2012 Fiscal Year Research-status Report
抗リン脂質抗体症候群の新たな鑑別診断法の確立と病態発症機序の解明
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24590696
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Yamaguchi University |
Principal Investigator |
野島 順三 山口大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (30448071)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 抗リン脂質抗体 / ELISA / 全身性エリテマトーデス |
Research Abstract |
抗リン脂質抗体症候群(APS)は、リン脂質に関連する自己抗体である抗リン脂質抗体の出現と、それに伴う極めて多彩な合併症(脳血管障害・虚血性心疾患・深部静脈血栓症・肺塞栓症・閉塞性動脈硬化症・習慣性流死産など)を特徴とする自己免疫性血栓塞栓性疾患である。これまでの研究で、抗リン脂質抗体は抗原特異性が多様であり、認識するエピトープの違いにより、抗カルジオリピン抗体(aCL)・抗β2-グリコプロテインI抗体(aβ2GPI)・抗ホスファチジルセリン/プロトロンビン抗体(aPS/PT)・抗アネキシンII抗体(aANII)・抗アネキシンV抗体(aANV)・抗プロテインS抗体(aPS)・抗キニノゲン抗体(aKN)など、同一の患者血中に数種類の抗体が混在していることが明らかとなっているが、各種抗リン脂質抗体を同時に鑑別測定できる検査法は確立されていない。 本研究では、種々のエピトープ提供タンパク(β2GPI・PT・ANII・ANV・PS・KN)を用いて、認識エピトープ別に抗リン脂質抗体を鑑別測定できるELISAを確立し、画像診断および臨床検査所見により既に合併症の有無が確定したSLE184例(動脈血栓症32例、静脈血栓症39例、習慣性流死産24例、血小板減少症19例を含む)を対象に、各種合併症の発症に特異的な抗リン脂質抗体のタイプを統計学的に特定した。動脈および静脈共に血栓性合併症の発症にはaβ2GPIとaPS/PTが独立して関連していた。一方、習慣性流死産の危険因子としてはaCL/β2GPIの存在が最も強く、血栓性合併症と妊娠合併症では関連している抗リン脂質抗体のタイプが異なっている可能性が示唆された。また、血小板減少症の発症にはaβ2GPIとaPS/PTが強く関連しており、APS患者の血小板減少症には、抗体による免疫学的機序と血栓形成による消費が重なって病因となっている可能性が考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度の研究実施計画は、認識エピトープ別抗リン脂質抗体ELISAの開発とAPS鑑別診断検査法の確立であった。 現在までの研究で、aCL・aβ2GPI・aPS/PT・aANII・aANV・aPSなど認識エピトープ別抗リン脂質抗体ELISAを確立し、SLE184例を対象とした臨床研究から、各種合併症(動脈血栓症・静脈血栓症・習慣性流死産・血小板減少症)の発症に特異性の高い抗リン脂質抗体のタイプを特定した。本研究成果により、「APS患者の血中には多種多様な抗リン脂質抗体が混在しており、それぞれの抗体が持つ種々の血栓形成作用が複雑に絡み合ってAPS特有の多彩な合併症が引き起こされる」という新たな疾患概念が立証された。さらに、本研究で確立した認識エピトープ別抗リン脂質抗体ELISAシステムを用いることにより、陽性抗体のタイピングにより個々の患者毎にAPS合併症パターンおよび発症リスクをある程度予測することが可能となり、当初の研究目的を概ね達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
各種抗リン脂質抗体の血栓形成作用の解明 1.代表的なAPS患者血漿(既に保有しているaβ2GPI単独陽性患者3例・aPS/PT単独陽性患者3例・aANII単独陽性患者2例・aANV単独陽性患者2例・aPS単独陽性患者3例・aKN単独陽性患者2例)からProtein GカラムにてIgG分画をアフィニティー精製した後、それぞれの抗原(ホスファチジルセリンとエピトープ提供蛋白の複合体)をリガンドとした抗原カラムクロマトグラフィーを用いて各種抗リン脂質抗体を単離・精製する。 2.正常ヒト臍帯動脈内皮細胞(HUAEC)と末梢単核球細胞(PBMC)の共培養系(細胞接着系とセルインサートシステムによる細胞非接着系)を作成する。 3.単離・精製した各種抗体(aβ2GPI・aPS/PT・aANII・aANV・aPS・aKN)を各培養系に添加し、それぞれの条件下における血管内皮細胞の形態変化を画像解析するとともに、培養上清・HUAEC・PBMCをそれぞれ回収し、次の4、5の実験を行う。 4.HUAECおよびPBMC内のTF・TNF-α・IL-1β・IFN-γ・MCP-1・VCAM-1のmRNA発現量をリアルタイムRT-PCR法にて、細胞表面TF発現をフローサイトメトリーにて比較検討する。 5.培養上清中のTNF-α・IL-1β・IL-6・IFN-γ・MCP-1の濃度を各ELISAにて、NO濃度を比色法(Griess法)にて、活性酸素代謝産物濃度(diacron-Reactive Oxygen Metabolites: dROMs)および抗酸化力価(Biological Antioxidant Potential: BAP)を専用キットにて比較検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度の研究を遂行するにあたり、研究施設・研究設備品等はほぼ整っている。研究に必要な研究経費は、主に試薬・薬品に関連する消耗品費用である。 平成25年度は、各種抗リン脂質抗体の単離・精製と血栓形成作用の解明に関する研究を予定しており、①各種抗リン脂質抗体の単離・精製のためのプロテインGカラムや抗原カラムクロマトグラフィー関連器具および試薬、②正常ヒト臍帯動脈内皮細胞を中心に細胞培養関連試薬、③各種サイトカイン(TNF-α, IL-1β, IL-6, IFN-γ, MCP-1)測定用ELISAキット、④各種(TF, TNF-α, IL-1β,VCAM-1, MCP-1)mRNA発現定量のためのリアルタイムRT-PCR関連試薬、⑤各細胞内シグナル伝達測定用キット(Trans AM ELISA, Fast Activated Cell-based ELISなど)、⑥各シグナル伝達経路阻害剤(SB203580・PDTC・PD98059・JNK inhibitorなど)、⑦酸化ストレス度測定のためのd-ROMsキットおよびBAPキット、⑧NO定量用Griess試薬、⑨その他実験用器具などを購入する。 本年度の認識エピトープ別抗リン脂質抗体ELISAの開発において、ELISA関連試薬として各種固相化抗原蛋白費用を計上していたが、研究が順調に進んだことにより、予定よりも低額に抑えられたため、未使用額が43,456円生じた。この未使用額については、H25年度に計上した各種サイトカイン(TNF-α, IL-1β, IL-6, IFN-γ, MCP-1)測定用ELISAキットの購入費と併せて使用する。
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