2012 Fiscal Year Research-status Report
MRSAの新規SCCmec-ACME複合体の遺伝子構造解析と分子疫学調査への応用
Project/Area Number |
24590751
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Sapporo Medical University |
Principal Investigator |
漆原 範子 札幌医科大学, 医学部, 講師 (80396308)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小林 宣道 札幌医科大学, 医学部, 教授 (80186759)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | MRSA / ACME / SCCmec / 分子疫学 |
Research Abstract |
arginine catabolic mobile element(ACME)は,黄色ブドウ球菌(S. aureus) に新たに見いだされた可動性エレメントで,代表的な市中感染型メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(CA-MRSA)クローンである USA300 の蔓延に寄与したと考えられている。ACME カセット内のアルギニン代謝遺伝子群(arc cluster)によりアンモニアが生成され,皮膚の弱酸性条件下(pH4.2-5.9)での定着能を高めると考えられている。ACMEはメチシリン耐性を担う遺伝子 mecA を含むゲノムアイランド,Staphylococcal Cassette Chromosome mec (SCCmec) に近接して挿入され,ACME- SCCmec 複合体を形成している。近年,ヨーロッパ,オーストラリアにおいて,USA300に代表される遺伝子型 ST8-MRSA-IVaとは異なる SCCmec 型の分離株でACME が多く検出されている。加えて最近の知見から,ACME のゲノムへの挿入様式に多様性があること,ACME 領域内の遺伝子配列の改変が現在も進行中であることが示された。当研究室では,日本で最も多く見られる SCCmec 型であるタイプ II,さらにタイプ VのMRSA からACME を見いだし,その遺伝子構造を明らかにした。日本での ACME 保有株は極めて少ないが今後の増加が懸念されることから,本課題では国内における ACME 保有 MRSA 株の動態を明らかにすることを目的とし,(1) ACME 保有率の推移,(2) ACME- SCCmec 複合体の遺伝子構造の多様性を明らかにし,(3) ACME 保有株の遺伝的系統・薬物感受性・病原遺伝子プロファイル等の解析を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成 24 年度は,2008 - 2011 年に札幌医科大学にて分離された黄色ブドウ球菌(うち MRSA 601 株),2012 年に札幌ならびに近隣の病院にて分離された黄色ブドウ球菌(うち MRSA 422 株)について解析を行った。S. aureus では,これまでに arc cluster と opp cluster を持つタイプ I 型(ACME I),arc cluster のみを持つ II 型(ACME II),さらに arc cluster の周辺配列が短い truncated form(ΔACME II)の 3 タイプが報告されている。ACME-arc を保有する菌体を PCR にて選別し,ACME 型タイピングを行い,その挿入箇所ならびに周辺配列の構造決定を行った。併せて Multilocus sequence typing(MLST)法による sequence type(ST)の決定,コアグラーゼ遺伝子型判別,プロテイン A をコードする遺伝子の多型による spa 型の決定等による系統解析を行った。 ACME I は7 株で検出された。CA-MRSA クローン USA300 と同様,SCCmec IVa の下流に存在していており,さらに遺伝子型が ST8,spa type t008 であることから USA300 と近縁の株であると判定された。 ΔACME II は 22 株において検出され,うち 21 株が II 型,1 株が V 型の SCCmec であり,いずれも各々の SCCmec の上流に挿入されていた。日本で特に多い SCCmec II 型 MRSA について,周辺の配列を含めた ACME-SCCmec 複合体の遺伝子構造を解析したところ,介在配列の有無・SCCmec 内の構造の相違等により 3種に大別された。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き,S. aureus 臨床検体における ACME- SCCmec 複合体の遺伝子構造の解析,系統解析を行う。 当初の予定では,新規に分離された S. aureus を研究対象とするとともに,研究室内に保存されている菌体を,年次を遡る順序で解析する予定であった。しかしながら,これまでの調査から S. aureus における ACME 検出率はこの数年の間に増加しているがいまだ 1.5 % 程度であり,平成 24 年度に調査した 2008 年以前の分離株ではさらに検出率が低いことが予測された。そこで,より多数の ACME- SCCmec 複合体の遺伝子構造を得るために, S. aureus のみではなく,コアグラーゼ陰性ブドウ球菌 (CoNS)を対象に加え,同様の解析を進めることとした。ACME が初めて報告されたのは MRSA USA300 株であるが,これまでの報告により代表的な CoNS である S. epidermidis から水平伝播した可能性が高いと推察されている。加えて S. epidermidis における ACME 保有率は約 50 % と高いこと等からも,ACME の遺伝子構造多様性を解析するのには適しているものと考える。CoNS臨床分離株は,札幌医科大学臨床検査室からの供与が可能であり,実験手技ならびに実験器具も S. aureus と同様のものを適用できる為,研究計画の大幅な変更は無い。現在解析を行っている S. aureusと同様,分離された菌体は番号化し個人を特定できないよう配慮し,データを保管するコンピュータはウイルス対策ソフトがインストールされパスワード管理がなされたものするなど情報の紛失・漏洩等の防止に努める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
研究を進めていく上で必要に応じて研究費を執行したが,事前の予備検討により,反応スケールの縮小を含め実験が効率的に進展し,当初の見込み額に比べ,執行額が 1,031,600 円下回った。 次年度の研究費の使用計画は以下の通りに推算した。 消耗品費として,1,531,600 円を計上した。内訳は,遺伝子実験関連試薬 831,600円(酵素,オリゴヌクレオチド合成,PCR 関連試薬,シークエンス関連試薬,分子量マーカー),遺伝子解析ソフトウエア 400,000 円, プラスチック器具200,000 円(汎用チューブ,プレート,ピペット),そして細菌培養・保存関連試薬100,000 円とした。 旅費として,200,000 円を計上した。これは,延べ2人分の成果発表,あるいは調査資料収集を目的とした国内学会参加に必要な額として推算した。 他費用として,論文投稿に関する校正・掲載費等に必要な額として,300,000 円を計上した(英文論文 2 報分)。
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Research Products
(6 results)