2012 Fiscal Year Research-status Report
インフルエンザウイルスの遺伝子再集合を応用した新規治療戦略
Project/Area Number |
24591590
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Kurume University |
Principal Investigator |
柏木 孝仁 久留米大学, 医学部, 講師 (70320158)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原 好勇 久留米大学, 医学部, 准教授 (40309753)
渡邊 浩 久留米大学, 医学部, 教授 (90295080)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | インフルエンザウイルス / ポリメラーゼ / PB2 / 阻害薬 |
Research Abstract |
変異により、薬剤耐性を獲得しやすいインフルエンザウイルスに対しては、複数の作用機序による対抗手段が必要である。しかしながら、現在の抗インフルエンザ薬はNA阻害薬に分類され、作用機序が全く同じである。そこで、当該研究では、これまでの基礎研究を基に、インフルエンザウイルスの流行機序(遺伝子再集合)を逆手に取った新しい阻害法の開発を行う事を目的とした。 インフルエンザウイルスは8分節の遺伝子の再集合により、新型となって世界的流行を起こす。しかしながら、他施設での研究と、我々のこれまでの研究から、限られた組み合わせのウイルスのみが出現することが分かっている。この抑制機構を利用することで、ウイルスの発生そのものを抑えられる。我々は、この点に着目し、特定の遺伝子の組み合わせによりインフルエンザウイルスの発生が抑制できるか様々な株を用いて検討した。その結果、H1N1の標準株であるWSN株に対して、H5N1株由来のPB2サブユニットまたはH3N2株由来のPAサブユニットの遺伝子を導入することでウイルスの増殖が阻害され、その増殖阻害は遺伝子複製酵素の活性低下によるものであることを見出した。さらにH5N1由来のPB2サブユニットに着目し、阻害効果をさらに高める手段を検討した。まずは、H5N1 PB2の断片化を進めて行ったところ、H5N1 PB2の一部断片に非常に強い阻害効果がある事が分かり、さらなる検討を進めている。また、この断片によって実際のウイルスが増殖抑制されることも培養細胞系を用いて確認した。今後は、この断片の高発現系を構築し純度の高い精製を行えるか検討を行うと共に、細胞または組織、さらには動物などへの投与方法を検討する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
PB2は本来、インフルエンザウイルス遺伝子複製酵素の一部サブユニットであるが、これまでの研究(平成21年度~平成23年度 若手研究(B))で、遺伝子再集合を抑制する作用があり、またその作用に株間で差がある事が分かっていた。このメカニズムは遺伝子複製酵素の複合体形成がPB2によって阻害されることによる。そこで、当該研究の研究計画に基づき株間のPB2の違いをアミノ酸レベルで比較し、人工変異体を用いて、より遺伝子複製酵素の阻害作用の強いPB2の構築を目指した。これまでに20種類以上のPB2断片を作成し、様々な比較を行った。その結果、一部断片に非常に強い阻害効果を認め、さらには阻害に必要な部位を特定でき、この目的はほぼ達成できた。また、阻害部位を特定できたことで、阻害と関連しない余分配列をできうる限り取り除くことが可能となりできうる限りのPB2断片の縮小を行う事ができた。薬剤として現実に使用する際には、できうる限り分子量は小さい方が良いと考えられ、この結果は今後の応用に大いに役立つと期待できる。同様に、遺伝子複製酵素としてのPB2の各機能部位がこれまでの基礎研究より判明しているため、これらもできる限り取り除いた。この余分配列の削除を行う作業により、遺伝子複製酵素の複合体形成の阻害作用だけを残したうえで、低分子化を行えるだけでなく、PB2の遺伝子複製酵素としての機能を完全に喪失させるため、現状では阻害効果を得る事ができなかったトリ型のインフルエンザウイルスであっても幅広く抑制できる事が予想され、実際に標準株であるWSN(H1N1)だけでなく、トリ型(H5N1)に対しても強い阻害効果がある事が確認できた。これらの結果は当年に計画していた達成度をほぼ満たしている。
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Strategy for Future Research Activity |
細胞内においてPB2断片の遺伝子複製酵素への強い阻害作用が確認できたため、今後は試験管内において、その阻害メカニズムを解明する。詳細な検討を行うためには、高純度のPB2断片が大量に必要になるため、当初の研究計画に基づき、PB2断片の大量発現と高純度精製を試みる。大量発現と精製には大腸菌、および当該研究室で多数の実績があるバキュロウイルスの発現系を用いる。 全長PB2の大量発現と精製は非常に困難である事が知られているが、当該研究室では、ある程度の量と精製度をもって精製する実績をもつ。さらに、当該研究においては、PB2を断片化した上で発現・精製するため、全長PB2よりも比較的容易な作業になる事が予想される。それでもなお、発現・精製が困難である場合は、同じく精製困難なPAサブユニットの結晶構造解析(Nature. Apr 16;458(7240):909-13. 2009)を行った、共同研究者らの経験をもとに、彼らから助言を得る。場合によっては、助言だけでなく人材交流により解決を図る。 仮に大量発現と精製が予定通り進まなかった場合には、現在利用可能な細胞内での評価系を見直し阻害メカニズムを解明すると共に、同じく現在利用可能な小スケールの精製系を最大限に活用して阻害メカニズムを解明することに注力する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
少額端数の為に次年度繰越となった。繰り越し分については、翌年度請求分と合わせて当該研究に必要な消耗品に使用する。
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Research Products
(12 results)