2013 Fiscal Year Research-status Report
小児重症心不全に対する小児用補助人工心臓および再生治療を用いた集学的治療の開発
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24592061
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
上野 高義 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 寄附講座准教授 (60437316)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
宮川 繁 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (70544237)
井手 春樹 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), その他 (90600122)
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Keywords | ヒト幹細胞を使用した臨床研究 / 医師主導型治験 / 対面助言 |
Research Abstract |
小児拡張型心筋症患者に対する自己骨格筋筋芽細胞シート移植による治療法を確立するために、幼若ブタを用いた骨格筋芽細胞シートを作成し、その特性を評価した。成人骨格筋との比較で、本治療法のメカニズムとなるHGF, VEGFなどのサイトカイン放出量は有意に幼若骨格筋のほうが高いことが分かった。また、長寿遺伝子であるSir1遺伝子発現が有意に高く、細胞シートの寿命が成人と比べ長いことが示唆された。このような特性を持つ骨格筋筋芽細胞シートを虚血性心筋症モデル幼若ブタへの移植を行った。治療前後で、左室機能の有意な改善を認め、組織学的にも血管新生効果やリモデリングの抑制効果が認められた。 臨床研究の実施に向け、ヒト幹細胞を使用した臨床研究指針に合致するようにプロトコルの作成を行い、院内倫理委員会を経て、厚生労働省ヒト幹細胞臨床研究審査委員会ならびに科学部会の承認を得て、小児に対する骨格筋筋芽細胞シート移植の実施体制が整備された。対象疾患は、小児重症心筋症で、左室駆出率が35%以下の、NYHAIII度以上の標準的内科的外科的治療に奏功しない患者を選択基準とした。本治療法の安全性並びに実施可能性を評価することを主要評価項目、治療前後の左室の機能回復並びにQOLの改善効果を服地評価項目として臨床研究を実施する。 また、本治療法を標準的治療法とするために、医師主導型治験へ向けたプロトコルの作成を開始した。平成26年3月には医薬品医療機器総合機構との治験前相談対面助言を実施し、治験実施のためのさらなる前臨床試験(本治療法の安全性試験の追加)を実施する予定である。平成26年度中に医師主導型治験を実施する予定で準備を進めている。 小児用補助人工心臓治療が、治験ならびに臨床研究でスタートしたために、装着前後での組織学的検討を行うために、心筋組織の採取と病理学的検討を開始した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまで当科にて開発してきた骨格筋筋芽細胞を用いた再生医療に関しては、成人では企業治験を行うまでになってきているが、小児では未だにfirst in humanの試験が行われていない。本研究の目的は、小児心不全患者に対する集学的治療体系を確立することであり、これまで成人で行われてきた治療法が小児に適応拡大されるための基盤を整備することができたといえる。この治療法は、心不全患者に対する治療の選択肢の一つとなりえると考えられる。前臨床研究では十分にその効果と安全性は担保できたと考えられており、Humanへの適応が可能な段階にあると判断する。臨床研究プロトコルも厚生労働省ヒト幹細胞臨床研究審査会に承認され、実際に研究が開始できる準備が整っているために、概ね順調に進呈していると考えられる。 平成26年度に予定していた、小児に対する補助人工心臓治療も開始されており、手術時に採取された左室心筋の病理学的検討から、心筋の線維化のメカニズムや線維化抑制、心筋再生因子の検討を開始した。特に、補助人工心臓装着の必要な患者の中で、劇症の心筋炎を起こした患者が数例あり、特殊な病理組織像を示していることから、炎症と線維化のメカニズムに着目した評価も開始することができた。 臨床面で小児重症心不全治療体系が確立されつつあるのと同時に、個々の治療を裏づけするエビデンスが本研究を遂行することで得られつつあり、概ね順調に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまで準備してきた骨格筋筋芽細胞シート移植の臨床研究への患者リクルートを行い、小児患者におけるfirst in humanを行うことが大きな課題となる。さらに、医師主導型治験実施に向けての体制づくりを行うと同時に、治験実施に必要な前臨床研究での安全性評価を実施する必要がある。平成26年度中に治験届を提出し、実施を予定している。 本研究でのもう一つの目的である、新規治療薬や新たな細胞sourceを用いた再生治療に関してさらなる研究が必要と考えられる。もともと細胞sourceの少ない小児患者において、適切な細胞源は何であるのかを検証する必要もあり、筋芽細胞シートとの比較で、より良い治療法の確立を目指す必要がある。 小児に対する補助人工心臓治療は開始したばかりであり、まだ、補助人工心臓のリカバリーをした症例もなく、移植に到達した例もないために、フォローアップの心筋組織の病理学的検討がなされていないのが現状で、今後、治療前後での比較検討が必要となる。また、劇症型心筋炎で補助人工心臓装着をした患者に対して、心筋の石灰沈着を起こした例が数多く認められ、新たな治療ターゲットになることを期待し、線維化との関係や炎症の程度との相関などを検証し、総合的な治療体系の確立を目指す。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度は、治験実施に向けてのドキュメント作成などの準備を行ったことと、動物実験がある程度進行したことでの組織学的評価や生化学的評価が中心となり、実験動物にかかる費用が減少した。補助人工心臓装着患者の検体に関しても、組織学的評価が中心であった。また、学会発表や論文投稿が予定数より少なかったことも理由として考えられる。 医師主導型治験に向けての前臨床研究で、大動物実験を追加する必要があることと、医師主導型治験実施に伴う経費が必要であると予想される。まとまった研究成果を発表する学会や論文投稿数が次年度には増加すると考えられ、それに伴って、必要な費用が増大すると考えられる。
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