2013 Fiscal Year Research-status Report
統合失調症の社会機能測定ツールの開発ー社会脳を実世界で評価する
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24591730
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
池淵 恵美 帝京大学, 医学部, 教授 (20246044)
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Keywords | 統合失調症 / 社会機能 / 社会認知 / 神経認知 / 社会脳 |
Research Abstract |
初年度はこれまで国際的に使用されている社会機能尺度を渉猟し、既存の尺度の構成や評価方法について検討を行った。それにより必ずしも実世界での社会機能と社会脳の実験室での能力測定とは直線的な連関にならないことが明らかになった。開発すべき尺度について検討を重ね、社会脳の機能を標準的な実施条件のもとで測定するパフォーマンステスト(実施できる能力)を作成し、同時にメタ認知や内発的動機などを測定することで実世界での社会機能の予測性を高める尺度の開発に着手した。 2年度はパフォーマンステスト・ドラフトを作成し、性・年齢・文化によって大きな影響を受けない普遍的な対人スキルを抽出し、対人スキルのcompetencyをはかる尺度の作成を行った。ドラフトの概要は、1)テストの所要時間は2場面の説明、ロールプレイや設問、全て合わせて約30分、2)場面①は目的も手段も曖昧な場面で親和的スキルが要請され、場面②は目的が明確で、助けを求める道具的スキルが要請される場面である。2つの場面とも普遍性の高い対人スキルと考えられる。3)状況認知、行動プランの策定と実行、行動した結果についてのメタ認知や実行可能性の自己評価を内省によって求める。 作成したパフォーマンステスト・ドラフトを用いて、フィールドトライアルを3名の健常者、6名の統合失調症、1名の高機能自閉症に試みた。いずれも円滑にテストを実施することができ、30分以内で終了した。健常者3名は社会的状況の判断が正確かつ迅速で安定していること、それについての実行能力を持っていること、実行した対人行動についての自信や客観評価と合致する認識を持っていることが特徴であった。7名の精神障害者はいずれも外来主治医の知る生活の特徴がよく表出されていた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年当初の研究計画書においては、3年間で実用的な社会機能の評価尺度を開発することを目標としている。1年目には、既存の社会機能の評価尺度を精査して、社会生活に要請される領域を絞り込み、評価項目を設定する。同時に開発すべき評価尺度の基本設計を行った。2年目には、評価項目それぞれについてのシミュレーション場面を製作した。その際にロールプレイを採用するなどによって、実生活のダイナミックな社会的交流が再現されるようにした。この2年間の課題はほぼ達成された。同時にシミュレーション場面における認知・行動の客観的測定の技術を開発することを計画していたが、客観的評価方法の開発はまだ途上であるために、3年度に持ち越しの課題となった。3年目には、引き続き客観的・数量的評価の尺度としての完成を目指すとともに、試作版の社会機能評価尺度を用いて、ツールとしての信頼性・妥当性・実用性の検証を行う。また神経認知機能や社会認知機能との関連や、実世界での行動観察との関連性を評価する。並行して、社会脳の治験の文献検索を持続し、ヒトとして普遍性の高い基本的な対人スキルについての治験を渉猟することで、さらにパフォーマンステストの妥当性を高めることを引き続き課題とする。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目は当初の研究計画で、シミュレーション場面の製作と評価技術の開発を行ったが、フィールフォトライアルが10例にとどまったために、予算に剰余金が生じ、3年度に繰り越された。3年目の具体的な作業は、普遍的な社会的スキルと考えられ、性差や年齢、文化差が小さいと想定される対人スキルを引き続き文献で渉猟する。また客観的評価についての試験を試みて、尺度の信頼性・妥当性・実用性が図れるようにする。尺度はビデオ録画したパフォーマンスとその前後の被験者の内省に基づき、社会的状況の認知、認知・行動の社会的妥当性、問題解決の程度、及び相手役に与える社会的効果、メタ認知などについて測定する。これらの成果を得たのちに、性別及び年齢によって層別化したうえで、健常者30名、統合失調症30名にβ版パフォーマンステストを実施し、同時に神経認知機能検査、社会的認知機能検査、実際に行っている社会機能の測定尺度に基づく評価を行い、テストとしての妥当性や信頼性を確立することを目指す。 予算はフィールドトライアルと、委員会開催(4回予定)に用いる予定で、具体的にはトライアル協力者の謝金、研究実施者の賃金、委員会会議費、テスト作成のための消耗品費などである。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
2年度にパフォーマンステストのフィールドトライアルを予定し予算を計上していたが、ドラフト版の実用性や妥当性の検証を行ったため実施段階に至らなかった。フィールドトライアルを3年目に実施する予定で、予算もそのために繰り越した。 パフォーマンステスト実施にあたり、健常者 100名の参加への謝金、統合失調症患者100名への参加謝金、テスターへの賃金、リサーチマネジャーへの陳儀として使用する。 テスト実施後の評価者賃金、解析のための経費としても使用する。 テストの実施結果を踏まえ、テストについての学術的意義や臨床への応用可能性について、研究会議開催資金としても使用する。
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