2013 Fiscal Year Research-status Report
大脳皮質におけるGABA機能の慢性疼痛による変化とその意義の解明
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24590739
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Research Institution | Kitasato University |
Principal Investigator |
石橋 仁 北里大学, 医療衛生学部, 教授 (50311874)
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Keywords | 慢性痛 / 大脳皮質 / GABA / 穿孔パッチクランプ / 細胞内クロライド濃度 |
Research Abstract |
申請者らは、慢性疼痛時に大脳皮質一次体性感覚野(S1)の興奮性が上昇することがアロディニアの発現に重要な役割を果たしていることを報告した。また、同時にS1のGABA(A)受容体の機能にも変化が生じていることがわかってきた。しかし、そのメカニズムや意義は全く不明であった。本研究では、慢性疼痛時の大脳皮質一次体性感覚野で生じるGABA(A)受容体の機能変化とそのメカニズムを解明するとともに、その意義を明らかにすることを目的に研究を行っている。昨年度、後足へフロイント完全アジュバント(CFA)を適用した慢性痛時モデルマウスを用い、第2/3層抑制性ニューロンの活動をCa2+ イメージングにより観察すると、抑制性ニューロンの活動がCFA群で高いことがわかった。そこで、本年度は抑制性介在ニューロンの活動が高いにもかかわらず、S1全体の興奮性が下がらない原因を探ることにした。 大脳皮質の各領域からの出力を担っているのは錐体ニューロンであることから、本年度は、S1の第2/3層錐体ニューロンのGABA応答について検討した。まずホールセルパッチ法を用いて検討を行った。第2/3層を電気刺激することにより記録した抑制性シナプス後電流(evoked IPSC)の性質には顕著な差は認められなかった。第4層を電気刺激することにより記録されるフィードフォワード抑制に関しては増強されている傾向は見られたが、有意差は認められなかった。ホールセル法では、細胞内の塩化物イオン濃度を生体本来の濃度に保てないため、次にグラミシジン穿孔パッチ法を用いてevoked IPSCの性質を検討した。その結果、CFAモデルでevoked IPSCの逆転電位が正の電位にシフトしていることが明らかとなった。この結果は、細胞内塩化物イオン濃度が上昇していることを示唆しており、今後このメカニズムや意義について検討したいと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成25年度は、コントロールマウスと慢性疼痛モデルマウスから作製した脳薄切片(スライス)に、スライスパッチクランプ法を適用して、大脳皮質一次体性感覚野錐体細胞のGABA応答の電気生理学的性質について基礎的検討を行うことができた。この解析の中で、通常のホールセルパッチ記録法を用いた状態ではコントロール群と慢性疼痛モデルで有意な差を見いだすことが出来なかったが、グラミシジン穿孔パッチ法を用いることで、細胞内塩化物イオン濃度が上昇しているという新たな発見をすることができた。また、これらの成果を2013年6月に開催された第36回日本神経科学大会(Neuro2013)のシンポジウムで発表することができた。 以上の様に、予定していた実験でほぼ順調に成果が得られており、研究は順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究から、慢性疼痛時には大脳皮質一次体性感覚野のGABA応答が変化することがわかったので、平成26年度は、慢性疼痛時にGABA機能が変化する生理学的・病態生理学的意義を明らかにすることに焦点をあてて研究を遂行したいと考えている。すなわち、大脳皮質のGABA機能を薬物などにより抑制することにより慢性痛が発生するか、発生するとすればそのメカニズムはどの様なものであるかを明らかにする研究を遂行したいと考えている。具体的には、これまでの予備実験から、慢性疼痛を発症する後足と同側の大脳皮質一次体性感覚野のGABA機能を抑制すると、対側の後足に慢性痛が発症することがわかっているので、このメカニズムの解明を行う。 この現象の原因として考えられるのが、脳梁を介した半球間抑制の阻害である。すなわち、通常、慢性疼痛時には、慢性疼痛が生じた足と対側の一次体性感覚野の活動が上昇する。その情報は脳梁を介して反対側にも到達するが、この投射は抑制性ニューロンを活性化するので、慢性疼痛の足とは同側の一次体性感覚野原の活動は低下する。このときGABA機能を抑制すると、対側の足を支配する一次体性感覚野が興奮し、支配下の足に慢性疼痛が生じると考えている。今後はこの仮説の検証を行っていきたいと考えている。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
慢性疼痛モデル動物の大脳皮質のGABA受容体機能が変化していることを発見し、そのメカニズムの解明に関する研究を遂行したが、研究代表者が生理学研究所から北里大学へ異動したため、本年度は電気生理学的手法を用いた研究に焦点をあてて研究を行った。そのため、当初予定していた生化学的手法を用いた研究を次年度に行うこととしたので、次年度使用額が生じた。 細胞内塩化物イオン濃度が増加するメカニズムの解明を次年度使用額を利用して解明する。そのため、細胞内塩化物イオン濃度を調節するトランスポーターやイオンポンプの発現を免疫染色やウエスタンブロット等の手法を用いて解析する予定である。
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