2012 Fiscal Year Research-status Report
肺移植後急性肺損傷における血管内皮セレクチン機能の解析
Project/Area Number |
24592100
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
後藤 太一郎 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (80317148)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 祐介 慶應義塾大学, 医学部, 助教 (00445214)
大塚 崇 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40306717)
安楽 真樹 東京大学, 医学部附属病院, 助教 (70598557)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 肺移植 / 急性肺損傷 / Eセレクチン |
Research Abstract |
肺移植に関する知見が増加する一方、肺移植後の急性肺損傷は以前未解明の重篤な合併症である。本研究では、ラット肺移植モデルを用いて、急性肺損傷における白血球接着分子E-selectinの関与を検討することを目的とした。E-selectinはLPSなどの刺激に反応し、血管内皮上に特異的に発現する蛋白であり、主として、好中球の接着に関与する。近年、この接着分子が、炎症に伴う肺への好中球集積に重要な役割を果たしていることが分かってきた。しかし、肺移植後急性肺損傷におけるE-selectinの関与については、現在まで検証されていない。本年の実験では.近交系Lewisラットの同所性左肺移植モデルを用いて、移植後のグラフト肺血管内皮におけるE-selectin発現強度をフローサイトメトリーで定量化した。結果、E-selectinの発現は移植後4時間の時点で約9%の血管内皮細胞に認められた。他モデルでの検証と比較したところ、LPS肺炎4時間後に匹敵する発現量と考えられた。現在、E-selectin中和抗体を用いて、肺損傷軽減がえられるか検証中である。 そのほか、血流逆転肺移植モデルを12匹作成し、1ヶ月後、3ヶ月後での組織学的評価を行った。今までの結果では、末梢肺を中心にfibrosisが観察されており、新たなfibrosisモデルが開発されたと言える。6ヶ月後、12ヶ月後での組織学的評価を今後行う予定であり、E-selectin発現を含め、血流逆転に伴う病態を検証中である。 また、ラットにおいて、肺全摘術と肺葉切除術でのE-selectin発現率が有意に異なっていることも判明し、全摘術に伴う血管内皮ストレスに関して、新たな知見が得られた。この点に関しても、血清soluble E-selectin定量などさらなる検討を加え、病態解明、血清診断マーカーの開発を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々は、自らで開発した肺移植手技を用いて、近交系Lewisラットの同所性肺移植モデルを大量に作成した。その上で、肺移植後4時間でラットを犠牲死させ、グラフト肺の肺損傷評価を行った。また、グラフト肺のsingle lung suspensionを作成し、フローサイトメトリーを用いて、血管内皮分画でE-selectinの発現強度を検証した。方法として、scissorsによるmechanical digestionとcollagenaseなどによるchemical digestionを併用した。次いで、single cell suspensionに、蛍光標識されたCD45、CD105、E-selectin抗体を加え、細胞染色を行った。今回、CD45 negative,CD105 positiveの細胞集団がフローサイトメトリーで同定され、これら細胞集団はすべてVE-cadherin positiveであり、血管内皮細胞群であることが確認された。CD45 negative,CD105 positiveのpopulationにゲートをかけて、この中で、E-selectin positiveのcell populationがどの程度存在するかを定量的に評価した。また、自ら考案したsimplified cuff techniqueの変法を利用し、血流逆転肺移植モデルを作成した。このモデルでは、近交系Lewisラットの左肺を同所性に肺移植する際、レシピエントの肺動脈とグラフト肺の肺静脈を吻合、recipientの肺静脈とグラフト肺の肺動脈を吻合した。このモデルを長期に生存させ、慢性期にラットを犠牲死させた上で、組織学的検討などを行った。 以上の通り、おおむね研究計画書通りに、実験が遂行され、相応の実験結果が得られている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画としては、以下の4項目を予定している。 1.血清中可溶性E-selectinの測定を行い、急性肺損傷の血清マーカーとしての有用性を検討する。 2.WT(donor)→WT(recipient), E-sel-KO→WT, WT→E-sel-KO, E-sel-KO→E-sel-KO(WT: wild-type rat, E-sel-KO: E-selectin deficient rat)の4通りの肺移植を実施し、グラフト肺の肺損傷を測定し、比較検討する。Membranous E-selectin、血清中soluble E-selectinと肺損傷との相関を検討する。 3.WT(donor)→WT(recipient)の肺移植モデルにおいて、E-selectin antagonistや抗E-selectin抗体を投与し、肺損傷抑制効果を検証する。 4.血流逆転肺移植モデルを用いて、術後6ヶ月、12ヶ月の時点で組織学的検討などを行い、血流逆転に伴う病態をさらに検証する。また、治療として、肺血流再逆転手術を行い、病態改善が得られるかを検証する。 以上の計画に沿って、研究を進めると同時に、得られた知見は、国際学会や英字論文で発表する予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
未使用額の発生は効率的な物品調達を行った結果であり、翌年度の実験動物費用、消耗品購入に充てる予定である。 平成25年度に使用予定の研究費の大部分は①実験動物②実験試薬③実験器具の消耗品に充当する。①予備実験を含めた必要データを得るためのラットは本年度約210匹必要で、価格が一匹あたりおよそ4000円であり、飼育費を含め年間約90万円必要となる。②試薬はウェスタンブロッティング、免疫染色、抗体、ELISAなどで、年間約30万円を要する見込みである。③実験器具は手術ガーゼ、手袋、注射器などの消耗品で、年間約50万円程度を要する見込みである。また、研究結果を学会や論文で発表するため、諸経費として、約20万円を要する見込みである。その他、動物飼育委託料約20万円を含め、平成25年に使用する研究費は計210万円程度を予定している。
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