2012 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
24592421
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Research Category |
Grant-in-Aid for Scientific Research (C)
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
福原 浩 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (20292948)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
伊藤 伸子 東京大学, 医学部附属病院, 講師 (80332609)
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Project Period (FY) |
2012-04-01 – 2015-03-31
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Keywords | 疼痛 |
Research Abstract |
本研究の趣旨は、ヘルペスウイルス(HSV-1)を用いて、間質性膀胱炎や癌性疼痛など難治性疼痛の治療を行うことである。神経節に潜伏感染するという、HSV-1が本来有する特徴に着目し、潜伏感染時もモルヒネ様分子を持続的に発現させて難治性疼痛を緩和させるウイルスを作製することが研究目的である。治療のイメージとしては、疼痛部位にウイルスを注射すると、ウイルス自身が軸索を逆行性に後根神経節まで伝達していき、そこで潜伏感染してLATプロモータ下にβエンドルフィンが持続的に発現し、疼痛の緩和を図る、というものである。 本研究は、神経節に潜伏感染するという、ヘルペスウイルス(HSV-1)が本来有する特徴に着目している点が独創的である。ヘルペスウイルスを用いた先行研究は存在するが、あくまでも遺伝子を発現させるベクターとしての使用に限定されており、潜伏感染させて持続的に遺伝子を発現させたものではない。また、発現遺伝子として、モルヒネ様分子であるβエンドルフィンに着目した点も有用性で利点があると考えられる。感染効率が高いウイルスによる導入といえども、現実には感染効率には限界があり、感染した細胞中でのみ効果を発揮しても充分な除痛効果は得られない。これまで、抑制性の神経伝達物質や抗炎症ペプチドの研究が進められたが、どれも充分な除痛効果は得られておらず、我々は感染細胞以外でも効果を発揮する分泌型分子に注目し、その中でも、オピオイド系分子に着目した。δ受容体のエンケファリン発現型HSV-1が除痛に有効であるとの実験結果が報告されているが、後根神経節での除痛にはミュー受容体の方が重要であるとの報告が最近見られるため、ミュー受容体のβエンドルフィン(β-EP)を今回の研究の対象とした。 具体的には、上記の目的に合うHSV-1を作製し、マウスを使用した動物実験の疼痛モデルでの検証を行う予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成24年度には、既存のT-BACシステムを改変して、潜伏感染LATプロモータ下にβエンドルフィンを発現するウイルスT-03-βEPを作製した 3つの人為的遺伝子変異(γ34.5とICP6、ICP47)を加えた、遺伝子組換え型HSV-1を基盤として、まず、Cre-loxPとFLP-FRTの2つのDNA組換え酵素系を介した2段階の遺伝子組換えを用いて、様々な遺伝子を簡便に組み込むことができるT-BACシステムを完成させた。最初に用いるT-BACプラスミドは、前回及び前々回に作製したものを利用した。 次に、LATプロモータ下に遺伝子を組み込めるように操作したシャトルベクターSV-03を作製した。ヘルペスの潜伏感染については、詳細に調べられており、HSV-1についてもLATプロモータがウイルスの活動を停止した状態でも蛋白を発現することが知られている。LATプロモータはLAP1とLAP2から構成され、直接発現に必要なのはLAP1領域だが、持続発現にはLAP2領域が必要とされており、約1500塩基対から構成される領域である。 さらに、NGFのシグナルペプチドを結合させた、ミュー受容体のβエンドルフィンをSV-03シャトルベクターに組み込み、SV-03-βEP プラスミドを作製した。Cre組換え酵素と共に、このプラスミドとT-BACプラスミドとを混じることによって、T-BAC/SV-03中間体プラスミドを作製する。この中間体プラスミドをFLP発現プラスミドと共発現することにより、BACプラスミド部分が削除され、T-03-βEPウイルスが作製されることとなる。 ここまで研究計画の記載通りに順調に進行している。
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Strategy for Future Research Activity |
ここまで研究計画の記載通りに順調に進行しており、平成25年度には、新たに作製されたT-03-βEPの、動物実験における疼痛の評価を行う予定である。マウス足底に注射して、その神経後根でHSV-1抗体にて感染の有無を、ELISAにてβ-EPの発現の有無を確認する。さらに、下記の如くマウスにおける疼痛の評価を行う。 さらに、平成26年度には、新たに作製された疼痛治療用HSV-1の安全性を評価する。新たに作製したウイルスが臨床応用可能か否かは、その安全性が鍵となる。米国でG47∆の一世代前のG207の臨床試験を行った際には、マウスと共に、Aotus nancymae(ヨザル)という種類のHSV-1に極めて感受性の高いサルを用いて徹底した安全性試験を行った。その結果、サルとマウスは全く同じ傾向を示し、マウスで徹底した安全性試験を実施すればサルは必ずしも必要ないと考えられている。本研究で抗腫瘍効果評価の結果、実用性が高いと思われるウイルスに関しては、脳内、静脈内、腹腔内などの経路でdose escalationまたは可能最高量投与を行い、生存と症候、病理、PCRとウイルス培養によるウイルス組織分布、尿や血中へのウイルス排出などの評価を行い、臨床応用を目指す予定である。
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Expenditure Plans for the Next FY Research Funding |
平成25年度には、新たに作製されたT-03-βEPの、動物実験における疼痛の評価を行う。マウス足底に注射して、その神経後根でHSV-1抗体にて感染の有無を、ELISAにてβ-EPの発現の有無を確認する。さらに、下記の如くマウスにおける疼痛の評価を行う。 1)ホルマリンテスト(化学刺激による自発痛):右足底皮下に30G針を用いて5%ホルマリン溶液を投与し、右後肢へのlicking timeの持続時間を測定する。通常反応は2相性で、第1相はホルマリンによる直接刺激による反応、第2相は局所の炎症反応による侵害受容性興奮と脊髄後角に誘発される過敏化の相乗効果を反映し、モルヒネは第1相、第2相ともに抑制効果がある。 2)坐骨神経部分損傷モデルによる解析(Spared nerve injury model):麻酔下にて坐骨神経の枝である総腓骨神経と脛骨神経を結紮する。機械的刺激による著明な痛覚過敏状態が、術後長期間認められる。マウスを網の上に置き、馴化させた後、様々な重さのvon Frey フィラメントを下方より足底にあて触圧刺激を加え、足を上げる逃避反応を示すフィラメントの重さを測定する。痛覚過敏状態では、通常では逃避反応を示さない細いフィラメントで逃避反応を示すようになる。 3)CFA(Complete Freund adjuvant)による炎症性疼痛モデルによる解析:マウス 後肢足底にCFAを皮下注入し炎症痛モデルを作成する。これにより著明な痛覚過敏とアロデイニアが誘起される。 4)術後痛モデルによる解析:麻酔下にて右足底の皮膚・筋肉に切開を加え、足底筋層を持ち上げた後に筋を縫合し、皮膚を閉じる。術後、切開部近位の機械的刺激による疼痛が認められる。
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