2012 Fiscal Year Research-status Report
脊髄小脳失調症31型のRNA病因説に対するプロテオーム解析
Project/Area Number |
24591255
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
吉田 邦広 信州大学, 医学部, 教授 (90242693)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
小柳 清光 信州大学, 医学部, 教授 (00134958)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 脊髄小脳失調症 / 繰り返し配列 / RNA結合蛋白 |
Research Abstract |
脊髄小脳失調症31型(spinocerebellar ataxia type 31、SCA31)は本邦に高頻度に見られる常染色体優性遺伝性の脊髄小脳変性症である。その原因として、BEAN、TK2両遺伝子のイントロン内への(TGGAA)nを含む複雑な5塩基繰り返し配列の挿入変異が考えられている。しかしながら、この変異がどういう機序で小脳変性をきたすのかはよく判っていない。 本研究の目的はSCA31の発症機序、分子病態を明らかにすることである。SCA31はイントロン内への挿入変異が原因とされるため、遺伝子異常自体が機能蛋白の構造変化をきたすとは考えにくい。そこでpre-messenger RNAレベルで何らかの細胞障害性を発揮するという仮説(RNA病因説)に基づいて、その発症機序、分子病態を探求することを考えた。 まず(UGGAA)nリピートに結合する蛋白を探索するために、マウス脳抽出試料(可溶性画分と非可溶性画分に分画)を用いて、ビオチンラベルした(UGGAA)8プローブによるノース・ウエスタンブロット、およびDynaBeads-280によるプルダウン・アッセイを試みた。これらの方法により抽出された蛋白をゲルから切り出し、キャピラリー高速液体クロマトグラフィー(liquid chromatography、LC)と質量分析(mass spectrometry、MS)を組み合わせた解析法(LC-MS/MS法)により蛋白同定を行った。この結果、現在までに2つの候補蛋白が同定された。いずれも非可溶性画分(核、ミトコンドリア画分)に存在する蛋白であった。 現在、これらの候補蛋白が本当にヒトのSCA31病態に関与しているか、に関して、検証中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績の概要のところに記載したようにSCA31のRNA病因説に基づいて、病因に深く関与すると想定される(UGGAA)リピート配列と結合する蛋白の探索を行った。ノース・ウエスタンブロット→LC-MS/MS法、DynaBeads-280によるプルダウン・アッセイ→LC-MS/MS法という独立した2つの方法により蛋白の同定を試みた。このうち前者はうまく行かなかったが、後者では(UGGAA)8プローブ(+)の試料のみで検出される複数の蛋白を同定した。それらの蛋白の抗体を用いて、DynaBeads-280により回収された試料に対してウエスタンブロットを行い、再確認した。すなわち(UGGAA)8プローブ(-)の試料では検出されず、(UGGAA)8プローブ(+)の試料のみで検出される蛋白を探索した。その結果、いずれも非可溶性画分(核、ミトコンドリア画分)に存在する2つの候補蛋白を同定した。1つはウエスタンブロットにおいて、(UGGAA)8プローブ(-)の試料では全く検出されなかったが、他の1つは(UGGAA)8プローブ(-)の試料でもごくわずか検出されたものの(UGGAA)8プローブ(+)の試料では圧倒的に強く検出された。以上から、この2つの候補蛋白はDynaBeads-280による非特異的な結合ではなく、(UGGAA)8プローブにほぼ特異的に結合する蛋白と考えた。 このように(UGGAA)リピート配列と結合すると思われる蛋白の候補が同定されたことから、研究計画はおおむね順調に進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
11.現在までの達成度に記載した2つの候補蛋白はいずれもマウス脳試料を用いてin vitro実験で得られたものであり、本当にヒトのSCA31の分子病態と関連しているか、の検証が今後の最重要課題である。特にSCA31では神経病理学的に小脳プルキンエ細胞の形態変化(核の変形、ミトコンドリアの形態異常、細胞周囲へのsomatic sprouting)が目立つことから、何らかの内在性要因により細胞内環境に重大な異常が生じていると考えられる。これらの形態変化と上記の候補蛋白の動態変化の間に何らかの関連が見い出せれば非常に興味深いと思われる。 今後の推進方策として、これまでのプロテオーム解析と神経病理学的解析の融合を図る。具体的には、まず文献的にこれらの候補蛋白の局在、機能、相互作用する蛋白、ヒト疾患との関連などから小脳変性との関連性を詳細に検討する。手元にあるSCA31剖検脳2例を用いて、これらの候補蛋白の抗体を含めて各種の抗体を使った免疫染色を行う。これにより神経病理学的な側面から想定される病態(たとえばアポトーシスの亢進、酸化的ストレスの亢進、など)に対するアプローチを行う。また、今後、本症の凍結剖検脳組織の入手を予定しており、それらを用いて、蛋白レベル、遺伝子レベルで候補蛋白の増減を検索する。また、これらの候補蛋白と相互作用する蛋白についても同様の検討を行う。 これらの検討により、有意な結果が得られるなら、さらに細胞レベルでこれらの候補蛋白を過剰発現、あるいはノックダウンした際に細胞にどのような変化が生じるかを観察する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
主として、分子生物学的実験(PCR、RT-PCR、SYBR Green法やTaqMan法を用いた遺伝子発現解析、など)、蛋白化学的実験(ウエスタンブロット、ノース・ウエスタンブロット、プルダウン・アッセイ、LC-MS/MS法、など)、病理組織学的実験(免疫染色、など)、細胞生物学的実験(細胞培養、など)に使用する試薬、キット、関連した付属品の購入にあてる。 なお、平成24年度には当初計画時よりも研究試薬を安価で購入できたため、次年度使用額が生じた。
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Research Products
(4 results)