2012 Fiscal Year Research-status Report
膵β細胞の甘味受容体:グルコース応答における意義の解明
Project/Area Number |
24591311
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Gunma University |
Principal Investigator |
中川 祐子 群馬大学, 生体調節研究所, 助教 (90422500)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 甘味受容体 |
Research Abstract |
申請者は膵β細胞のセカンドメッセンジャーの動態を可視化する測定系を確立し、その鋭敏な測定系を用いてグルコース応答シグナル伝達機構を解析してきた。その結果、以下のような特筆すべき結果を得た。PKCの基質MARCKSを用いて、グルコース添加後のPKCのリン酸化活性を経時的に観察すると、グルコース添加後わずか数秒以内にPKCが活性化され始めた。さらにこのとき、cAMP濃度も素早くかつ持続的に増加した。興味深いことにこれらの素早いグルコース応答は、代謝阻害剤で抑制されず、代謝されないグルコースアナログで再現できることから、一連の素早い応答は「グルコース代謝非依存的な応答」であることが考えられる。これまで申請者は舌で甘味を感知する甘味受容体が膵β細胞にも発現し、甘味受容体アゴニストにより、cAMPやCa2+またDAGの上昇およびPKCの活性化を惹起し、インスリン分泌を促進することを報告した。次の興味として、この受容体が「グルコース代謝非依存的な応答」に関与するかどうかということになる。この点に関して、最近、甘味受容体をノックダウンすると、上述の素早いグルコース応答性のシグナルが消失し、グルコース応答性インスリン分泌が抑制されることを見いだした。さらにマウスの膵灌流実験より甘味受容体の阻害剤グルマリンがグルコース応答性インスリン分泌の第1相だけでなく第2相も抑制した。これらの結果は、グルコース応答性インスリン分泌に甘味受容体を介した新規の経路が関与することを示唆している。この新規経路は第2相の分泌にも関与することから、従来知られている「代謝依存性経路」とも連関している可能性がある。そこで本研究では、申請者が見いだした「膵β細胞に発現する甘味受容体」のグルコース応答性インスリン分泌機構における生理的意義を明らかにする。特に代謝依存性経路に関与する作用機序を明らかにする。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予備検討の結果、甘味受容体は、代謝依存的な経路にも関与する可能性が考えられた。そこで次に甘味受容体を介したシグナルが果たして代謝依存経路に影響を与えているかを検討した。ホタル由来ルシフェラーゼを発現させ、ルシフェリンと共に培養し、発光強度を測定して細胞内ATP濃度([ATP]c)の変化を経時的にモニターした。この細胞は、グルコースは濃度依存的に [ATP]c を増加した。またグルコキナーゼの阻害剤およびミトコンドリアのアンカプラーにより[ATP]cが減少した。次に甘味受容体シグナルが[ATP]cを変化させるかを検討するために、甘味受容体アゴニストであるスクラロースで刺激し [ATP]c の変化を測定した。その結果、1mMという低濃度スクラロース刺激により [ATP]c が顕著に増加した。当初、スクラロースは細胞内へCa2+を動員することからこのCa2+がCa2+依存的に機能するピルビン酸脱水素酵素およびTCA回路の2種類の脱水素酵素を活性化しATP産生が増加するのではと考えた。しかし、以前の検討では、20 mM以上のスクラロースでのみCa2+上昇が惹起されるが、それ以下の濃度では、Ca2+上昇が惹起されないことを確認した。そこで、スクラロースが誘導するATP産生のメカニズムを解明するために、Ca2+オシレーションに対する影響を検討している。このほかに甘味受容体の構成因子の一つであるT1R3をノックダウンすることにより、グルコースおよびスクラロースにより誘導されるATP産生量が変化するか否か検討を行っている。 以上の結果より、当初予想した通り、甘味受容体を介したシグナルがグルコース代謝に関与しているという示唆を得ている。一年目の計画は概ね遂行した。
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Strategy for Future Research Activity |
甘味受容体の阻害剤であるグルマリンの投与および甘味受容体の構成因子の1つであるT1R3のsiRNAを用いたノックダウンにより甘味受容体シグナルを遮断して、甘味受容体が代謝経路のどのステップに関与するか詳細な検討を行う。解糖系およびTCA回路への影響を見るために、マウス膵島を用いて5-3H-グルコース利用効率および6-14Cグルコースの酸化効率を指標にグルコース代謝を測定し、これに対する甘味受容体拮抗剤グルマリンの効果を検討する。ATP産生への影響を検討するために膵β細胞の細胞株であるMIN6細胞を用いて、細胞内のATP濃度変化を感知するインジケーターを導入し、リアルタイムモニターする。T1R3 siRNAを導入して甘味受容体をノックダウンし、グルコース応答性のATP産生量の変化を検討する。加えて、グルコース応答の際、甘味受容体から発生したCa2+シグナルがミトコンドリア内のCa2+上昇にどのような変化をおよぼすか検討を行う。具体的には、MIN6細胞に細胞質のCa2+濃度をモニターするFluo-4とミトコンドリア内のCa2+濃度をモニターするRhod-2を同時に導入し、甘味受容体ノックダウンにより細胞質・ミトコンドリア内のCa2+濃度変化に対する効果を検討する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
ミトコンドリアにプールされたNADH量をモニターするためにNAD (P) H自家蛍光を測定する。甘味受容体をノックダウンし、グルコースによるNADH量の変化に影響があるか否か検討する。膵β細胞は他の細胞に比べ、NADHシャトル機構が発達している。そのためこの経路に甘味受容体が関与している可能性も考えられる。これまでの検討より、グルマリンによってグルコース応答性のインスリン分泌能が低下することが明らかとなった。この条件下において、グリセロールリン酸(GP)シャトルに直接入いり代謝されるジヒドロキシアセトン(DHA)を添加することによりインスリン分泌能が回復するか、または解糖系を経て代謝されるグリセルアルデヒドで回復するかを検討する。実際にDHA で回復した場合、すなわちGPシャトルとの関連性が示された場合、さらにリンゴ酸-アスパラギン酸シャトルの阻害剤であるアミノオキシ酢酸を用いて、グルコース応答性のインスリン分泌が完全に抑えられるかどうか確かめる。これにより甘味受容体がNADHシャトルに関与するか否か明らかとなる。また、甘味受容体異常がグルコース応答性インスリン分泌に及ぼす影響を検討する。具体的な方法として、甘味受容体はT1R2とT1R3のヘテロ2量体からなる。そこでT1R2+T1R3ダブルノックアウトマウスを作製し、糖代謝および脂質代謝の異常を検索し、代謝調節における甘味受容体の生理的意義を明らかにする。
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