2012 Fiscal Year Research-status Report
脳疾患に伴うコミュニケーション障害に対する定量的評価法の開発に関する研究
Project/Area Number |
24590628
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Okayama Prefectural University |
Principal Investigator |
中村 光 岡山県立大学, 保健福祉学部, 教授 (80326420)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福永 真哉 姫路獨協大学, 医療保健学部, 教授 (00296188)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 医療・福祉 / リハビリテーション |
Research Abstract |
本研究は、認知コミュニケーション障害を簡便かつ定量的に評価する新しい(日本で初めての)方法を開発・確立することである。 本年度は、まずは欧米においてすでに開発・発表されている認知コミュニケーション障害のテストバッテリーを取り寄せ、その特性や長所・短所について、研究代表者・研究分担者・研究協力者で検討した。そして、日本の文化に適合していて日本でも無理なく使えるであろう観察評価尺度を1つに絞り、まずは原版(The Pragmatic Rating Scale)の著者から使用許諾を得た。 次にこれを日本語に翻訳し、さらに日本語・英語のバイリンガルに逆翻訳を依頼し、原版との照合を行った。また、このパイロット版を、本評価法の適用者として想定されている成人の認知機能障害者(高次脳機能障害者)の小集団に使用した。それらによって見つかった不具合に対し、パイロット版に若干の加筆・修正を行い、日本語版試案を完成させた。 日本語版試案が完成したので、認知コミュニケーション障害を示す高次脳機能障害者24名の談話のようすを撮影・収録したビデオを作成し、3名の評価者に対して独立して、試案を用いてそのコミュニケーションのようすを評定するように求めた。評定値を統計学的に検定したところ、満足すべき一致係数が得られたので、本試案は十分な信頼性をもつ、臨床において使用可能な尺度として公表することが可能となった。 ここまでの実績については、研究協力者の藤本憲正らと論文にまとめ、学会誌に投稿準備中である(平成25年4月に投稿済み)。また、上記の開発の過程で、認知コミュニケーション障害の評価法の1つとして「言語流暢性課題」が用いられることを発見し、第1段階として高齢者におけるデータを収集した。この成果についても、研究協力者の藤本憲正・李ダヒョンらと論文にまとめ、学会誌に投稿準備中である(平成25年5月に投稿済み)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
上記の通り、本年度はまず、認知コミュニケーション障害の簡便かつ定量的な評価法(観察評価尺度)を1つまとめあげることが出来た。当初の計画では、評価法の信頼性に関しての基礎データを得るところまでを今年度の計画としていたので、予定以上に早く研究が進展していることになる。この理由としては、われわれが選定した原版(英語における尺度)が予想よりも良質のものであり、日本語においても安定した測定が可能なものであったことが上げられる。 また、すでに公表されている欧米における認知コミュニケーション障害のテストバッテリーを検討した中で、「言語流暢性課題」が認知コミュニケーション障害の評価法として用いられる場合があることを発見した。特に、一般的な「名詞」ではなくて「動詞」の課題が認知コミュニケーション障害の評価に有用な可能性があることがわかり、今まで日本では動詞の言語流暢性課題は行われていないので、その標準的な方法を確立し、健常高齢者に実施して、その基礎データを得ることが出来た。このように、観察評価法以外の評価方法を開発することは、当初は25年度以降の計画としており、それについても一部前倒しで成果を上げていて、当初計画以上の進展と見なすことが出来る。
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Strategy for Future Research Activity |
少なくとも以下の1と2について平成25年度に実施し、さらに平成26年度に実施する予定の3について、その道筋を探り、可能であれば25年度内に一部着手する。 1.まずは当初の予定通り、すでに開発された尺度が、成人の高次脳機能障害者だけでなく、認知症者にも適用できるものかを確かめる。認知症者はその患者数がとても多いので、認知症者のコミュニケーション障害の評価にも適用可能であることがわかれば、本評価法の応用範囲は飛躍的に拡大し、今までは主に記述的研究によってのみ検討されてきた認知症者のコミュニケーション障害の特徴について、定量的な評価が可能になる。 2.認知コミュニケーション障害の評価法には、観察評価尺度以外にも、物語を読んでの内容の認識、ことわざ・比喩・慣用句の理解と発話、ユーモアの理解、情景画や4コマ漫画を見ての発話、発話の抑揚やプロソディの認識などの検査課題が考案されている。欧米のこれらの検査課題について、原版の趣旨を尊重しつつ日本文化・日本語に合わせた翻訳を行い、日本語としての検査課題を作成する。特に、本年度の研究で、言語流暢性課題も検査課題の1つとなる可能性があることがわかった。言語流暢性課題の特性、高次脳機能障害者への適用についても、引き続き検討を進めていく。 3.今年度の研究および上記の研究によって、私たちは日本で初めて、成人の認知コミュニケーション障害を評価する複数の方法を手に入れたことになる。最後は、それらを駆使して、認知コミュニケーション障害の本質をより明らかにする。そして、高次脳機能障害者や認知症者のコミュニケーションの問題に対する、新たな支援・介入の方法を検討する。さらに、認知コミュニケーション障害は発達性の障害、すなわち精神遅滞児や広汎性発達障害児においても同種のものが認められる。これらの障害に対する、われわれの評価法の適用可能性についても検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
「次年度使用額」が生じた状況については、本年度は大学からの研究費の支援もあわせて受けられたことがある。また、研究成果が予定よりも早く生み出せる見込みになったので、研究成果発表の強化も意図して、一部を平成25年度に使用することにしたためである。 物品費は、図書等研究資料、記録メディア、文具、論文別刷などの購入に使用する。また、OSの定着状況(Windows7か8か)を見極めるために本年度には購入しなかった検査用ノートパソコンを購入する。さらに、研究成果を発信するために、ホームページを開設する。 旅費は、上記の通り研究成果発信の強化を予定し、成果発表のためと視察調査・情報収集のための学会等参加旅費として主に使用する。特に研究成果発信のために、研究代表者が指導する大学院生・藤本憲正が、秋に「日本高次脳機能障害学会」(於:島根)で成果の一部を発表する。また、同じく大学院生・李ダヒョンが、秋に「韓国老年学会」(於:韓国)で成果の一部を発表する。 人件費・謝金は、新たな評価方法の開発に伴い、評価に協力してもらう被験者への謝金、およびデータの入力と研究資料の整理のためのアルバイト賃金として使用する。 その他として、学会参加費などに若干の支出がある。
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