2012 Fiscal Year Research-status Report
認知矯正療法の効果に関する神経機能画像を用いた研究
Project/Area Number |
24591712
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tottori University |
Principal Investigator |
兼子 幸一 鳥取大学, 医学部, 教授 (50194907)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 認知矯正療法 / 統合失調症 / 光トポグラフィー / 機能的磁気共鳴画像 / 神経可塑性 |
Research Abstract |
6ヵ月間の認知矯正療法(NEAR)の統合失調症患者の認知機能に対する効果を、①統合失調症認知機能簡易評価尺度日本語版(BACS-J)の改善度、②2-back課題(作業記憶課題)施行時の光トポグラフィー(NIRS)で測定する酸素化ヘモグロビン濃度([oxy-Hb])活性化の変化、③精神症状(PANSS)、という3つのアウトカムを指標として検討した。平成24年度は、鳥取大学病院精神科に通院中の統合失調症患者を対象に、NEAR実施群17名、疾患対照群(統合失調症で認知リハビリテーションを受けず、かつ週2回以上、デイケアまたは作業所に通所中)6名のデータを記録し、解析を行った。以下にその結果を記す。 ①BACS-J:6つのサブドメイン中、言語記憶(p<0.01)、処理速度(p<0.05)、注意(p<0.05)、遂行機能(p<0.01)の4項目でNEARによる有意な改善が認められた(Wilcoxon符号順位検定)。また、6つのサブドメインの平均的機能を意味するcomposite score(p<0.005)も有意な改善を示した。 ②NIRS:NEAR群では、52チャネル中、背外側前頭前皮質(ブロードマン9および46野)、腹外側前頭前皮質(同44および45野)、前頭極部(同10野)の9チャネルにおいて、NEAR後に[oxy-Hb]活性化程度が有意に増加した(対応のあるt検定)。これに対して、疾患対照群では[oxy-Hb]活性化程度は6カ月後に低下する傾向を示した。 ③精神症状(PANSS):NEAR群、疾患対照群の両群とも、陽性、陰性、総合精神病理の各尺度、及び総合得点のいずれにおいても有意な変化を認めなかった。 以上の結果より、6ヵ月間のNEARは、統合失調症患者に対して、前頭前皮質における神経可塑性をもたらす可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題は、認知矯正療法の統合失調症患者の脳機能に対する効果を、異なる2つの神経機能画像法、すなわち、近赤外線スペクトロスコピー(NIRS)と機能的磁気共鳴画像(fMRI)を用いて研究することを目的としている。 このうち、平成24年度はNIRSを用いた研究を行った。17名のNEAR群、6名の疾患対照群に行った。NEAR群については概ね順調な被験者数と考えている。NEARが可塑的変化をもたらす可能性があり、期待された成果が上がっている。これに対して、疾患対照群は予定の12名程度の半数にとどまった。この群の参加者が予定に達しなかった最大の理由は、疾患対照群の組み入れ基準を、治療者との接触時間を統制するため、週2回以上のデイケアあるいは作業所通所者と厳しく制限したことにある。当該研究施設は、これらの社会復帰施設を併設しておらず、近隣の精神科医療機関に被験者の紹介を依頼したが、参加者数が予想を下回る結果となった。
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Strategy for Future Research Activity |
・平成25年度以降の本研究課題の推進方策:以下の2点について検討を進める予定である。 1)NIRSを用いたNEARの脳機能に対する効果検討の研究: 疾患対照群(統合失調症患者で、週2回以上デイケアあるいは作業所に通所している患者)10名を新たに被験者として研究に組み入れるため、近隣の病院の精神科医と連携を深める。 2)fMRIを用いて、2-back課題施行時の脳血流量変化に対するNEARの効果を検討する。fMRIの研究では、特に認知課題に対する被験者の動機付けと関係する領域を検討するよていである。動機付けに関係する報酬系の脳領域として、前頭前皮質眼窩面、および、腹側線条体、側坐核、扁桃体等の皮質下核の機能変化を検討する。特に、皮質下核はNIRSでは測定できない脳領域であり、認知リハビリテーションが情動や報酬系と関係する領域にどのような変化をもたらすかを解明する。 ・研究を遂行する上での課題:上記1)で述べたように、疾患対照群の組み入れ基準を、週2回以上のデイケアあるいは作業所通所と厳しくしたため、被験者数を確保することが出来なかった。平成25年度は、この件を週1回以上と緩和するよていにしている。治療者との接触時間がNEAR群で長くなるが、本研究の方法の制限(limitation)として対処する予定にする。この際、治療者との接触時間を統計学上の交絡因子として解析対象とする。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
1.「次年度使用額」が生じた理由 以下の2つの理由によって、234,449円の「次年度使用額」が生じた:①疾患対照群患者が予定数に達せず、謝金の支払いが予定よりも少なかったこと、②購入を予定していた書籍(洋書)の納入が遅れたこと。 2.使用計画 ①疾患対照群患者:平成25年度に10名を被験者として予定しており、その謝金として1人当たり5,000円×10名分で5万円 ②機能画像解析および認知機能障害に関する専門書(洋書)購入に残りの184,449円を支出する予定である。
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Research Products
(1 results)