し神経堤幹細胞の培養条件で培養したが、単一細胞からのsphereの形成は得られなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
SK-N-SHの表面マーカーの検討から、CD44陽性を示すS-typeのクローンにsphere形成能があるようだが、このクローン自体は長期に培養しても神経突起を伸長するN-typeに変化せず、形態的多様性は確認できない。腫瘍幹細胞の検討のためには、親株の細胞株からセルソーターで分画ごとに単一細胞を分取し、sphere形成能や表面マーカー分画の再構成、形態的多様性を検討する必要があるが、セルソーターの不調もあり研究が遅れた。また、愛知医科大学で継代維持されていたSK-N-SHには、他の神経芽細胞腫細胞株にない特徴として、神経堤幹細胞のマーカーとされているp75陽性分画が観察されたが、継代しているうちにp75の発現が低下した。p75を神経芽腫幹細胞のマーカー候補として注目していたため、新たに細胞バンク (European Collection of Cell Cultures: ECACC) からSK-N-SHを導入したが、p75の発現を確認できなかった。このため、p75に関する検討は困難な状況となった。 マウスの副腎髄質においては、神経堤幹細胞のマーカーと報告されているp75陽性細胞が認められたが、神経芽腫細胞で見られるCD24、CD44陽性細胞は確認できず、神経芽腫の系と共通のマーカーで分化階層を説明することが困難な状況である。動物種、あるいは生理的な細胞・組織と腫瘍の違いといった要因が考えられる。セルソーターでp75陽性細胞を分画し神経堤幹細胞の培養条件で培養すると、まとまった数の細胞からはsphereが形成され、分化培養条件下に神経、グリア、平滑筋それぞれのマーカーで3方向への分化が確認できるが、単一細胞からのsphereの形成はうまくいっていない。 以上、当初の作業仮説通りには研究が進展していないこと、技術的に検討を要する事項があり、予定より研究が遅れている。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、神経芽腫細胞の表面マーカーとして、CD24、CD44、p75が検討の対象となり、sphere形成能の検討では、CD44陽性細胞がより神経芽腫幹細胞に近い性質を持っている可能性が示唆されているものと考えられる。本年度末に、愛知医科大学高度研究機器部門に、分画の解像度が改善され、分取効率の上がった新型のセルソーター(BD社FACS Aria) が導入されたため、これまでの遅れを取り戻すよう、研究を進める。単一細胞からの分画の再構成や形態の特徴、sphere形成能や spehereからの分化能を検討する。NOD-SCIDマウスを用いた造腫瘍能に関しては、腫瘍を単一細胞からの腫瘍を検討し、分取した各分画から増殖する細胞の形態の多様性や、どのような分画の細胞が出現するかを検討し、神経芽腫幹細胞と想定される分画を明らかにする。 副腎髄質交感神経系の幹細胞についてはも、新しいセルソーターの導入によって分画した細胞の分取効率が上がることが期待される。p75陽性分画を分取した後のsphere形成に関しては、単一細胞からは、文献的に報告されている神経堤幹細胞の培養のようにはうまくいっていないため、培養条件を検討する必要がある一方、セルソーター分取時の細胞障害についても考慮する必要があり、より穏やかな条件下で細胞を分取できるマグネットビーズ法の導入を含めて、実験方法の検討と確立を図る。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本研究は、必要な研究機器が整った前任地愛知医科大学との共同研究の形で実施しているが、現任地における研究も推進するために、研究機器の整備を必要とする。今年度は顕微鏡を導入したが、予算の都合上、対物レンズ等の部品でそろっていないものが残っているため、次年度に整備を進める。また、顕微鏡写真撮影装置の導入を計画する。これら研究機器をコントロールするために必要な電子機器や、データ解析および研究発表用のコンピューター、ソフトウェアについても導入を図る必要がある。現任地での研究体制の強化のための機器の整備に重点を置く研究費使用計画とし、抗体、バッファー等の研究試薬については、現任地から支給される研究費とあわせて購入する。動物実験については愛知医科大大学で実施しているので、動物購入費や研究試薬購入費の一部については分担研究者の研究費を使用する予定である。
|