2013 Fiscal Year Research-status Report
慢性閉塞性肺疾患におけるフェノタイプ解析と分子病態解析による新規診断治療法の確立
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24591139
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Research Institution | Jikei University School of Medicine |
Principal Investigator |
中山 勝敏 東京慈恵会医科大学, 医学部, 准教授 (40321989)
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Keywords | 慢性閉塞性肺疾患 / 増悪 / クラム陰性桿菌 / 細菌定着 / Multiplex Real-time PCR |
Research Abstract |
COPDの臨床表現型の中でも増悪(Exacerbation)は、予後および医療コストの観点からも重要である。今回我々は、COPD増悪の重症度と難治度を規定するリスク因子を検討した。分子マーカーとしては、炎症(WBC, CRP)、栄養(Alb)、に加えて、遺伝子レベルで検索した増悪原因微生物(ウイルス、細菌等)とした。増悪に絞った解析を行うため、今回はCOPD増悪により受診した患者50名を対象とし (2012年8月から1年)、受診時に鼻咽頭スワブと喀痰を用いてMultiplex Real-time PCR(細菌6種、ウイルス11種)および培養等従来法により起因微生物を検討した。次に、重症増悪(死亡、ICU入室、人工呼吸器装着)および難治性増悪(死亡、2週間を超えた入院)と各種因子との関連を検討した。各種因子としては、年齢、性別、肺機能の他、HOT使用、WBC、CRP、Alb、起因微生物等を候補とし、単変量解析の結果と合わせて選択した。 結果、COPD増悪例は50症例(男47例)、平均年齢76.4歳、起因微生物の同定は43例(86%)で行われ、ウイルスの関与は16例(33%)に認められた。検出微生物中では、S.pneumoniae、H.influenzae、Influenza virusの順に多く認められたが、P.aeruginosaやS.aureusなども検出された。次に、重症増悪は9例、難治性増悪は20例であった。これに対する、多変量解析の結果、重症増悪に対する有意なリスク要因は認められなかったが、難治性増悪に対しては、HOT使用(重度呼吸不全の存在)がOR= 6.1 (95%CI= 1.5-24.9) P=0.01、喀痰からのP.aeruginosaや腸内細菌等GNRの検出がOR=5.5 (95% CI= 1.1- 27.9) P=0.04であった。これらGNRは定常時の喀痰からも検出されており、宿主に常在していると考えられる。したがって、重症呼吸不全の存在と下気道のGNR常在はCOPD増悪の際に難治化する要因として重要と考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで我々は、ヒト手術検体を用いた細胞レベルの検討や当院外来COPD 患者のコホート研究を行ってきた。これらを発展させ、血液サンプルや喀痰等による分子レベルの表現型とCOPDの臨床表現型の関連を検討することが課題である。COPDの臨床表現型の中でも増悪(Exacerbation)は、肺機能予後、生命予後および医療コストの観点からも重要とされる。また、一度増悪をおこすと1ヶ月を経ても10%程の症例で肺機能の低下や症状が持続することが示されており、増悪の難治化は重要な医療課題の一つである。 今回我々は、Multiplex Real-time PCR と培養等従来法を組み合わせることで、86%の症例に起因を想定させる微生物を同定し得た。また、ウイルスの検出も33%に認めた。 さらに、難治性増悪のリスク因子を検討したことで、重症呼吸不全の存在と下気道のGNR常在が難治化のリスクとなる可能性が示唆された。GNRの中には、S.marcescens、A.baumannii、Ecoli等が含まれており、免疫力の低下、院内感染の既往、不顕性誤嚥の存在等が示唆される。呼吸機能の維持のみでなく、口腔ケア、誤飲予防、免疫力の賦活等が重要と考えられる。これは増悪から見たCOPDの治療戦略において重要なポイントであり、研究目的の一つの領域(難治性増悪と云う表現型に関する解析)の達成ともいえる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、さらなる分子レベルの表現型として、疲労と細胞老化を検討している。 COPDにおける疲労とはCOPD全身性併存症の一形態と考えられ、るい痩や骨格筋の減少を伴う身体的疲労状態と抑うつを呈する精神的疲労状態が重要である。これらCOPDの全身性易疲労症候群とも云うべき病態はADLを強く制限する原因となり、重要な医療課題であるが、そのメカニズムは明らかとなっていない。近年、疲労によるHHV-6およびHHV-7の再活性化機構を分子レベルで検討することにより、疲労の客観的評価が可能となった。そこで、この手法を用いてCOPDにおける疲労のメカニズム解明し、臨床的表現型との関連を検討する。それにより、疲労に関連する身体/ 精神活動の低下を予防しADLの維持を実現する新たな治療戦略の策定を目指す。 また、COPDにおける細胞老化に関しては、COPD患者において慢性的な酸化ストレスによりオートファジーなどの細胞内恒常性の維持機能が不十分となり、傷害タンパク等の蓄積がおこりうる。現在、これに関する肺機能との関連性のデータが集積しつつある。 これらの分子表現型を加えて、登録患者数をより増大させ、観察期間を長くして、予後としての急性増悪・入院・死亡・肺機能早期減衰を検討する予定である。
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Research Products
(7 results)