2015 Fiscal Year Annual Research Report
近代臨床医学成立過程における疾病概念の再構築に関する研究
Project/Area Number |
24590633
|
Research Institution | Juntendo University |
Principal Investigator |
坂井 建雄 順天堂大学, 医学部, 教授 (90114488)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
澤井 直 順天堂大学, 医学部, 助教 (40407268)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 疾患 / 医学実地 / 医学理論 / 医学教育 / 医学史 |
Outline of Annual Research Achievements |
西洋医学においては、古代から疾患の原因は体液の不均衡に求められ、19世紀になって臓器の病変や細胞の病的変化に、あるいは外来の病原体に求められるようになった。その変化の過程を明らかにするために、歴史上の医学書を収集して内容を分析した。サレルノ医学校は10世紀後半に南イタリアのサレルノに生まれた医学教師のゆるやかな共同体で、明確な学校組織や校舎を持たなかったが、「アルティセラ」による理論的な医学教材および実用的な教材である医学実地書を編んで、その後のヨーロッパの医学教育の枠組みを作り上げた。医学理論書としては後にアヴィケンナの『医学典範』のラテン語訳がよく用いられるようになり、16世紀後半のフェルネルの『医学』(1554)以降はさまざまな著者が5部構成(①生理学、②病理学、③徴候学、④健康学、⑤治療学)の医学理論書を著した。その生理学は古代のヒポクラテスとガレノス以来の体液理論を基本としていたが、18世紀初頭にブールハーフェの『医学教程』(1708)は体液節を排して機械論的な生理学を試みた。個別の疾患を扱う実用的な医学書は11世紀頃にサレルノ医学校の医師ガリオポントゥスによって初めて書かれ、原則として頭から足まで身体の部位別の疾患と全身性の熱病を扱った。ブールハーフェの医学実地書の『箴言』(1709)は、疾患を症状・病態により配置する新しい形式を試行し、それが発展して18世紀後半に疾患を症状・病態により分類するソヴァージュの疾病分類学として結実した。19世紀に入ると医学理論と医学実地からなる医学教育の枠組みはなくなり、基礎医学と臨床医学からなる新しい医学教育の枠組みが成立した。今回の研究は、18世紀以前の疾病概念の構造とその変遷、およびそれを支えたヨーロッパの医学教育の枠組みを明らかにした。
|