2012 Fiscal Year Research-status Report
新規のレーザー衝撃波液体ジェットメスの心臓血管外科領域への応用開発
Project/Area Number |
24592049
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
川本 俊輔 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (20400244)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
中川 敦寛 東北大学, 大学病院, 助教 (10447162)
本吉 直孝 東北大学, 大学病院, 講師 (40375093)
齋木 佳克 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (50372298)
中野 徹 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (50451571)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 循環器・高血圧 / 心臓血管外科学 / パルスジェットメス / 冠動脈バイパス手術 |
Research Abstract |
心臓血管外科領域において、特に冠動脈バイパス術におけるバイパスグラフトの状態は重要である。本幹の不可逆的損傷を起こせばバイパス術における使用そのものが困難になるし、一見血流が維持されていたとしても動脈壁が熱等による損傷を受けていれば長期的に狭窄を起こしかねない。特に、内胸動脈は冠血行動態において主軸となる左冠動脈前下行枝に吻合されることが多く、バイパスグラフトして最も重要な位置を占め、これを損傷することなく確実に採取することは冠動脈バイパス術においてその短期および長期予後に大きな影響を与えることになる。このグラフトの採取にあたり、従来電気メスあるいは超音波メスが使用されてきたが、どちらも高熱を産生するため、慎重に使用した上でも熱損傷が不可避な場合がある。これに対し、レーザー衝撃波液体ジェットメス(以下パルスジェットメス)においては、推進力を持った水をあてることで組織を剥離・露出するため、熱損傷のリスクがない。また、組織の強度の違いにより、周囲組織の剥離・隔離を進めながら残存すべき再血管等は残るため、温存あるいは確実な個別の処理が可能となる。この特性は、心筋内を走行する冠動脈がバイパスのターゲットとなる場合に、この冠動脈を安全に露出することに有用な可能性がある。これらを実証するため、ブタを用いて実際にパルスジェットメスを使用した内胸動脈剥離、心筋内冠動脈の露出の実験を行い、その有用性について検討を行った。また、剥離する組織や露出する対象の破断強度を測定し、ジェットメスを当てた時の特性や安全性、パルスジェットメスの出力の調整等についての考察の基礎となるデータの集積を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
まずはパルスジェットメスという今まで使用経験のない器具を用いるにあたり、その感触を確かめる必要があり、ブタに試用した。ブタを全身麻酔下に仰臥位とし、胸骨正中切開にて左胸骨下にアプローチした。従来の電気メスを用いて内胸動脈を同定、ある程度の剥離を行った後に内胸動脈と周囲の結合組織の間にパルスジェットを噴射し、剥離の具合、剥離の際の留意点、出血の程度、出力の違いによる変化等を実感、検討した。また、心筋内走行をする冠動脈の剥離を行い、その有用性の検討、感触を試した。冠動脈前下行枝の中枢側が心筋内に埋没している場合があり、同部の冠動脈の安全な露出を試みた。心外膜については、パルスジェットメスで切開するのは困難なため、メス等鋭利な物を用いて切開したのち、パルスジェットをあてることで心筋を分けて冠動脈を露出させた。メスや電気メス、超音波メスを使用した場合と露出のしやすさ、安全性について感触を得た。これらの試用を数頭のブタについて行った。ただ、冠動脈の心筋内走行についてはブタによってその程度が異なり、表面しか走行しない例もあったが、その場合は表面の冠動脈を裏の方まで剥離した。次の段階としてブタで試用をしつつ、剥離する組織、露出する血管自体の破断強度を実際の値として測定し、実際の感触と比較、検討することとした。具体的にはそれまで通りブタを開胸し内胸動脈を剥離、心筋内走行の冠動脈を剥離し、その後内胸動脈・内胸動脈周囲の筋肉・冠動脈・心筋を摘出、これらに対し専用器具を用いて破断強度を測定した。データは2例について記録した。
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Strategy for Future Research Activity |
一つの目的である内胸動脈の剥離に関しては、パルスジェットメスの長所が生かされる面と短所となり得る点もある。このため、引き続きブタを用いて、パルスジェットメス単独での使用に加え他の器具を併用してより安全かつ効率的に用いる方策を探る。また、熱損傷がないというアドバンテージに対し、電気メスや超音波メスを使用して採取した場合の内胸動脈とを標本にて比較し、組織学的検討を加える方策もより実証的であると考える。さらに、ビーグル犬を用いた大腿動静脈の剥離・吻合実験にパルスジェットメスを用いて、超音波メスを使用した場合との吻合血管の内腔の評価を比較し、優位性が得られるかを検証する方策を考慮している。内胸動脈に関して、吻合の手技に関して、難点がないか確かめる必要もある。心筋内冠動脈の剥離に関しては、心筋内走行状態を同定・確保することにやや困難があるが、次の段階としては、これも病理切片による剥離の評価、さらに、この場合深く行き過ぎると心腔内に入ってしまい、心破裂・大出血といった重大な合併症を引き起こす危険があるため、どの出力でどういった使用を行うとその危険があるかを把握する必要がある。これに対しては破断強度のデータの解析や病理切片をもとに評価を行う。破断強度のデータ蓄積は可能であれば続ける。さらに、他の応用の可能性として、収縮性心膜炎における心膜の剥離に対する使用がある。収縮性心膜炎では、剥離すべき層の同定が難しく、心膜を残すと拡張障害が残ってしまい、逆に心筋に入り込むと心筋や冠動脈の損傷、出血といった事態を招いてしまう。この際、パルスジェットメスで至適な層の同定や剥離にパルスジェットメスが有効であれば、手術操作そのものや予後に寄与するものと思われる。仮にブタ等でそういったモデルが作られれば、試用して結果を残すことが可能である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
現在ブタを用いたパルスジェットメスによる内胸動脈剥離、冠動脈剥離の実験を施行しており、データを蓄積している。引き続き実験用のブタの費用が必要である。採取した内胸動脈を実際に冠動脈に吻合する際には、冠動脈吻合用の器械が必要である。また、パルスジェットメスで剥離したグラフトと既存のデバイスで剥離したグラフトの比較においては、病理組織標本の作製に加え、長期開存率やグラフト自体の変化をみるためにビーグル犬を用いた大腿動静脈の剥離・吻合実験が必要になる。これらの実験動物の費用、機材に費用が使用される。さらに、収縮性心膜炎手術への応用を考えた場合、前段階の動物実験として、収縮性心膜炎モデルが必要になる。その場合、ビーグル犬を用いた実験が心膜癒着モデルとして想定される。これらの実験における手技の補助、データの整理等に人的補助が必要となることも考えられ、その場合は人件費も必要となる。 24年度に関しては、作業効率の面からも各科合同での実験・運用部分もあり、すでにプロジェクト内としての充当がなされた状況下での作業があった。また、内胸動脈剥離、冠動脈剥離に適したノズルの改良・開発を行い、試用する予定であったが、年度内には現在の形態のノズルでの検証にとどまった。これらのことより、未使用額が生じた。
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