2013 Fiscal Year Research-status Report
乳児特発性僧帽弁腱索断裂の病態解明に向けた基礎的研究
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24591594
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Research Institution | National Cardiovascular Center Research Institute |
Principal Investigator |
白石 公 独立行政法人国立循環器病研究センター, 病院, 部長 (80295659)
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Keywords | 川崎病 / 抗SSA抗体 / 僧帽弁閉鎖不全 / 急性心不全 |
Research Abstract |
乳児特発性僧帽弁腱索断裂は、生来健康である乳児が突然に呼吸循環不全に陥る重篤な疾患である。過去に国内外にまとまった報告がなく、国内外の小児科の教科書にも記載がない。過去の死亡例は「乳児突然死症候群(SIDS)」と誤って診断されていた可能性もある。調査結果を一日も早くまとめて、1)乳児特発性僧帽弁腱索断裂が健康な乳児に突然襲いかかる重度な疾病であること、2)一刻も早い診断と的確な外科治療が必要であること、3)診断と治療が遅れると死に至るかもしくは循環不全により重度な神経学的後遺症をきたす可能性のある難病であること、以上を国内のみならず海外に情報を発信する必要がある。 我々が22年度より25年度まで継続している全国調査の結果、過去16年間に発症した95例の臨床データを得た。発症は生後4~6ヶ月に集中し(85%)、やや男児に多く、春から夏の頻度が高かった(66%)。全体的に近年増加傾向にある。基礎疾患として、川崎病10例、抗SSA抗体陽性2例、細菌性心内膜炎1例が認められた。CRPの上昇は軽度で、外科治療は、弁形成が52例(55%)、人工弁置換が26例(27%)に行われた。死亡例は8例(8.4%)で、中枢神経系後遺症は10例(11%)認められた。全体では35例(40%)が何らかの後遺症/続発症を残し、本疾患の罹病率は極めて高い。腱索の病理組織(21例)では、単核球を主体とする心内膜下の炎症細胞浸潤が認められた。平成26年度は発症時に凍結組織や血液サンプルなどを集め、また血液や咽頭や尿便からウイルス分離を試みて病因を明らかにしてゆくことを行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究のこれまでの結果は、病因論も含めて、アメリカ心臓学会雑誌に投稿し、一次選考には通過して現在reviewerの指摘にそって内容をrevise中である。間もなく世界に情報提供できるという点において大きな進展が開けるところまできたという点では進展があった。 一方で、本研究は、日本小児循環器学会学術委員会の研究にも採用され、全国の主要小児循環器施設に対して、症例が発症した際にはできるだけ血液や弁組織サンプルを取得保存するように呼びかけているが、外科治療が一刻を争う急性疾患であり、ほとんどの症例が緊急紹介および緊急入院で、そのまま手術室に向かうような状況であるため、思うようにはサンプルが集まらないのが現状である。我々国立循環器病研究センターは全国で最も症例数が多いので、自施設でサンプルの収集をまずは行ってゆく予定であるが、平成25年度は発症が1例のみであり、その症例も弁置換にはいたらなかったので組織所見が得られなかった。引き続き全国施設に呼びかけてサンプルの収集を行い、病院解明に向けた研究を実施する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は新たに発症する症例において、前向きに血液サンプル、弁置換を行った症例では弁組織の凍結保存や病理組織標本を収集し、ウイルスゲノムの解析、免疫組織学的検討、分子生物学的検索を加え、腱索断裂のメカニズムの解明研究を展開する。具体的には、発症時の患者血液を用いて、IL-1β, IL-6, IL-10, TNFαなどの炎症性サイトカイン、ブドウ球菌や溶連菌由来のスーパー抗原、血液中のリンパ球分画、抗核抗体、抗DNA抗体、抗SSA抗体、抗SSB抗体、心筋心内膜炎を引き起こすウイルス分離とウイルス抗体価、薬剤投与がある場合はリンパ球幼弱化試験などを調べ、基礎疾患を明らかにするとともに、腱索組織の破壊に至る病理組織学的、免疫組織学的メカニズムを明らかにする。得られる新鮮な腱索組織を用いて、血管新生因子であるVGEF、弁や腱索組織に含まれ膠原線維や弾性線維のremodelingに関与するmatrix metalloproteinases、抗核抗体、抗DNA抗体、抗SSA抗体、抗SSB抗体、などの免疫組織化学を行う。 また臨床情報の収集および基礎研究の結果に基づき、病因に基づいた新たな薬物治療法や的確な外科手術療法を開発し提言する。最終的には、病因解明と治療法を確立させ、世界に情報を発信する予定である。具体的には、以上の研究により腱索断裂にいたる分子細胞生物学的なメカニズムがある程度明らかになれば、TNFαやNFkBなどの炎症メディエーター、MMP-9などによる弁組織の構造破壊を引き起こすシグナルを抑制することを目的に、班会議で薬剤の種類とプロトコールを定めた上で、新たに発症する症例に対して、ガンマグロブリン大量療法、ステロイドパルス療法、TNFα抗体などの実施を考慮する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
本年度は発症の連絡を受けた数が少なく、予想しただけの患者サンプルが集まらなかったので、平成26年度に十分な予算をまわし、全国的に大々的に患者サンプルを収集し研究に当てる予定である。 日本小児循環器学会の全国調査では、年間約20症例の発症があるとされている。平成26年度は全国より少なくとも10例のサンプルを収集し、血液尿からのウイルス分離、弁組織の免疫組織科学を行う予定である。
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Research Products
(4 results)