2013 Fiscal Year Research-status Report
高齢者慢性疾患のケアに対する汎用性の高いシステムを用いた遠隔診療の臨床的有効性
Project/Area Number |
24590815
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Research Institution | Kyorin University |
Principal Investigator |
本間 聡起 杏林大学, 医学部, 准教授 (30190276)
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Keywords | 遠隔診療 / 遠隔医療 / 診断精度 / 遠隔モニタリング / 高齢者医療 / 慢性疾患 / 遠隔聴診 / 医療情報システム |
Research Abstract |
本研究の目的は、移動の困難な高齢慢性疾患患者の経過観察や慢性疾患増悪時の早期発見による予後改善や生活の質の向上に資する遠隔診療の普及を図ることである。本研究のシステムは患者自身が血圧、体重、体温、歩数の生体データを日常的に自己測定し、これらの測定値を通信技術にてサーバに蓄積するものと、月1回の遠隔診療で構成される。システムを構成する機器やASPサービスは、全て市販で入手可能なものとした。遠隔診療システムには、通常の対面診療で行われるバイタル計測とIPテレビ電話による視診に市販予定の遠隔聴診システムを備えた。全体のシステムの接続試験終了後、福島県の老人施設と医師のいる東京の医療機関とを結んだ遠隔医療実験を開始した。実験協力患者は、同施設の利用者と近隣の仮設住宅在住の高齢者39名で2013年6月から順次、エントリーした。日常の自己測定は、認知機能の低下のため操作が困難であった2名以外は、全員が測定を継続しており、認知機能と身体機能がほぼ自立した高齢者では自己モニタリングは可能と考えられた。遠隔診療システムのデータ送信トラブルも機器の設定を調整し復旧した。遠隔診察用の記録システムも、聴診記録や画像の保存のほか通信状況や診察所要時間を含めた客観的な記録に有用であった。この間に遠隔診療を行う医師による対面診察の実施と通院医療機関での診療録の閲覧も行い、遠隔診療との対比を行った。その結果、視診と聴診に関する所見に差異は認めず、遠隔聴診所見と胸部レントゲン所見も一致した。一方でテレビ電話の撮影範囲外の皮疹は遠隔診察では気づかれなかったものや、陰部の病変などは遠隔診察では患者が訴えなかったものもあった。現段階では、今回の汎用性の高い遠隔診療システムの稼働は良好で、予め特定の観察項目を設定できる慢性疾患の経過観察には遠隔診療は可能で、かつ客観的なデータの記録・保存に優れる利点も示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、使用する遠隔診察システムの構築スケジュールについて、いくつかの理由で、その実用実験への供用可能時期に若干の遅れが生じた。まず、遠隔診療システムの構成要素について、測定項目に変更はないが、使用する機器や通信規格に若干の変更が生じた。患者が行う自宅での日常の遠隔モニタリングについて、測定データのBluetoothによる送信システムが不安定であることが、我々の北海道と東京を結んだ遠隔モニタリング実験で判明し、本実験のような高齢者には特に適応に問題があると判断されたため、通信方式をNFCに変更した。また、新たに通信機能をもつバイタルモニタ装置が市販されたことや、市販予定の遠隔聴診システムの開発が遅れたこと(結局、市販直前のシステムを使用)も遅延の理由である。これらの点は、今回の研究の趣旨の一つである、「市販品で構成され、かつ特別なIT専門知識を要さずに構築できる遠隔診察システムを用いた検証実験」とのコンセプトに基づいてシステムの要素の再選択を行った。さらに、遠隔診療実験の対象者が当初、予定していた2つの施設のうち東京都内のものが施設側の事情で不可となったため、福島県の老人ホーム群1か所で行うこととなった。ただ、実験終了後の解析に当たり、必要と思われる対象数を確保するため、福島県の対象施設と交流のある仮設住宅住民も新たに対象に加えるため、その準備・調整もあり、実験協力者のエントリー終了も当初予定より遅れた。しかし、各対象者について1か年の期間の実験を行う予定であることから、2014年12月までに全対象者の実験が終了する予定であり、その後、約3か月後の結果解析期間も残されていることから、概ね順調に進行していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、2014年6月から12月までの期間に順次、全対象患者が1か年の実験期間を終了するのに伴い、遠隔診療実験が完了する予定である。本実験の評価項目は、全実験期間中のシステムの稼働状況とトラブルへの対処法などシステムの実用性に関する評価、各対象者への実験前後のアンケート結果の評価、遠隔診察と対面診察での病態評価に関する差異の検証(対面診察は遠隔診察を実施する医師による所見とかかりつけ医による診療記録上の所見の両方)など多岐にわたる分析を行う。今後、対面診察に関するデータとしては、各対象者の実験終了直後に遠隔診察医師による対面診察の2回目の実施と、かかりつけ医の診療記録の閲覧を再度、実施する予定である。また、約半数の実験協力患者については、かかりつけ医が協力医療機関とは異なるが、これらの診療録の閲覧も可能か、今後、折衝を試みる。これが可能ではない場合は、病態把握に必要な協力医療機関での血液検査等の実施も個別に検討する。 以上の検討項目については、全体の実験終了時点で総論的な評価を行うが、例えば、遠隔聴診システムなど各論的な項目やシステムの稼働状況については、今年度中に中間報告を遠隔医療学会または医療情報学会などの関連学会で報告する予定である。全実験終了後は速やかに結果の分析を行い、各検討項目に関する各論と包括的運用法に関する総論的な報告を国の内外での論文発表形式で行う準備に進む予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
実験開始時期が当初予定より遅れ、次年度にずれ込んだ期間が生じたことが理由である。すなわち、この移動した期間中の実験のランニング・コスト代(ASPサービス使用料、実験補助者への謝金、実験フィールドへの出張旅費等)が2013年度の使用分から2014年度に繰り越された。 2014年12月の実験全部の終了までに理由の項目に記したランニング・コスト代、すなわち、ASPサービス使用料、実験補助者への謝金、実験フィールドへの出張旅費等を使用する予定である。このほか、学会発表のための旅費、統計解析用のソフトウェア代などを予定している。なお、当初の予定よりも対象者の実験エントリー期間が約3か月の延長となったため、全実験実施期間もその月数の分、延長となった。しかし、上記の実験継続により発生する各ランニング・コスト項目のほとんどが月当たりの実施対象人数により計算されるものなので、総額としては、ほとんど変更は生じないと概算される。
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