2012 Fiscal Year Research-status Report
気分障害の発症機序における情動ストレスの役割に関する研究
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24591673
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
井上 猛 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (70250438)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 気分障害 / 恐怖条件付け / 扁桃体 / マイクロアレイ / ストレス |
Research Abstract |
1. 新規抗うつ薬であるmirtazapineがラットの恐怖条件付けストレスで抗不安作用を示すことをこれまで明らかにしてきたが、その作用脳部位は不明であった。mirtazapineを条件恐怖の前に扁桃体、海馬、正中縫線核に局所投与したところ、正中縫線核への投与のみが条件恐怖によって惹起される不安行動であるすくみ行動を有意に抑制した。その作用機序としては、mirtazapineが正中縫線核のα2受容体を遮断し、放出促進したノルアドレナリンがα1受容体を刺激し、正中縫線核の投射脳領域である海馬の細胞外セロトニン濃度を増加させて抗不安作用を惹起するという仮説が考えられる。 2. 次に恐怖条件付けストレスにおけるmirtazapineの抗不安作用に対するリチウム増強効果がmirtazapineの正中縫線核脳局所投与に対しても生じるかどうかを確認した。その結果、全身投与と同様に、mirtazapineの正中縫線核脳局所投与による抗不安作用をリチウム亜慢性投与が増強することを確認した。したがって、リチウムによるmirtazapineの抗不安作用増強効果は正中縫線核から海馬などの投射領域までの脳部位における薬理的相互作用による可能性が指摘された。 3. 母子分離ストレスと慢性ストレス誘発モデルを組み合わせたうつ病モデルに関する行動学的、神経化学的検討を行った。慢性ストレス誘発モデルによりsucrose preference testでsucroseに対する嗜好性が低下することを追試確認した。また母子分離ストレスにより扁桃体の様々なmRNA発現が変化することを明らかにし、さらに母子分離ストレスと慢性ストレス誘発モデルの組み合わせがこれらのmRNA、行動にどのような影響を与えるのか、特に増強効果が存在するのかについて現在検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実績概要に報告しているように、行動、神経化学的検討を組織的に行なっており、新しい知見が次々に見つかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画書および交付申請書に述べた実施計画を下記のように予定通りに推進する予定である。 4.扁桃体におけるアミノ酸、モノアミン(セロトニン、ドパミン、ノルアドレナリン)の細胞外濃度のCFSに よる変化を脳内微小透析法により測定する:siRNA処置によりSSRIの作用機序と関連するセロトニン受容体サブ タイプ、転写因子・神経栄養因子の発現を扁桃体で減少させ、あるいは酵素阻害剤でセカンドメッセンジャー量 を変化させた状態で、脳内微小透析法により扁桃体におけるグルタミン酸、GABA、モノアミン(セロトニン、ド パミン、ノルアドレナリン)の細胞外濃度のCFSによる変化を測定する。これらの研究により扁桃体内のセロト ニン受容体サブタイプや転写因子、神経栄養因子、セカンドメッセンジャーの情動ストレスにおける機能的役割 が物質レベルでも明らかになる。ラットにフットショック・ストレスを負荷した後、麻酔したラットの扁桃体に 透析膜でできた微小透析プローブを挿入・固定する。翌日透析プローブ内に人工脳脊髄液(灌流液)を灌流し、 CFSを負荷する。脳から拡散によって透析膜を通過し、人工脳脊髄液中に流入したモノアミン、グルタミン酸、G ABAの濃度を高速液体クロマトグラフィー法により微量定量し、経時的変化を測定する。 5.前頭前野、視床背内側核、海馬、中隔の扁桃体神経活動に対する影響:モノアミン・グルタミン酸を刺激す る薬物を前頭前野、視床背内側核、海馬、中隔に局所投与した際の、扁桃体における種々の神経伝達物質の変化 を、非ストレス下あるいはCFS負荷時に脳内微小透析法により測定し、情動ストレスの神経回路上の種々の脳部 位の扁桃体に対する調節機構を解明する。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成24年度の研究費は少額次年度に持ち越すことになったが、この研究費は平成25年度の研究費とあわせて予定された研究計画にそって、ラットの購入、神経化学的検討のための試薬購入に使用する予定である。
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