2013 Fiscal Year Research-status Report
疾患iPS細胞を用いたL1症候群患者神経系細胞の機能障害の解析
Project/Area Number |
24591538
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Research Institution | 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター) |
Principal Investigator |
正札 智子 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター), 先進医療研究開発部 幹細胞医療研究室, 室長 (40450895)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
金村 米博 独立行政法人国立病院機構大阪医療センター(臨床研究センター), 先進医療研究開発部 再生医療研究室, 室長 (80344175)
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Keywords | L1CAM Class III 変異 / 疾患ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞 |
Research Abstract |
(1)L1CAM遺伝子異常を有する疾患ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞の誘導と維持培養 神経接着因子L1CAMに、重症型L1症候群の表現型となる膜貫通ドメイン以下のC末端が欠損するClass III変異を持つヒト疾患iPS細胞2株(細胞外ドメインのナンセンス変異 c.2250C>A, p.Tyr750Stop と、スプライスドナー部位変異 c.400+5G>A によるフレームシフト)より、自己増殖能と神経系細胞に特化した多分化能を持つ神経前駆細胞の誘導を試みた。SMADシグナル阻害作用を持つ低分子化合物DorsomorphinとSB431542を用いた無血清凝集浮遊培養(SFEBq)法により神経分化誘導を実施した。誘導後、増殖因子FGF2/EGF/LIFを添加した神経幹細胞用培地で培養を継続した結果、神経前駆細胞の樹立に成功した。同様の方法で樹立した健常幼児iPS細胞由来神経前駆細胞と比較したところ、ほぼ同程度の細胞増殖能を持っていた。 (2)L1CAM遺伝子異常を有する疾患ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞の特性解析 誘導後70日前後の疾患ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞より全RNAを抽出し、アフィメトリクス社HG-U133 Plus 2 Arrayを用いて遺伝子プロファイルを取得した。比較対照として、健常幼児iPS細胞由来神経前駆細胞を使用し、L1CAM変異に伴い発現が変化する遺伝子(群)の抽出を行った。その結果、L1CAM異常を持つiPS細胞由来神経前駆細胞では、細胞外マトリックスや細胞接着因子、細胞周期制御に関する遺伝子などに発現差があることが示唆された。また抽出されたいくつかの遺伝子について、定量的RT-PCR法で確認を行った。神経系分化マーカーでは、グリア細胞マーカーS100Bに顕著な発現低下が検出された。この結果は、患者脳組織より樹立した神経幹/前駆細胞の結果とも一致し、L1CAM変異がグリア系細胞の発現に影響を与えることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
L1CAM細胞内ドメインの欠失となる、Class IIIタイプの遺伝子変異を持つ幼児線維芽細胞由来疾患iPS細胞より、自己増殖能と神経系に特化した分化能を持つ神経前駆細胞を樹立することに成功した。死亡症例でしか樹立できない脳組織由来神経幹細胞の代替となる生体マテリアルを確保し、各種特性解析を実施する目処を立てる事ができた。また、健常人コントロールとなる幼児線維芽細胞由来iPS細胞からも、同じ手法を用いて神経前駆細胞を樹立し、比較対照となるマテリアルも得ることができた。樹立した神経前駆細胞を用い、アフィメトリクス HG-U133 Plus 2 Arrayによる遺伝子プロファイルを取得し、変異に伴い発現に影響を受ける遺伝子の抽出と確認作業に着手した。L1CAM異常を伴う神経前駆細胞の遺伝子プロファイルのデータマイニングに着手する事ができたことから、本研究の進捗は、概ね順調に伸展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
現在までに、L1症候群患者由来線維芽細胞より、膜貫通ドメイン以下が欠損するClass III変異2例、細胞外ドメインのミスセンスによるClass II変異1例の疾患iPS細胞を樹立し、神経前駆細胞の樹立と遺伝子プロファイルの取得に着手している。 L1CAMは、免疫グロブリンスーパーファミリーに属する細胞接着因子で、細胞外ドメインは、L1CAM同士のホモフィリック結合や、RGD配列を介したインテグリンとの結合などに関与する。これら細胞接着は、プロテアーゼによる翻訳後修飾で機能制御を受けることも知られている。また細胞内ドメインは、アクチンやアンキリンなとの細胞骨格と結合し、ERK2 (extracellular signal-related kinase 2) などによりリン酸化修飾を受け、細胞内情報伝達やエントサイトーシスに関与する。以上のように、細胞接着分子としてだけでなく、シグナル伝達や細胞内輸送など生物学的機能は多岐にわたり、細胞接着の他、軸索の進展や神経細胞の移動、ミエリンやシナプスの形成にも関与する。 今後は、L1症候群iPS細胞から誘導した神経前駆細胞や、それから週末分化させた神経細胞やグリア細胞の神経系譜細胞で、病態形質の再現を試みる。まずは遺伝子異常に起因する細胞接着機能の低下を再現する系を構築する。また遺伝子プロファイルの解析により、シグナル伝達関連のデータマイニングを行い、タンパクレベルでの検証を進める。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
情報収集・成果発表のため、国際学会参加に係る費用を計上していたが、本年度は参加をしなかったため、また予定よりも消耗品の支出が少なく済んだため、次年度使用額が生じた。 平成25年度経費の中で1,205,137円の未使用分があり、これを次年度に繰り越し、26年度は合せて2,005,137円を消耗品費を中心に使用して研究を実施する予定である。
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Research Products
(4 results)