2013 Fiscal Year Research-status Report
癌・間質相互作用を標的とした胃癌転移に対する新しい治療法の開発
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24590918
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
北台 靖彦 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 准教授 (10304437)
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Keywords | 腫瘍微小環境 / 癌間質反応 / 消化管癌 / 転移 |
Research Abstract |
【目的】近年、間質は癌細胞との相互作用の結果、癌の増殖・進展を促進することが明らかとなりつつあるが、従来の抗腫瘍薬は主に癌細胞に働き、間質に対する効果を期待し開発されたものは少ない。一方、これまで我々はヒト大腸癌と胃癌同所移植ヌードマウスモデルでPlatelet-derived growth factor receptor (PDGFR)リン酸化阻害剤が間質反応を抑制することを報告してきた。平成25年度は二種類の分子標的薬を併用することで、腫瘍細胞とともに、活性化した間質構成細胞を同時に抑制し、大腸癌の増殖、転移に対する効果について検討を行った。 【方法】ヒト大腸癌組織の間質量を定量化し、腫瘍組織中のPDGF-B発現量との相関を検討した。大腸癌胃癌ヌードマウス同所移植モデルと実験的肝転移モデルを用い、分子標的治療薬であるPDGFR阻害剤 (imatinib, nilotinib) とmTOR阻害剤 (everolims) 併用による原発巣と肝転移巣に対する抑制効果を評価した。 【結果】ヒト大腸癌組織においてPDGF-Bは癌細胞で発現がみられ、腫瘍間質の多い腫瘍で発現レベルが高かった。また、PDGF-Bを高発現する大腸癌細胞株(KM12SM細胞)をヌードマウスの大腸壁に移植すると間質反応の強い腫瘍を形成した。PDGFR-βはCAF, ペリサイトに発現していた。KM12SM腫瘍にPDGFRリン酸化阻害剤を投与すると、腫瘍辺縁部において間質反応や腫瘍浸潤が抑制された。しかし、mTOR阻害剤投与では間質の変化は認めず、腫瘍浸潤傾向は増していた。腫瘍細胞や血管内皮細胞に対しては抑制作用を有していた。両阻害剤を併用することで、さら強い腫瘍増殖・肝転移抑制効果が認められた。 【結語】間質の豊富な大腸癌に対しては、癌細胞のみならず、活性化した間質構成細胞を同時に抑制することで、より強い腫瘍増殖、肝転移抑制効果を示す可能性が示された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画に記載した項目のうち達成できたのは下記の項目である。 ①胃癌と大腸癌組織を用いた免疫組織学的検討:胃癌、大腸癌の手術材料およびヌードマウス移植腫瘍組織における間質反応の定量化 ②ヌードマウス同所移植モデルを用いた治療実験:胃癌細胞株のうち、間質反応の強い腫瘍と弱い腫瘍を選定し、分子標的薬を用いて治療を行う。同一の細胞をヌードマウスの皮下に移植しても、間質反応は乏しく転移をしないことを我々は見出しており、癌・間質相 互作用に重点をおく研究には同所移植モデルが必要である。実験は主に同所移植腫瘍を使用するが、対比実験として間質反応が少ない皮下移植腫瘍も用いた。1)単剤投与実験:単剤を濃度依存的に投与し治療効果、副作用を確認した。2)PDGF阻害剤とmTOR阻害剤の併用による相乗効果:PDGF阻害剤とmTOR阻害剤の併用による相乗効果の有無を検討した。mTOR阻害剤(everolimus)は癌細胞と血管内皮細胞を、PDGF阻害剤は腫瘍間質のCAFと腫瘍血管を覆うペリサイト、リンパ管内皮細胞ターゲットとして効果を示すことが示された。大腸癌についても並行して同様の実験を行い成果を得ている。
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Strategy for Future Research Activity |
①ヌードマウス同所移植モデル並びに実験的肝転移モデルを用いた治療実験3)PDGF阻害剤と非特異的な血管新生抑制剤との併用による相乗効果PDGF阻害剤により、腫瘍血管を取り巻くペリサイトは減少し、血管内皮細胞は不安定な状態となることが予測される。PDGFRとともにVEGFR阻害作用を併せ持つブロードスペクトラムな小分子化合物(sorafenib, sunitinibなど)をmTOR阻害剤との併用に用いる。 ②ヒト大腸癌、胃癌細胞株を用いた培養条件下での検討:ヒト胃癌細胞株におけるPDGF, TGF-b;, FGF-2をはじめとする間質形成に関わる増殖因子の発現をmRNAレベル(real-time PCR)あるいは蛋白レベル(Western blot analysis)で調べる。また、PDGFR阻害剤(imatinib, nilotinib )あるいはmTOR阻害剤(everolimus)を濃度依存的に細胞株に加え、細胞増殖能、アポトーシス誘導能、細胞回転など、薬剤の癌細胞自身への影響を検討する。また、mTORシグナル伝達系関連蛋白の発現、リン酸化の変化をWestern blot analysisを用い確認する。それらの細胞株はヌードマウスの胃壁に同所移植し、造腫瘍性や発育速度、転移様式を観察したのちに治療実験に用いる細胞株を選定する。治療実験に使用する細胞株は、組織学的にヒト癌組織と同様な間質反応を誘導し、リンパ節あるいは肝臓に転移する株が望ましい。
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