2014 Fiscal Year Research-status Report
胃がんの組織内多様性と遺伝子のエピジェネティックな変化の関連性
Project/Area Number |
24590444
|
Research Institution | Tokyo Medical and Dental University |
Principal Investigator |
秋山 好光 東京医科歯科大学, 医歯(薬)学総合研究科, 講師 (80262187)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 胃がん / 組織多様性 / メチル化 / ヒストン修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
胃がんでは同一組織内に腺管形成が明瞭な分化型とがん細胞がバラバラと散在性に認められる未分化型の両方が混在している場合がしばしば認められる。本研究では、この組織内多様性について遺伝子のエピジェネティックな変化をヒト胃がんと未分化型胃がん発症マウスを用いて検討した。 ヒト胃がん組織を用いてヒストン修飾関連遺伝子SET7/9とSETDB2の免疫組織化学染色を行った。その結果、376例中129例(34.3%)の胃がん組織でSET7/9のタンパク質発現の低下が認められた。SETDB2は71例中30例(42.2%)で高発現していた。SET7/9は進行がんの深部浸潤部分で発現が低下しており、予後との関連性も示唆された。胃がん細胞株を用いてSET7/9とSETDB2の発現調節機構の解明を進めており、ヒストン修飾状態の違いがこれらの発現に強く関わっていることがわかった。機能的にはSET7/9はがん抑制、SETDB2はがん促進的に働くことを明らかにした。一方、胃がん組織内では転写因子GATA4の部分的な発現低下も複数のがん組織で検出された。我々は既にGATA4発現には遺伝子メチル化が関与していることを報告しているので、メチル化状態の違いがGATA4の組織多様性に関わる可能性が推測された。 p53とE-cadherinのダブルノックアウトマウスの原発性胃がんから細胞形態が異なる複数の培養細胞株(roundとflat型)を樹立した。これらは転写因子Twist1の発現が異なっていた。本研究により、Twist1のプロモーター領域とは異なる部分(領域X)のメチル化とヒストン修飾、および転写因子Sp1の結合能がTwist1発現に密接に関わることが明らかになった。現在、1つの胃がん組織からTwist1発現が異なる2つの培養細胞系を樹立できたので、両者のエピジェネティックな変化の違いについて検討している。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
胃がんの組織多様性におけるSETタンパク質の発現異常、およびTwist1とGATA4の転写のメカニズムをエピジェネティックな面から解析した。SET7/9の発現低下とSETDB2の発現亢進は胃がん組織内でも深部浸潤部(特に未分化型胃がん部分)で認められることがわかった。細胞実験の結果、SET7/9はヒストンアセチル化の違いが重要であることが示唆された。一方、SETDB2については現在検討中であるが、同様にヒストン修飾系の違いと転写因子mycの発現が異なる可能性を得ている。これらSET遺伝子の機能は今まで不明であったが、本研究によりSET7/9はがん抑制、SETDB2はがん促進的に働くことが明らかになった。またGATA4も同様に組織内で多様な発現パターンを示すなど、今後の組織多様性を解明する上で重要な遺伝子が見つかった。 未分化型胃がんマウスモデルを用いた実験系でも、胃がん細胞株を複数分離できた。現在、引続き検討中であるが、少なくとも転写因子Twist1の発現が異なっていた。樹立した胃がん培養細胞をもとにエピジェネティックな変化を検討したところ、メチル化とヒストン修飾パターンによるエピジェネティックな変化の違い、および転写因子Sp1のメチル化領域への結合能の違いがTwist1発現に必須であることがわかるなど、新規の結果が多数得られた。また、1つの胃がん組織からTwist1発現が異なる2つの培養細胞系を樹立でき、これらはヒストン修飾パターンが異なっていた。 本研究により、ヒストン修飾の違いが胃がんの組織多様性に関わる可能性が示唆された。これらの成果を3年間で論文掲載までいくことはできなかった。現在、第1回目の論文投稿の準備中であるため、おおむね順調に遂行できたものと考えられる。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成26年度までに胃がんにおけるSET7/9とSETDB2の発現異常、およびマウス未分化型胃がんでのTwist1のメチル化変化を明らかにした。この遺伝子発現にはエピジェネティック変化が重要であり、かつその変化が組織多様性にも関わっている可能性を得た。現在、論文としてまとめているが、一部の追加実験が必要である。 今回明らかになったSET7/9とSETDB2がなぜ組織内で異なる発現様式を示すのかを明らかにするため、その発現調節に関わる上流のメカニズムの解明(特にヒストン修飾の役割)を継続して行う必要がある。また、胃がんマウス実験系では、1つの胃がん組織からTwist1発現が異なる2つの培養細胞系を樹立できたので、メチル化状態がどうなっているのかを突き止める必要がある。研究計画(パラフィン切片解析部分)を変更して、これら遺伝子の組織内発現への関与を検討しているため、未使用額が生じた。現在、論文を作成しているが、論文投稿後に追加実験の可能性などが考えられ、最終年度以降も研究を継続することとなった。以上の理由をもとに、補助事業期間の延長申請を行い、承認された。
|
Causes of Carryover |
平成26年度までに、ヒト胃がんにおけるSET7/9とSETDB2の発現異常、およびマウス未分化型胃がんとヒト胃がんで共通のTwist1のメチル化変化を明らかにした。更にこれら遺伝子発現にはヒストン修飾変化や転写因子の結合状態も必須であることがわかり、組織多様性への関与も推測された。そこで、当初の研究計画であるパラフィン切片解析部分を変更して、上記の研究を進めており、未使用額が生じた。現在、これらの論文を作成中である。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記のため、本研究が継続中であるため、未使用額の一部はその経費に充てることとしたい。更に、Twist1およびSET7/9の研究成果を論文および学会で発表する経費としても使用したい。
|
Research Products
(8 results)