2012 Fiscal Year Research-status Report
フェントン反応による好中球細胞外捕捉現象制御機構の解明と難治性血管炎治療への応用
Project/Area Number |
24591461
|
Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
平橋 淳一 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70296573)
|
Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
|
Keywords | 好中球細胞外トラップ / 血管炎 / 血栓 / ラクトフェリン |
Research Abstract |
NETs(neutrophil extracellular traps)形成は自然免疫において生体を病原性微生物から守る一方、その制御不全は病理学的に炎症性疾患の原因となることが分かっている。NETs形成阻害に関する治療薬は現在のところ開発されていないが、炎症性疾患を標的とした新規治療薬としてその発見が待たれている。臨床的に炎症性病変においてNETsが観察されるANCA血管炎について、初期寛解導入療法としてステロイドや免疫抑制剤が使用されているが、ステロイドや免疫抑制剤は長期投与することで、感染のリスクや発癌が増加するため副作用の少ない新たな治療薬の開発が必要である。 本研究において我々は生体内物質でありかつNETsの構成因子でもあるラクトフェリンがNETs形成を顕著に抑制することを発見した。ヒト好中球を用いたin vitroの実験において、活性酸素を特異的に検出する蛍光プローブおよび蛍光顕微鏡を用いた蛍光顕微鏡下生細胞観察系を用いて、ラクトフェリンはホルボールエステルPMAによるNETs形成を容量依存的に抑制し、これは活性酸素種の産生系とは独立のメカニズムであることを見出した。また、ラクトフェリン添加により従来のNETsの産生に関わる細胞内シグナルには大きな変化は見られず、細胞外に放出されたあるいは細胞内で放出直前のDNAに電気的に結合することによりDNAが縮合し、その拡散を防いでいる可能性を示す電子顕微鏡的観察結果を得た。in vivoの系では、ラクトフェリンの経口投与が自己免疫性血管炎モデルおよび皮膚血管炎の病勢を抑制し、その病変におけるNETsの産生を抑制していることを示した。このように、我々は生体内物質であるラクトフェリンが炎症性疾患においてNETsを抑制することにより新たな治療薬となる可能性を見出した。現在、そのメカニズムについてさらに研究を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
NETsは従来の研究により、活性酸素産生系に大きく制御されていることが示されてきたことから、我々はNETsを抑制することによる治療薬は活性酸素を安全に制御できる物質であるという仮説を立てた。活性酸素産生系の中でも、鉄や銅が触媒するフェントン反応に着目しそのキレート剤からスクリーニングすることとした。デフェロキサミンなどのキレート剤は予想に反してNETsを抑制しなかった。一方、安全なフェントン反応抑制薬として生体内物質であるラクトフェリンに着目し、in vitroの系で顕著にNETsを抑制することが判明した。しかしながら、皮肉なことにそのメカニズムはフェントン反応を抑制することではないことが、活性酸素を検出する蛍光プローブを用いた実験で判明した。ラクトフェリンがNETsを抑制するメカニズムを探索する中で、ラクトフェリンは陽性に荷電しDNAと結合することによりNETsの拡散を防ぐ可能性を見出した。これらの実験は、東京大学医学部の浦野泰照教授との共同実験であり、両研究室の実験者の科学的先見性と綿密な実験計画と実施により、共同実験が非常にスムーズに効率的に進んことにより新たなる知見が約1年の間に多く見出された。さらにin vivoの系においては、NETsが病態形成に深く関与するとされる半月体形成性糸球体腎炎及びANCA 関連血管炎を発症する6~7週齢の雌SCG/Kj((Spontaneous Crescentic Glomerulonephritis-forming mouse/Kinjoh))を用いて8週齢目からラクトフェリン含有飼育餌群(n=16)、標準飼育餌群(n=16)で飼育を行ったところ生存率・生存延長の改善効果をカプラン・マイヤー法を用いて確認した(統計的有意差p=0.0111)。今後は、さらにこれらの共同実験を推し進めメカニズムの解明を目指していく。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度はNETs刺激の相違によって、ラクトフェリンの効果に差があるかどうかを検討する。PMAと比して生体内での刺激により近い免疫複合体および血小板によって好中球を刺激する実験系を確立する。 免疫複合体刺激モデルとしては in vitroでBSA-抗BSA抗体複合体をヒト末梢血好中球に添加してNETs産生を蛍光顕微鏡下に生細胞としてリアルタイムに観察する実験系、in vivoでは精巣挙筋の血管にBSA-抗BSA抗体複合体を投与してintravital microscopyによりNETs形成を観察する実験系を用いる予定である。また、最近の研究ではNETsは炎症性疾患のみならず血栓性疾患にも深く関与していることが報告されており、血小板はNETs産生刺激の重要なものとして知られていることから、好中球―血小板相互作用の共培養実験系を確立する。また、in vivoの系では深部静脈血栓症マウスモデルを過去の報告に従って構築する。このモデルは、C57B6/jマウスの下大静脈を腎静脈分岐直下でガイドワイヤーを挟んで結紮する(部分的結紮による静脈還流障害をおこす)ことにより好中球と血小板が相互作用して成立するとされるが、訓練が必要である。このように、ラクトフェリンは自己免疫性血管炎などの炎症性疾患のみならず、好中球が関与する血栓性疾患に対しても有効である可能性があり、ラクトフェリンの血栓性疾患治療薬としての可能性を検証する。さらに、NETsの関与する疾患は広範であることが次々と判明しており、例えば高脂肪食負荷による肝臓の脂肪細胞へ好中球が浸潤することがインスリン抵抗性の発現に必要であることや、I型糖尿病の発症には膵臓への好中球の浸潤およびNETsの産生がβ細胞の破壊に関わっていることが報告され、ラクトフェリンのNETs関連疾患への応用範囲は広いと考えられ、その治療薬としての可能性を検証する。
|
Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は以下の5つの柱をたててそれぞれ研究費を充当する。 1.血小板―好中球共培養系におけるNETs観察系確立のための試薬(80万円):好中球分離関連試薬(モノポリ分離溶液,ギムザ染色用試薬,HBSS,RPMI1640, PBS,生理食塩水など)、血小板分離用試薬、好中球-血小板相互作用に重要とされるサイトカイン(TNF-alpha, PAF, トロンビン)、相互作用の介在分子とされるMac-1(CD11b/CD18)およびGPIbalphaに対するブロッキング抗体、培養液中NETs-DNAの測定キット、共培養系を生細胞のまま蛍光顕微鏡でリアルタイムにイメージングするための抗アクチン蛍光抗体およびDRAQ5などのDNA蛍光プローブ、培養液、特殊プレートの購入 2.免疫複合体刺激モデル作成(20万円):C57BL6/jマウス、BSA、抗BSA抗体購入費 3.深部静脈血栓症モデルの確立(20万円):マウス購入費、マウス飼育費、ガイドワイヤー、手術具、ラクトフェリン混餌の作成、組織切片作成費、マウス保温ヒーターなどに充当する。 4.ラクトフェリンのNETs関連疾患治療薬検証のためのパイロット実験(20万円):高脂肪食負荷やI型糖尿病発症マウスモデルにおけるNETs抑制効果の検証 5.その他(10万円):実験に必要なプラスチック製品、手袋購入費
|